マルチメディア

グラフィックス・ゾーン株式会社


<必要なときに必要な情報を>

 「競争の激しい今日のビジネス世界では、いかに迅速に効果的なコミュニケーションを行なうかが鍵であり、それを可能にするのがマルチメディアなのです」と語るのは、マルチメディアのベンチャー企業、グラッフィックス・ゾーンのチャック・コートライト社長だ。
 さらに、同社のマルチメディア制作営業ディレクターのボブ・ワイアット氏は、「誰もが忙しく、情報が溢れる今日、ほしいときにほしい情報が得られる--それがマルチメディアの威力です」と語る。
 同社は、ワーナー・ブラザーズやコロンビア・レコードと組み、プリンスやボブ・ディランなどのアーティストのインターラクティブ・ミュージックCD-ROMを出版したほか、初のマルチメディアを使用したマルチメディア学習用インターラクティブCD-ROM「The Guided Tour of Multimedia」などの開発制作をしている。9月には、アメリカの有名コメディークラブThe Improvと共同で開発した「The Improv Presents Windowsョ 95 for the Technically Challenged」 を発売した。これには、コメディアンが登場し、楽しくウインドウズ(R)95が学べるようになっている。
 さらに、同社では、今夏、フランス企業の依頼により、初のバーチュアル・ソフトウエア・ストア「Explore Us」を開発した。これは、事実上の電子スーパーストアだが、まず、マウスをクリックすると、画面に笑顔の店員が現われる。ユーザーは、ナビゲーターの役目を果たす電子ショッピングカートを押して、画面上の店内をショッピングする。ほしいソフトが見つかれば、そのデモを見て、注文することもできる。また、そのソフトと手持ちのハードの仕様が合うかどうかを自動的にチェックする機能も搭載されている。ハードのアップグレードが必要な場合は、いくら費用がかかるかも示してくれるということだ。注文はモデム、または電話を通じて行われるが、クレジットカード番号を渡すと、CD-ROMに搭載済みのソフトを解除するためのコードが渡される。さらに、CD-ROMは、定期的に掲載製品をアップデートできるようになっている。

<インタラクティブ・トレーニング>

  コートライト社長と共同創始者のアンジェラ・エイバー副社長は、コンピューター業界で、それぞれ25年と16年の経験をもつ。ともにASTに在籍当時、ASTのパソコン市場進出において大きな役割を果たした。
  二人は、マルチメディアが騒がれ始めた89年に、家族からの借金と、自宅を担保にした借金で、グラッフィックス・ゾーンを設立。当初は、インテルやIBMなどの企業向けに電子カタログなどのマルチメディア制作や、マルチメディアを用いたインターラクティブ・トレーニングを主な事業とした。
 たとえば、大手不動産業者向けに開発したセールス・プレゼンテーション用インターラクティブCD-ROM。ラップトップを持ったセールスマンが、不動産代理店を訪れ、これを使って「当社のフランチャイズに加わると、これだけ得ですよ」というプレゼンテーションをする。プログラムには表計算が組み込まれており、現在のコストとフランチャイズに加わった場合のコストとの比較が一瞬にしてでき、その場で印刷もできる。
 その他、オリンピックの全米レスリング・チームのために、自チームおよび対戦チームを分析できるインターラクティブ・ビデオを開発するというユニークなプロジェクトを手がけたこともある。

<爆発的に伸びるCD-ROM市場>

  しかし、CD-ROMが消費者市場に進出してからは、マルチメディア制作よりも消費者向けCD-ROMの出版に力を入れている。昨年、収益の半分を占めていたCD-ROMが、今年は8割近くを占めるに至ったということだ。
 「現在、CD-ROM市場は爆発的に伸びている」というコートライト社長によると、現在、世界で出荷されているパソコンの半分以上にCD-ROMドライブが備え付けられており、メーカーによっては既にCD-ROM搭載率100%というところもあるそうだ。95年末までに、計約2000万のCD-ROMドライブがパソコンに備え付けられると推測されている。
 「ということは、当社のような会社にとって、ビジネスチャンスは計り知れない」

<ユーザー教育が業界発展のカギ>

  同社には、CD-ROM出版部門とマルチメディア制作部門以外に、ユーザー向けに無料セミナーなどを行なうグラッフィックス・リソース・センターがある。これは、創業時に、IBM、アップル、インテル、ソニーなどのハードおよびソフトメーカー16社に呼びかけて、開設したものだ。
 「マルチメディアは、多くの人々にとって、まだまだ未知の世界。音、グラフィック、テキスト、ビデオ、アニメーションを一つの媒体に収めたマルチメディアの威力を理解してもらうには、ユーザーに実際に体験してもらうのが一番だ。マルチメディア業界が、その可能性を果たすには、ユーザー教育にかかっている」とコートライト社長は、設立理由を語る。同センターには、毎月、1200人以上のユーザーや代理店関係者が訪れるという。
 「マルチメディア産業は、まだ生まれたばかり。今も多くの会社が参入しようとしている。しかし、相当の資本と優れたマーケティング力が必要なため、成功するのは容易ではない。小さな会社は、次々と大手に買収されていますよ」
 社員数人の会社が多いマルチメディア業界で、社員50人を抱える同社は決して小さくはない。同社は、昨年、創立5年目にして、株式公開を果たした。
 コートライト社長によると、この業界での成功の秘訣は、「斬新なアイデアの出せるクリエイティブなチーム、それをビジュアル化できるクリエイティブなアーティスト、そして優れたマーケティング力」だという。同社では、消費者CD-ROM市場に参入する際に、エンターテーメント市場に的を絞った。その理由は、「まず、不況に強い。また、当時、マルチメディアといえば、ゲームと教育モノが主流で、エンターテーメントを手掛けているところは少なかった。それに、音楽は、マルチメディアに最適のコンテンツ」
 さらに、有名アーティストを使えば、世界を市場とできる。同社では、当初から、国際市場をターゲットとしており、日本、ヨーロッパ、オーストラリアなど、海外市場での売上は、全売上の3割近くを占めるという。
 同社では、音楽だけでなく、映画分野への進出を図っており、現在、新たに映画関連のCD-ROM製品を開発中である。


取材・文-----有元美津世
ベンチャーリンク誌95年11月号に掲載
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