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オンライン薬局


メーカーとの処方薬販売をめぐる戦い



 アメリカでは、近年、カナダとの"ドラッグ戦争"が物議をかもしている。ドラッグといっても麻薬ではない。処方薬をめぐる戦いだ。

 アメリカは先進国で唯一、処方薬に対し政府の価格規制がない。そのため、同じメーカーの同じ薬がアメリカでは他国の2〜5倍で販売されている。過去3年だけでも、主な処方薬の価格が3割以上上昇した。

 一方、アメリカには国民皆保険制度がなく、大半の人は雇用主を通じて健康保険に加入する。失業者や退職者には保険料が大きな負担であり、国民の15%以上にあたる4500万人が健康保険に加入していない。公的保険には低所得者向けのメディケイドと高齢者用のメディケアがあるが、このメディケアも、治療費の一部をカバーするだけで、処方薬もカバーしていない。高齢者の4割が処方薬をカバーする保険に加入しておらず、持病を抱えた年金生活者には非常に重い負担となっている。

 こうした保険制度の違い、両国の価格差を利用して、新たなビジネスが誕生している。カナダの処方薬をアメリカの消費者に販売するオンライン薬局だ。インターネットが登場するまでは、国境近くの住民はカナダやメキシコに出向いて処方薬を購入していたが、今やネットを通じ、100万人以上のアメリカ人がカナダから7億ドルにのぼる処方薬を購入しているといわれている。


価格差を利用してカナダから処方薬を販売


 コロラド州にあるカナディアン・メドUSA(CMUSA)(www.canadianmedusa.com)は、そうしたオンライン薬局のひとつだ。創立者のボザース社長は元公認会計士。義母がカナダから処方薬を購入するのを手伝った際に、ビジネスチャンスを見出した。「義母は典型的なアメリカの高齢者--年金暮らしで、メディケアで処方薬はカバーされないため、高騰する薬価に困っていたという意味で」。そこで、同氏はカナダからの処方薬通販について綿密に調査したところ、カナダの処方薬を合法的に輸入することができると確信。カナダのトータルケア・ファーマシー社(TCP)と提携し、カナダの処方薬通販を開始した。

 CMUSAでは、アメリカに住む顧客から注文と処方箋を受け取るとTCPに転送。カナダの医師が処方箋と問診表をチェックし、処方箋に署名してカナダでの処方を可能にする。処方薬はTCPから直接顧客に郵送される。

 CMUSAでは独自のコールセンターを持ち、顧客サービス係17人を抱えており、単にウエブサイトを掲げているだけではない。「顧客の大半が高齢者なので、顧客サービスがとりわけ大事なのです」とボザース社長は語る。海外ではなく、アメリカ国内の業者から購入できるというだけで安心感を覚える人は少なくない。カナダ所在のオンライン薬局とちがい、顧客は小切手で支払いができるという利点もある。


製薬メーカーによる攻防戦

  CMUSAをはじめ、カナダ、アメリカの多数のオンライン薬局に製品を供給するTCPは、オンライン薬局の中でも大手だ。独自でもクロスボーダー・ファーマシー(www.crossborderpharmacy.com)など複数のオンライン薬局を展開している。

 創立者のロバートソン氏は薬剤師。自ら薬局を経営していたが、薬局用ソフトを開発したのがきっかけで、オンライン薬局の可能性を見出し、2002年にTCPを設立した。

 製品は主にカナダ国内のメーカーや卸売業者から調達しているが、メーカーの規制によって調達が難しい製品は一部薬局からも仕入れている。また、最近、イギリス、オーストラリア、イスラエルなどからも調達を開始した。

 これはメーカーが、カナダからアメリカへの処方薬の逆輸入を食い止めるために、オンライン薬局への販売を禁止するという処置を取っているためで、今年に入り、アメリカに処方薬を販売する小売業者に供給した卸売業者には供給を打ち切るというメーカーも出てきた。こうした動きに対し、ミネソタ州の法務長官が独禁法違反でメーカーを訴えたり、高齢者のグループがメーカーに対し集団訴訟を起こすなど、処方薬をめぐるバトルは激化している。


自治体もカナダから輸入

 TCPでは独自開発ソフトで、処方箋が顧客、医師、コールセンターの間で迅速かつ正確に処理されるのを確実にしている。顧客からファックスされた注文書や処方箋は自動的にデジタル化され、即座にコールセンターのスタッフや医師によってオンラインで閲覧可能となる。郵送された注文書や処方箋もデジタル化されている。

 顧客の大半が高齢者であるため、注文はネットよりも、ファックスや郵送が主体だ。「同社はオンライン薬局ではなく、処方薬の通販会社なのです」とバートソン社長は語る。

 IT化の進む同社では、競合他社にも管理業務用にITソリューションを提供している。 設立当時、従業員5人、800平方フィートだった本社は、2年後の今、従業員200人、2万8000フィートに拡大している。黒字転換も早かったという。

 職員や退職者向け医療費で財政が圧迫されているアメリカの自治体では、薬価削減のために、こうしたオンライン薬局を利用するところが増えており、TCPでも、ミネソタ州職員やボストン市職員などに処方薬を供給している。今後、自治体だけでなく、労働組合や企業への供給を拡大していく予定だ。


業界は淘汰へ

 現在、アメリカでは個人の使用に限り処方薬を輸入してよいということになっているが、これを完全に合法化しようとする動きがある。しかし、製薬メーカーが他国での供給を削減し、供給が足らなくなければ、元も子もない。

 すでに、メーカーの対抗策でカナダでの仕入価格が上昇しており、「TCPのような大手では上昇分を自社で負担できるが、小規模のオンライン薬局ではむずかしい」とロバートソン社長はいう。ボザース社長も「オンライン薬局業界では、すでに淘汰が始まっており、この1年ほどで小規模のオンライン薬局は廃業に追い込まれるだろう」という。もちろん、両社とも生き残る自信がある。

 法改正により2006年にはメディケアが処方薬を一部カバーするようになるが、それでも個人の負担は大きい。「それまで待っていられない」という高齢者の声も多い。アメリカの保険制度が変わらない限り、国境を越えたビジネスは続きそうだ。

有元美津世「ベンチャーリンク」2004年11月号掲載
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