ガラスの天井うち破り
新しい経営スタイル生み出す女性たち
ハイテク大企業のトップに就く女性たち
空前の低迷に苦しむコンピューター業界では、業績向上を目指すヒューレットパッカード(HP)がコンパック買収を発表し、IBMに次ぐ巨大コンピューターメーカーが登場することになりそうだ。その会長兼CEOに就くのがHPの現CEO、カールトン・フィオリナ氏(46歳)だ。
フィオリナ氏が、99年、HPのCEOに就任した際には、アメリカでも話題となった。それは、フォーチュン500企業のCEOに女性が就いたのは初めてのことであり、それも女性がなかなか重要な地位につけないテクノロジー企業でのことであったからである。
同年、さらにエイボンプロダクツのCEOに中国系アメリカ人女性アンドレア・ジャン氏(当時41歳)が選ばれた。そして、今年4月には大手人材派遣会社、スフェリオン、8月にはゼロックスのCEOにいずれも女性が就任したところである。夫婦で共同経営するゴールデン・ウエスト・ファイナンシャルの共同CEOを含めると、フォーチュン500企業の女性CEOは、今年一気に5人となった。
彼女たちに共通しているのは、お飾り的にではなく、傾いた経営を建て直すために、その経営手腕を買われて抜擢されたことである。ゼロックスでは、売上が下落を続けており、損失も増大している。HPも、成長率が一桁台に落ち、硬直した企業体質を建て直すために、それまで上級管理職には社内からの生え抜きを選んできた伝統を破り、当時、通信機器大手メーカー、ルーセント・テクノロジーズのグローバルサービス・プロバイダービジネス部門の社長であったフィオリナ氏を引き抜いた。ルーセントおよびAT&Tで20年のキャリアを持つフィオリナ氏は、いずれはルーセントのCEOになるだろうと見なされていた人物だ。
同氏は、就任1年目、収益予想を達成したものの、2年目は予想を大きく落ち込み、株価も就任後3分の1まで下落した。現在、その経営手腕を疑問視する声が高まっている。経営再建がうまくいかなかった場合、男性であってももちろん非難を浴びるが、女性の場合、そこに「女だから」といった誹謗が加わる。
アメリカでは管理職の3割を女性が占めるに至っており、フォーチュン500企業の重役の12.5%が女性である。
最近の傾向は、これまで男性が独占してきたハイテク業界でも、女性が重要な地位を占めるケースが増えてきたことだ。データセンター事業で日本にも進出しているエクソダスの会長兼CEOは、IBMで29年のキャリアを積んだ女性である。そのほか、ルーセントのエグゼクティブ副社長兼CFO(最高財務責任者)、サンマイクロシステムズ社ソフトウエアシステムズ部門担当のエグゼクティブ副社長、シスコのインターネット・ビジネスソリューショングループの上級副社長、IBMの上級副社長、オラクルのエグゼクティブ副社長など、大手ハイテク企業でも上級管理職に就く女性が増えている。
それでもいまだに存在するガラスの天井
こうして確かにガラスシーリング(天井)に割れ目は入った。が、まだまだ砕けるには至っていないというのが、女性たちの一致した見解だ。
ある調査によると、男性のほとんどが、過去6年間に女性はプロフェッショナルな分野で目覚しい進展を遂げたと答えているのに対し、女性の多くは、ある程度の進展は遂げたものの、職場における女性の役割構造という基本的な問題は解決されていないと見ているという結果が出ている。
キャリア満足度は、男性が9割以上に達しているのに対し、女性は3分の2が満足しているに留まった。女性の多くは、同じポストに応募しても、女性の方がより多くの経験やより高い学歴を必要とされると答えている。
女性の昇進を阻止する最大の障害として、9割以上の女性が「男性優位の企業風土」と答えているのに対し、男性は「仕事と家庭の両立」と答えている。つまり、女性は、女性が昇進できないのは企業側の問題であると考えているのに対し、男性は女性個人の問題であるととらえているということだ。家事や子育ては、まだまだ女性の仕事とみなされているのである。
数では全体の26%を占めるが売上規模では4%
ガラスシーリングにぶちあたったため、または仕事と家庭を両立させたりするために、企業を離れ、独立する女性が増えているのは、万国共通のようだ。ILOの調査でも、多くの国で女性経営者が増えているという結果が出ている。
アメリカの国勢調査の結果によると、97年、女性が経営するビジネス(法人以外の形態を含む)は全米で540万と、92年に比べ16%増加した。これは、ビジネス全体の26%を占め、夫婦など男性と共同経営をするビジネスを含めると全体の43%に達する。ただし、売上規模を見てみると、女性の経営するビジネスは、92年に比べ総売上が33%増加したものの、全体の4%を占めるにすぎない。
業界別では、女性が経営するビジネスの55%がサービス、17%が小売と、伝統的に女性が多い業界に集中している。しかし、女性経営者がもっとも急速に増えているのは、建設業、製造業、輸送業など、男性優位の業界である。
女性経営者は、未だ資金調達で男性にハンディを負っている。銀行融資を受ける割合は、男性より少なく、クレジットカードに頼る割合が高いのだ。(株式)投資を受ける女性経営者は増えたものの、97年には、新規ビジネスを立ち上げる割合は、女性が男性の2倍であったにもかかわらず、女性が経営するビジネスに投資されるベンチャーキャピタルは10%に満たない。
男女の投資をミックスさせた経営スタイルの登場
70年代〜80年代、女性が企業で昇進するには、男性のスタイルを真似なければならなかった。権威的、ヒエラルキー、指令統制型、トップダウンの意思決定スタイルなどに象徴された男性の経営スタイルだけでなく、女性管理職は蝶ネクタイをするなど、服装まで男性を真似た。女性は野望やリーダーシップに欠け、協力的で、コンセンサスを求め、リーダーには向かないとされた。
しかし、こうした伝統的に女性特有といわれてきた資質が、現在、見直され、効果的な経営スタイルには必要であるといわれるようになったのである。情報革命が従来の多くの価値観を覆し、経済がグローバル化した今、女性であろうが、男性であろうが、古い経営スタイルのままでは、生き残れないというのだ。
2000年に出版された「Why The Best Man for the Job is a Woman(なぜ、その職に最適の男性は女性なのか)」では、14人の上級管理職の女性の話を中心に、彼女たちが備えている、新しいパラダイムのリーダーシップの条件である7つの資質を分析している。新たに必要なスタイルは、経済の変化に合わせ、伝統的に女性的、男性的といわれてきた資質やスキルをうまくミックスしたものだというのだ。
女性経営者財団の調べでは、女性経営者の方が、男女バランスのとれた雇用をするという結果が出ている。女性経営者の従業員は、平均して男女半々であるのに対し、男性経営者の従業員は、男性62%に対し女性38%という男性偏向の結果が出ている。女性経営者が雇う女性従業員の割合は、業界にかかわらず、全米平均よりも高い。
HPの女性社員数は全体の32%だが、部課長3人のうち1人が女性であり、上級管理職11人のうち4人が女性である。「ワーキングウーマン」誌が選ぶ「女性エグゼキュティブのための企業ベスト25社」の第1位に選ばれているエイボンは、社員の74%が女性であり、部課長や取締役の半分近くを女性が占める。自分も2児の母であるCEOは就任後、母親の働く環境を整えるために、フレックスタイム規定を向上させる努力をしている。
女性にとって働きやすい環境を作るには、女性の重役、上級管理職を増やすことがいちばんのようである。
有元美津世/N・O誌2001年10月号掲載
Copyright GlobalLINK 2001
|