増加するDPO(Direct Public Offering)
アメリカでは、ここ数年、DPO(証券取引所や店頭市場を使わず、自社の株式を直接公開)を行う企業が増えています。95年には株式公開を目指す企業の3割が、ウォールストリートを使わず、DPOを利用。DPOの申請数は、95年の253件から96年には428件に急増し、97年は9ヶ月で389件に達しました。(ただし、実際に許可を得るのは、その半数以下。)
DPOが増加している背景には、従来のIPOは、プロセスが複雑であると同時にコストが高い点、またアンダーライターらは無名の中小企業を扱いたがらないため、ほとんどの中小企業には不可能であるという点があります。公開後のSECへの報告業務も、中小企業にとっては大きな負担です。また、少額資金を必要とした小企業は、ベンチャーキャピタルの対象とはなりません。
さらに、米国中小企業局の調査では、350万以上の中小企業が必要とする資金は年間600億ドルにのぼる一方、銀行やベンチャーキャピタルが提供できる資金はわずか5000社のニーズを満たす300億ドルにすぎないという結果が出ています。
こうした資金市場のギャップを埋めるため、SECは、89年、中小企業株式公開登録(SCOR)を認可し、株式公開のプロセスを簡素化しました。SCORでは、SECへの届出なしに年間100万ドルまでの資金調達が可能です。(500万ドルまでの資金調達には届出を簡素化したRegulation Aが設けられています)。
さらにインターネットの登場が、DPOブームに拍車をかけました。95年、地ビールメーカーのスプリングストリート社がインターネット上でのIPOに成功して以来、インターネット上での株式公開が人気を呼んでいます。同社の創立者は、その経験をもとに、オンライン投資金融証券サービス会社、ウィットキャピタルコーポレーション(http://www.witcapital.com)を設立し、起業家がインターネット上でIPOを行なうサポートをしています。
DPOは、起業家にとって有効な資金調達手段であるだけでなく、ベンチャーキャピタルやIPOとは縁のない一般の投資家に、ハイリターンの投資オプションを与えるものです。
ただし、現在、オンラインでの株式売買は証券ブローカーを通してのみ許されており、売り手と買い手が直接取引を行うことは法律で禁止されているため、インターネットは、主に低コストの情報配布媒体として利用されています。
「スプリングよりも先にオンラインDPOを行った」というダイレクト・ストック・マーケット(DSM)(http://www.dsm.com)では、現在、売買オファーの掲載(ブルテンボード運営)に対し、SECの許可が下りるのを待っているところです。
DSMのウォーマック社長は、自ら投資ファンド管理会社を経営し、「VCなどの私的資金は、いずれ底をつく。2−3万ドルの少額資金を調達できる公的VCが必要。同時にこれまで機関投資家や富裕な個人投資家に限られていたハイリターンの投資チャンスを一般の投資家にも平等に与えるため」と、93年にDSMの前身、SCOR−NETを創立しました。
オンラインアンダーライターであるウィットキャピタルとは違い、 DSMは、DPOがその企業にとってふさわしいかどうかを判断したり、投資分析やアドバイスは行なっていません。あくまで、情報の発行、情報交換の場の提供に徹しています。
DSMでは、DPOを希望する企業の株式公開概要、年次報告書、プレスリリース、マーケティング資料などを電子的に配布し、投資家募集広告、経営者プロフィール、投資家らとインターラクティブができるチャット機能を完備したウエブサイトを提供しています。
こうしたDPOパッケージの価格は、初めの90日間が1000ドル、その後、四半期ごとに500ドルで、株式公開概要の印刷・郵送費だけで一部あたり3ドルかかり、何千、何万という資料を印刷、郵送しなければならない従来の方法に比べ、かなり低コストです。
DSMでは、従来、株式購入を促すために各地を回って投資家らに会社や製品の説明を行うロードショー(事業計画説明会)もネット上で行っています。ビデオ、オーディオ機能、パワーポイントなどを使ったプレゼンテーションができ、ライブチャットを通じ、視聴者がインターラクティブに参加できるようになっています。価格は、5,000〜20,000ドルと、従来の方法に比べれば、かなり安くなっています。
DSMでは、97年、28社のDPOおよび未公開株オファーを掲載し、これらの企業は計2,500万ドルの資金を調達するに至りました。たいていの企業が2〜2.5百万ドルの資金調達を希望し、35〜45%が実際に資金を調達するそうです。また、最終的にDPOを通じて資金調達をする企業は約20%で、残りはDPOの準備中に投資家らの興味をそそり、私的資金を得るということです。起業家にとって、目的は資金調達であって、DPOが成功するかどうかよりも、DPOのプロセスを通じ、投資家コミュニティに知られることの方が重要なようです。
今のところ、DPOの一番の問題は、株主が株式をいかに換金するかという点です。現在は、会社が売却されるか、従来の株式公開を行うか、会社が株を買い戻すまで株を持っているしかありません。DPOを行なう企業は上場されるには小さすぎるため、こうした証券を取引するメカニズム、流通市場が求められています。
DSMのサービスを利用している企業のひとつに、環境に優しい製品、エネルギー節約商品を販売するリアルグッズ社(http://www.realgoods.com)があります。同社は、91年、まだDPOという言葉が知られていない頃、第一回のDPOを行ない、100万ドルを集め、96年には、ウエブサイト上で株主間の株の売買に対してSECより許可を得た初めての企業となりました。同社のウエブサイトでは、個人株主による株の売買オファーが掲載されています。
リアルグッズは、現在、第三回目のDPOをウエブを通して行なっていますが、同社がDPOに成功している理由は、同社の製品、理念を信じる大きな顧客グループがいるからです。同社では、株主の95%が顧客から成り、株主総会には、全米から700人の株主が集まるそうです。また、同社では、顧客に対し、カタログ、パンフレット、DMなど、あらゆる方法でDPOを宣伝しています。
年々、増えるDPOですが、現実には、その6割が失敗するといわれ、どの企業にも適しているわけではありません。顧客、取引先、従業員など、その企業の製品を信じ、理念を理解している身近なグループ、そしてオフラインの媒体を含めた総合的なマーケティングプログラムが、成功の条件と言えます。DPOが生まれたのは、20年以上も前。ベン&ジェリーズのように、DPOに成功した企業もあるが、株式公開は、企業のある州に限定されていたし、顧客、従業員、取引先、代理店、友人など非常に強いアフィニティグループを持った企業のみがDPOに成功した。
同時に、ベンチャーキャピタルやIPOとは縁のない一般の投資家にとっても、非常に魅力的な投資オプションである。
ウォーマック社長は、カリフォルニア資金アクセスフォーラム(元DPO審議会)を設立したり、SECの政府ビジネスフォーラムのエグゼキュティブ委員会の委員長を務め、規制緩和のために、SECに提案をしたり、議会に対してロビー活動を行ってきた。パシフィック証券取引所(PSE)では、SCORとRegulation A証券を売買できるSCOR市場の構築許可をSECから得ている。
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