米国企業家のベンチャーキャピタル


 ベンチャーネット'98の開かれた南カリフォルニアオレンジ郡から参加したMAZ Technologiesは、元々軍事技術として用いられていた暗号技術を商業化した。同社は、「ユーザのワークフローを中断することのない、容易なエンクリプション、デクリプションの提供」を目標に、96年に設立された。

 すでに市販されているIntelliGard? カスタム暗号ツールスイートは、ファイルレベルで暗号化でき、ウィンドウズ95やNTアプリケーションに統合できる。スマートカード技術によって、パスワード、暗証番号、エンクリプションキーをホストコンピューターやネットワークに保存する必要がない。

 すでに特許を申請中で、さらに2つの特許の申請を進めているところだ。個人的に調達した25万ドルの創業資金で製品開発を行ない、すでに1000万ドルの売上をあげているが、さらに大々的なマーケティングを行なうために、300万ドルを必要としている。

 ベンチャーネット’98では10数社のVCからアプローチを受けたが、希望額と提供額が合わず、ブリッジ(正式な資金調達までのつなぎ)資金としてエンジェル(個人投資家)から資金を得ることにした。「財政的に安定しているので、あと6〜9ヶ月待ち、会社の価値を上げてから、ベンチャーキャピタルを調達することにした」というのがクリス・マーン社長の戦略だ。ベンチャーキャピタル調達をあきらめたわけではない。

 マーン社長は、「我々はただ単に資金を求めているわけではない。VCとの相性も大事なので、お互いに適当かどうかを見極める必要がある」ともいう。VCが提供するのは、単なる資金ではなく、戦略的投資なのだ。

 同社には、すでにアジアを中心に海外からも引き合いが来ているが、アメリカ政府の暗号技術輸出規制のため、今のところ輸出ができない。輸出許可を取得次第、海外への販売を開始する計画だ。 今後、セキュリティ技術市場で主要プレーヤーとなり、1年半〜2年以内にIPOを目指している。

VCコミュニティ参加のための最大の留意点とは?

 さて、参加企業は異口同音にVCから調達するための鍵は、「VCコミュニティに積極的に参加すること」という。ベンチャーネット’98への参加も、VCコミュニティに参加するための一手段である。「VCコミュニティというのは小さなコミュニティであり、そこにいかにアクティブに参加できるかカギ」とOwners.comのコッチ氏は言う。

 また、ベンチャーネット参加後、3〜4社のVCからアプローチを受け、そのうちの一社はすでに投資がほぼ確定しているというある参加企業の最高運営責任者は「他社も興味を示していることを知らせること」が重要ではあるが、「あまり多くのVCと話を進めてはいけない」とつけ加える。

「20社は多すぎる。積極的に話をするのは3社が妥当でしょう」(ある参加企業の最高運営責任者)

 VCコミュニティというのは緊密であり、VCたちは常に情報を交換している。あまり八方美人になると、「あそこにも、ここにも話を持っていってるのか」ということになってしまうのだ。これまでに4150万ドルのベンチャーキャピタルを調達し、98年にIPOを行なったオンラインコミュニティのGeoCities会長デイビッド・ボーネット氏は、「脈のある投資家を見つけたら、他は忘れること」とアドバイスする。

 MAZ Technologiesのマーン氏は、「決断を急ぐべきではない。VCとの適性を見極め、こちらも相手を入念に選択すべきだ」とも言う。

 さらに出前のコッチ氏は「製品開発をO月に終わらせる」「売上高はOドル達成する」など、VCと約束したものについては、きちんと達成させることが大事だとも言う。「VCは、我々にそれができるかを常にテストしています」(コッチ氏)

「資金調達のための準備」でパネリストをつとめたアーティオスコーポレーション社長のジョン・キャリントン氏は、これまで5つの会社を起こし、総額1500万ドルの資金を調達した経験にもとづき、1)徹底的に下調べをすること、2)VCが聞きたがっていることを見極めること。たとえば、成長ポテンシャルを欲しているVCであれば、そこを強調する。3)常に次善策を練っておくこと。そのVCから資金を調達できなかった場合のために、他社との関係も大事にするためだ。

 一方、当のVCたちは、どのような基準で投資先を決めるのだろうか。起業家にとって第一の難関となるのが、VCに事業計画書を見てもらうこと。これをクリアするための留意点としてやはり、”資金調達のための準備”でパネリストを務めたミッションベンチャーズの共同経営者ロバート・キブル氏は、次のポイントを挙げる。

事業計画書にエグゼキュティブサマリー(概要)をつけること。VCのもとには身も知らない起業家から毎日のように多数の事業計画書が送られてくる。何十ページにもわたる計画書にすべて目を通している暇はない。多忙なVCにとって少しでも読みやすくすること。

バリュープロポジション。たとえば、既存のビジネスよりもコストを5割削減、効率を5割向上といった否定しがたい価値を提供するものであること。

市場ダイナミックス。すでに市場調査会社が報告書で取り上げている内容では遅すぎる。急速に伸びている市場であること。より優れた“ねずみ取り”を作るよりも、まったく新しい市場チャンスを創造する方がよい。インターネットは、まったく新しいビジネスモデルの出現を可能にした。

競争力のある市場参入障壁を設けること。事業計画書には必ず「競合」の項がなければならない。既存市場の競合会社、潜在的市場の競合会社を把握し、それに対する戦略を持っていること。自社の将来の製品と競合会社の現存の製品を比べるべきではない。相手も次の製品を開発中であることは間違いないため。

VCには、業界の人間、弁護士など、できるだけ人を通じて紹介してもらうこと。紹介を受けた方が、信用を得られる。投資コミュニティというのは信頼にもとづいた緊密なコミュニティであり、そこで地道に人脈を築いて信用を勝ちとっていくことが大事なのだ。

 アメリカでは、現在、起業家よりも、投資先を求めるVCの方が多いという日本の起業家にとってはうらやましい状況だが、だからといって誰もがVCを得られるわけではない。それには、、入念な準備、実績に裏付けられた能力、人並み以上の努力が必要なのだ。

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