在宅ケア

コルビーケア・ナース株式会社



<10年間で急成長した在宅ケア--すでに淘汰の時代に>

急速に伸びるアメリカの在宅ケア市場は、今年、収益総額が260億ドルに達すると予測されている。全米在宅ケア協会によると、全米で約15、000の在宅ケアサービス会社が、計700万人の患者を看護しているそうだ。また、看護婦、セラピスト、ヘルパー、ソーシャルワーカーなど産業就労者数も65万人を越えた。

 「この業界は過去10年で目覚ましい成長を遂げた」というのは、ロサンゼルスでコルビーケア・ナースを営むキャロリン・コルビー社長だ。「アメリカでは、83年頃、政府が医療費削減のために、入院日数の短縮を強制し始めてから、在宅ケアが盛んになりました。それまでなら2週間入院できたものが、5日に短縮され、患者は完全に治癒する前に病院を去らなければならなくなったのです」 

20年前に看護婦として医療業界に入ったコルビー社長は、その後、最大手の在宅ケアサービス会社に看護部長として入社、全米45支店を監督する業務担当副社長を務めるに至った。別の在宅ケアサービス会社に移った後、取締役を務めたが、その会社の社長が亡くなったのを機に、独立を決意。「当時、在宅ケアというのは新産業で、非常に儲かっていた。政府が100%医療費を負担し、規制も緩く、誰もが利益をあげることができた」 とは言え、購入したばかりの自宅は、銀行から借金するための担保にもならず、資金ゼロの苦しいスタートだった。

 ところが、88年に創業してまもなく、カリフォルニア州は不景気に見舞われ、州政府は医療費をカット。同時に規制も厳しくなった。また、参入企業が増加し、競争は一挙に激しくなった。

 同社では、一年目から100万ドルの売上があったが、利益や集金のことに無頓着だったコルビー社長は、初年度、利益をいくらあげたのかも把握できずにいた。彼女は経営の勉強をするために、エグゼクティブMBA(経営学修士)課程に入学。自社の5ヵ年経営戦略計画を立てたり、マーケティングに関して実践的な勉強をした。「私はそれまで会社にいるのが6割、外に出てマーケティングに割く時間が4割でしたが、マーケティングの重要性を学んでから、時間配分が逆になりました」 また、ターゲット市場を絞ることの重要性も学び、「専門分野の分かれていない在宅ケア市場で、他社が手掛けていなかった小児患者とエイズ患者をターゲットにすることにしました」 つまり、ゼネラリストからスペシャリストに転向したわけだが、競争の激化した現在、ゼネラリストの業者は、苦戦を強いられているという。

 同社の顧客は、支払方法によって3種類に分かれる。第一のグループが、メディケアと呼ばれる公的医療保険の利用者と、メディキャルと呼ばれる低所得者向けカリフォルニア州医療保険の利用者。第二のグループが、HMO(健康維持団体)と呼ばれる私的医療機関の会員。(会員は、メンバーの医療機関を利用する。)そして第三のグループが私的保険の利用者を含む個人払いの人たちだ。(アメリカでは、高齢者と低所得者向け以外に公的医療保険がないため、国民はHMOなどを含めた私的保険に加入する。)

 患者の内訳は、メディケア・メディキャル部門では、メディケア患者(高齢者)の占める割合が4割弱、小児患者が6割、エイズ患者が2割。HMOを含む私的保険部門は、7割が小児患者、2%がエイズ患者から成っている。

<成功するためのポイント>

アメリカの在宅ケアサービス会社には4種類あり、全米に100支店あるような大型チェーン、病院の付属機関、非営利機関、そしてコルビーケアのような非系列会社だ。コルビーケアは、個人経営会社でも大手と競争できるように、カリフォルニア州にある在宅ケアサービス会社7社で、全米非系列看護ネットワークを組織した。同ネットワークでは、HMOなどへの営業を積極的に行なっている。

 コルビーケアでは、約250人の派遣社員がいるが、その4割がLVN(日本でいえば準看護婦)と、25%がRN(正看護婦)、そして残りがヘルパーから成る。

 メディケアやメディキャルでは、一回の患者宅訪問(約2時間)に対し、政府から110ドルが支払われる。同社では、そのうち45ドルを看護婦に支払い、さらに10ー15%を福利厚生費にあてる。自己負担の患者に対しては、一時間あたりの料金が、RNを派遣した場合30ドル、LVN25ドル、ヘルパー18ドル、買物や洗髪などを行なうコンパニオン7.75ドル、住み込みのコンパニオンの場合、一日80ドル。同社のコスト内訳は、人件費が6割弱、他の経費が2割、税引前の利益が2割ということだ。

 在宅ケアサービス会社の運営、特にメディケアやメディキャルの患者を扱うには、様々な認可が必要とされる。従業員数、患者宅への訪問数、ソーシャル・ワーカーや医師の数など書類上の規準を満たした後は、政府の検査官による訪問検査に合格しなければならない。それも、連邦政府と州政府と別々の認可が必要だ。さらに、規制内容は頻繁に改定されるため、それへの対応も必要だ。認可は営業する郡ごとに与えられるので、現在、ロサンゼルス郡で認可を受けているコルビーケアでは、他の郡で営業する場合、新たにその郡の認可が必要となる。

 「80年代初期、政府は医療費削減のために在宅ケアを奨励したが、結局、医療コストを在宅ケアに転移したに過ぎなかった。今では、在宅ケア費を削減するために、患者に一部負担をさせたり、今は別枠になっている病院関連支給費と在宅ケア支給費を一本化しょうという動きが出ている」 また、HMOもコスト削減のため、かつては患者一人あたりに対しいくらと払っていた医療費を、今は500人の患者に対し1万ドルといった均一割当制を取るところが増えているそうだ。つまり、在宅ケアサービス会社にとっては、決められた額内でサービスを提供しなければならず、リスクが増したことになる。

 資本なしで始めたコルビーケアの場合、「資金がなくて人を雇えないというのはマイナスだったが、反面、スタッフが少なく、固定費が少ないということは、現在の医療費カットの嵐の中、プラスに転じた。80年代に大型化した大手は、現在、大幅なダウンサイジングを強いられている。当社では、社員を一人増やすだけで、収益を倍増することができる」

 競争が激化し、淘汰が起こりつつある中、毎年着実に売上を伸ばしてきた同社では、98年には収益が500万ドルに達すると予測している。コルビー社長は、「この業界で成功するには、第一にターゲット市場を絞ること、第二に高質のケアを提供でき、さらにそれを証明できること、そして第三に費用効果を高めること」 加えて、業界で何が起こっているかを常に把握していることが鍵だという。「これは基本的なことのようだが、できていない会社の方が多い」 というコルビー社長は、やはりビジネススクールで、業界団体に属して、業界の動きを常に握っていることの重要性を学んだという。「私はいろいろな会議で講演をすることが多いが、講演をするためには、下調べをしなければならない。そこで業界の勉強ができる。また、全米在宅ケア協会の会員として、毎年ワシントンに行き、議員に本業界のニーズを訴えます」 また、最近、カリフォルニア州在宅ヘルスサービス協会の理事にも選ばれ、「これで、州の規制改定などの情報を競合会社よりも、いち早く入手し、迅速に手を打つことができる」

 政府による医療費削減はさらに続くと同時に、「私のようなベビーブーム世代が老い始めています。この業界はまだまだ伸び続けますよ」というコルビー社長は、他の郡への進出や一定の民族グループをターゲットにするなど、新たな展開を計画している。
取材・文-----有元美津世
ベンチャーリンク誌95年11月号に掲載
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