米国企業家のベンチャーキャピタル活用法


 昨年11月4-5日、南カリフォルニアで、ソフト開発業者の業界団体、南カリフォルニアソフトウエア審議会の主催によってベンチャーネット’98が開催された。これは、資金を求めるインターネットやソフトウエアの起業家が、ベンチャーキャピタリスト(以下VC)や個人投資家と出会える場を設けるものだ

 当日、約100社の応募企業から厳選された10社が、投資家の前でプレゼンテーションを行なった。プレゼン参加企業は、ホールにそれぞれ展示ブースを設け、製品のデモを行なったり、訪れる投資家らと個人的に話すチャンスをつかめる。前夜に開かれたネットワーキングレセプションも、VCと個人的に親しくなる絶好のチャンスである。

 最近、アメリカでは、この手のベンチャーキャピタルフェアが盛んに開かれている。ベンチャーキャピタルフェア自体は、以前から開かれていたが、最近の傾向は、創立間もない企業を対象にしたフェアが増えているところだ。

 参加企業は、必ずしもフェアの間に資金調達を狙っているわけではない。どちらかといえば、コミュニティで知名度を高めるのが目的だ。フェアでプレゼンテーションをするには、厳しい選考過程にパスしなければならず、プレゼンテーションをするということは、それなりの実力、可能性を備えた会社である見なされるわけだ。そのため、プレゼン後、フェアには出席していなかったVCから連絡があることも珍しくない。

プレゼンテーションからVC審査までの流れ

 フェアのハイライトは、なんといっても参加企業によるプレゼンテーションだが、各企業に与えられたプレゼンテーション時間はわずか10分。この間にVCの関心を引きつけなければならない。プレゼンの順番や演出も戦略的に重要である。

 当日、プレゼンの幕を切ったのは、サンフランシスコにあるOwners.com。同社では、不動産業者を使わず、自分で持家を売却したい人のためのウエブサイトを運営している。自分で持家を売却することにより、平均9000ドルといわれる不動産業者に支払う手数料を節約できるというのが消費者にとってのメリットだ。アメリカでは、毎年、450万〜500万軒の中古住宅が売りに出され、このうち約2割が持ち主による売却と言われている。98年には、Owners.comが掲載した件数は10万件、99年には20万件にのぼる見込みだ。住宅ローン会社などと提携し、住宅ローンの申し込みや売価比較レポート、地域の学校レポートなども提供し、住宅購入ワンストップサイトを構築している。

 同社は、まだインターネットが広く普及する前の95年1月、元不動産業者のハンス・コッチ会長兼最高責任者とエンジニアのジャック・ライブリング社長が、自己資金で立ち上げた。その後2度、個人的に資金を調達したが、VCを調達するのは、今回がはじめてだ。

 コッチ会長は、「北カリフォルニアの投資コミュニティにはすでに名が知られ、地元のVCらとよい関係を保っている。次は、南カリフォルニアのVCコミュニティに進出したかった」とベンチャーネット’98に参加した動機を語る。

    調達目標額の400万〜500万ドルは、オフライン媒体の利用をしたマーケティングに費やす予定だ。「オンラインではすでに地位を確立した。今後は、インターネット指向ではない、一般大衆にも到達できるよう主流市場で地位を確立したい」というのがそのねらいだ。

 ベンチャーネット’98では、VCたちから非常にポジティブな反応が得られたという。そして結局、計12のVCからアプローチを受けたが、投資をしたいという話だけではなく、自分たちのポートフォリオカンパニーと技術提携や戦略提携を結びたいという申し入れもあったという。

 このうち、現在、2社がデューデリジェンス(投資対象として適切かどうかを判断するための調査のことで、技術、財務、経営陣、市場、競合状況などを分析評価、同社の技術が保護され、本当にその会社に所有権があるかどうかの確認など)を行なっているところだ。

 12月はVCらが数週間にわたるクリスマス休暇をとるため、進行が遅れているが、1月末までには回答が得られる予定だ。以前から話をしていたVCもいるが、ベンチャーネット’98への参加を機に話が大きく進んだという。

 過去2ヶ月に、同社では次のようなステップを踏んできた。

ステップ@事業計画書を要約した形のビジネスビジョンをVCに提出
ステップAVCによる電話インタビュー
ステップBVCが実際に会社を訪問し、技術やビジネスモデルをチェック、経営チームを評価
ステップC詳細なデューデリジェンス「特に経営チームが重要視されます」(コッチ会長)

 VCたちへのセールスポイントは、1)対象とする市場が巨大であること、2)これまでリーダーが存在せず、ブランドも皆無で、断片的にしか存在していなかった家主による売却市場のリーダーになれる可能性があること、不動産業界のAmazon.comになり得ること、3)取引の規模、4)ローン会社などとの提携機会が多いことなどだ。

 同社では、情報提供だけではなく、最終的には家の売買に関するすべての手続きができるサイト構築を目指している。同社の次のステップはIPOであり、99年中に行なう計画だ。


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