ベンチャー企業向けロイヤルティベースの新しい投資方法
日本では、アメリカでは創業資金が簡単に入手できると考えられていますが、アメリカでも、ほとんどのスモールビジネスは、創業資金を貯金や家族知人からの借金で捻出します。
銀行は、スタートアップは相手にせず、担保となる有形資産がなければなかなか融資は行ないません。一方、ベンチャーキャピタリストは、一般に100万ドル未満の投資には興味を示しません。
80年代後半、投資判断を誤り、資本利益率が悪化したアメリカのベンチャーキャピタリストらは、投資に消極的となり、長期的な成長の見込める、より安全で、より早く資金回収ができる投資先、つまりより成熟したビジネスを求めるようになったわけです。
こうして金融機関からもベンチャーキャピタリストからも相手にされない起業家らのために、総収入に対する歩合(ロイヤルティ)を徴収するというユニークな投資方法を考え出した会社がボストンにあります。
ロイヤル・キャピタル・ファンド(RCF)の対象投資額は、5万ドー30万ドルで、今までの最高投資額は20万ドル。同社では、前月の売上に対し、5-10%のロイヤルティを毎月徴収します。ロイヤルティの率は、元本が投資後9ー18ヶ月で回収されるように設定されます。一定の返済期間は設けられず、返済は、返済額が投資額の5倍に達した時点で終了します。たとえば、投資額が10万ドルとすると、返済額は元本を含めて50万ドルとなるわけです。
一見、高い融資のように見えますが、同社のフォックス代表は、「株式投資家は、5年間に投資額の10ー20倍の利益を要求するが、ロイヤルティ投資の場合は投資額の平均3.4倍(税引き後)」で、決して高くはないと言います。
もう一つ、起業家にとっての大きなメリットは、株式投資のように、所有権や経営権を失うこともなければ、株主に株式公開や会社の売却を迫られることがないという点です。
投資家にとっても、自然に清算されるため、会社の売却や株式公開などのエグジット・プランを用意する必要がありません。少なくとも毎月現金が返済されるためリスクは軽減します。また、株式保有の場合、会社に成長してもらう必要があり、起業家の経営力が問われますが、ロイヤルティベースであれば、初めの3ー5年、最初の製品さえ成功すれば、資金は回収できます。
一方、売上高にかかわらず、毎月の元本・金利返済が必要な金融機関による融資と比べても、返済額は売上高に応じるという利点があります。さらに、融資のように、個人による返済保証が必要とされません。特にコンピューターソフト開発会社などは、有形資産がないため、銀行から融資を受けるのはほとんど不可能です。RCFでは、知的財産に価値を見出すため、銀行では考えられないような投資ができると言います。 この新しい投資方法は、フォックス代表がスモールビジネス向けコンサルタントをしていたときに生まれました。クライアントが、一時間200ドルのコンサルティング料を払えないため、料金を半額にし、「請求書を送っておくから、売上が入ったら、その5-10%を支払ってくれ」と頼んだところ、この方式がうまく行ったということです。
そこで、同氏は、共同経営者と資金を出し合い、計50万ドルの資金でRCFを開始しました。92年に初めてマルチメディア・ソフト開発会社とレーザープリンター用トナーカートリッジのメーカーに、35万ドルを投資。94年には、さらに28人の個人投資家から260万ドルを集めました。2社とも、3年以内に、元本・利益分とともに完済したということです。
RCFでは、この他、Tシャツ製作会社、グルメアイスクリーム製造会社、インターラクティブ・ゲーム製造会社など、これまで5社に投資してきましたが、このうちの2社は、すでにつぶれています。「起業の際に投資した場合、10社に投資すれば、5年以内に5ー7社つぶれる」と言われているため、これは平均的な数字だとフォックス代表は見ています。
RCFが、投資先を選ぶ基準は、1)製品が既に完成していること、2)市場が既にあること(新たに市場を教育するといった製品は不適切)、3)粗利が大きいこと(少なくとも50%)という点です。株式資本とは異なり、市場や売上、成長率が大きいというのは、必要条件ではなく、売上が確実に予想できる方が重要となります。
同社では、投資先を選考する際に、まず電話で話をしますが、15分も話をすれば、さらに検討すべきかどうか判断がつくそうです。最終選考段階では、元FBI捜査官の私立探偵を雇い、アル中歴はないかなど、運転歴や法廷記録まで、経営者の経歴を詳しく調査します。さらに、リスク軽減のために、ソフトや技術などの知的資産に対し担保権を取得します。
RCFでは、現在、310万ドルを個人投資家から集めていますが、投資家の4分の3が起業家だということです。「起業家のことを本当に理解しているのは起業家であり、自分で事業を起こしたことのない投資家には、売上に対するロイヤルティベースという考えが理解できない」(フォックス代表) 同社では、ロイヤルティの23%を管理費として徴収し、残りの77%は有限パートナーたちに分配します。返済額が投資額の3倍にのぼると、同社の取り分が30%、有限パートナーへの配分が70%となります。 資金調達に悩む起業家のためにも、日本にもこのようなファンドの設立が望まれます。
文・有元美津世 ダイヤモンド倶楽部「ファックスライン」 97年6月9日号掲載
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