コミュニケーション・コンサルティング
ゾーン・コミュニケーション
- 代表--------フラン・ゾーン
- 設立-------- 1991年
<政治家・会社重役などにコミュニケーションを指導>
「人があなたをどう見るかは、9割が第一印象で決まります。第一印象というのは、たいてい会ってから90秒で築かれる。しかし、その印象を変えるには、その後、何度かその人と会わねばならない。何ヶ月もかかるのです」と第一印象の重要性を語るのは、ゾーン・コミュニケーションのフラン・ゾーン氏だ。
アメリカでは、イメージ・コンサルティングや自信向上のためのトレーニングなど、様々な研修事業が盛んであるが、ゾーン氏はサンフランシスコで、コミュニケーション・コンサルティングおよびメディア・トレーニングを行なう。芸能人、政治家、会社重役などを対象に、効果的なパブリック・スピーキングの仕方や、テレビなどのメディアへの戦略的な対応方法などを指導するのが主な仕事だ。
ゾーン氏は、元TVラジオ・プロデューサー、大手電話会社の広報担当シニアマネージャーを勤め、またPR会社や俳優のエージェンシーを設立したこともあり、マスメディアの世界であらゆる職種を経験してきた。87年にローマ法王がロサンゼルスを訪れたとき、その高官にメディアへの対処法を指導したこともある。
「パブリック・スピーキングというのは、会話。たとえ、聴衆が黙っていても、話し手は、常に聴衆と会話をしているのです」
「重役や政治家など有名人は、スピーチをするときに、スピーチライターを使う。これは、スピーチによって何を達成すべきかということを理解していない証拠。原稿を読み上げるのは、コミュニケーションではない。私は、コミュニケーションを釣りにたとえるが、竿を振って耳を釣り、こちらに傾けさせることが鍵」
「コミュニケーションというのは、どうやって物を売るか、どうやって契約を取るかということではない。相手とどうやって“つながるか”ということです。重要なのは、‘この品物を買ってくれるだろうか?’ではなく、‘この人は、一体どういう人なのだろう?’‘私はこの人にとって何であればよいのだろうか?’」
効果的なコミュニケーションのコツは、まず、聴衆・話相手のことを知ることだという。「彼らは何を前提としているのか。彼らが恐れていることは何なのか。何を期待しているのか。そのためには、自分はどうすべきか。そして、自分はどのような結果を持ち帰りたいのか」を見極める。
そして、「私はあなたの必要なものが何かを理解していますよ。私はあなたの必要なものを持っていますよ。私は、あなたが必要としているものなのですよ」というメッセージを潜在意識に訴える。
ゾーン氏は、エグゼクティブが転職をするときの面接の指導もするが、あるエグゼクティブが、国際的ポストの面接を受けたときのことだ。「その会社のエグゼクティブというのは、皆、少なくとも7年はその会社に在籍しており、その会社にとっては、会社のことを熟知しているということが重要なわけです。ということは、新参者の彼は、会社のことを知らないという点でマイナスです。しかし、彼は、6年間、その会社の顧客だった。そこで、会社経営に顧客の視点を持ち込めるという点を面接の際に強調する作戦を取りました」
<環境作りを含めた演出力>
さらに、効果的なコミュニケーターになるには、「自分にとって何が効果的か」、つまり独自のスタイルを開発することだという。「独自のスタイルというのは、話し方、歩き方、声のトーン、ジェスチャーなどすべてをひっくるめたもの。つまり、あなたをあなたらしくしているもののこと。特に自分が欠点だと思っていることが最大の財産」とゾーン氏はいう。 自分のスタイルを開発するには、まず自分自身を知ることだが、それには、自分の長所短所を含め、すべての特徴を洗い出してみること。そして、常に人からのフィードバックが必要だという。
ゾーン氏の研修では、ビデオによるフィードバックが使用される。研修内容により、時間・日・月・プロジェクト単位など、料金体系は様々だが、こうした研修の料金は一日約2500ドルということだ。
ゾーン氏は、ゾーン・メソッドョというコミュニケーション方法を用いるが、「スピーチをするときに事実のように聞こえる短い文章を使う」、「視覚的サポートや資料など目的を達成するために必要な環境を作りをする」など実践的なアドバイスから成っている。
「相手に伝わるメッセージというのは、その8割が実際のスピーチ以外の部分から成ります」 これには、会場の大きさ、自分の体の大きさなど、いろいろな環境が含まれる。小柄なゾーン氏の場合、聴衆の前で自分を大きく見せるために、呼吸法や姿勢、会場の大きさ、使用する視覚機器の種類まで考慮に入れる。
その他にも様々な演出が必要だ。彼女が男性ばかりの重役会議に出席したときだ。その中で一番の有力者に電話し、「近所だから一緒に行きましょう」と誘ったという。というのは、会議に彼と現れることによって、「彼女は彼の信頼を得ている。彼女の言うことは間違いないだろう」という潜在的メッセージを他の出席者に与えるためだ。
また、会議での座席の位置も大切だという。「一番有力な人の向かいに座ること。視線を合わせ、自分の言うことにその人をうなずかせることが肝心」 メモを回せるという意味で、横に座るのも同様に有効だそうだ。
<今後より重要になる企業のイメージ戦略>
こうしたコミュニケーションスキルは、メディア・トレーニングにも通じる。
ゾーン氏は、企業のメディアへの対応の仕方を見て、その企業の将来がわかるという。「その会社がどれくらい意識が高いか、ビジョンを持っているか、スポークスパーソンが自分の言っていることのインパクトを理解しているか等、その企業の文化が映し出される」
「ある企業では、そこの幹部がメディアで話をするたびに、株価が落ちていた。彼はコミュニケーションの仕方を知らなかったんですね。彼が口を開くたびに、市場を不安にさせていたんですよ。コミュニケーション能力というのは、自社の株価にも影響を与えるくらい重要なのです」
ゾーン氏は、広報のことを‘メディア・マーケティング’と呼ぶ。広報部というのは、どの会社でも軽視されがちだが、これから広報を活用できない企業は伸びないという。「広告というのは、もはや最高の宣伝手段ではなくなった。広報の方がコストがかからない上に、30秒のTVコマーシャルよりも影響が長続きする。広告と広報がバラバラに動いていては、どちらも目的を完全に達成できない。広告というのは‘買う’ものだが、広報というのは‘影響を与える’もの。広告が買えないものは、広報で影響を及ぼすというように二つを戦略的に合わせれば相乗効果が得られる」
ゾーン氏は、今年初め、大企業をスポンサーとして集め、大々的なセクハラ防止キャンペーンを展開した。「私は‘セクハラは止めるべきだ’といって企業を回ったわけではない。‘当社は働きやすい生産的な職場を提供しています’というイメージを築きませんかと持ちかけた」 最初にスポンサーに名乗り出たのは、化粧品会社を営む起業家だったが、「彼の顧客はほとんど女性であり、セクハラを許さない企業というイメージが、会社にとってどれだけ有益かを理解していたのです」
アメリカでは、ここ数年、「当社は、責任ある地域社会の一員です」というメッセージを地域社会に伝えることが経営戦略において非常に重要になっている。「これから21世紀にかけて、私のサービスに対する需要はますます増加すると思います」とゾーン氏は語る。
概してPRの不得意な日本企業も、これからのグローバル市場では積極的にイメージ戦略を取り入れていく必要があるだろう。
取材・文-----有元美津世
ベンチャーリンク誌95年11月号に掲載
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