トルコ
アメリカのハイテクブランドのFC展開
トルコでも成長産業であるコンピュータ産業で、アメリカブランドのトルコでのマスターフランチャイーザになることで事業展開。
- 会社名 :ビリギサヤル工商株式会社
- 設立 :1993年
- 所在地 :イスタンブール
- 代表 :メメット・M・バイラクタログル
- 売上 :約1.3億円(1995年度) 利益 約2000万円
- 従業員 :25人
- 事業 :フランチャイズによる印刷、コンピューター研修、
コンピューター・ハードおよびソフト販売
<コンピュータを中心に4つのFCビジネスを展開>
「この建物は最近のものです。ほんの300年前に建てられたばかりですから」というガイドの言葉が語るように、イスタンブールには、何千年もの歴史を持つ建築物が建ち並ぶ。その中に、モダンなオフィスビルやシッピングセンターが混在し、まさに、新旧、東洋と西洋が融合した都市だ。
80年代に国営企業の民営化と市場の開放に取り組んだトルコでは、近年、特にコンピューター産業の伸びが著しい。90年代に入り、日本、欧米の主要コンピューターメーカーが、市場シェア獲得に凌ぎを削っている。トルコの情報機器市場は、91年にすでに300億円に達し、年に30%の勢いで伸び続けている。
イスタンブールにあるビリギサヤル工商株式会社は、急速に拡大するコンピューター市場とともに発展する新進企業だ。同社は、アメリカの国際ブランドをトルコでフランチャイズ展開し、コンピューターを中心に印刷、教育、ハードおよびソフト販売という4つのビジネスを運営している。
まず、同社は、93年、コンピューターを使用したクイックプリント店、フューチャープリントを開店した。アップルコンピューター、高速印刷機、高速コピー機を使用し、デザイン、タイプセット、コピーの作成を行なう。
次に、同社は、高度なコンピューター技術を使用した印刷システムをサポートするために、アップルセンターとなる。アップルセンターとは、アップル・コンピューター社の製品の販売およびサービス・研修を請け負うアップル社の公認代理店だ。アップルセンターとなってまもなく、同社のコンピューター部門の売上は約9000万円に達した。
94年には、児童向けコンピューター教育フランチャイズ、フューチャーキッズRのトルコでのマスターフランチャイザー権を獲得。当初の事業計画では、5年で15店オープンする予定だったフランチャイズ・センター(FC加盟店)を、2年で16店オープンした。この功績に対し、同社はフューチャーキッズR本部より国際功績賞を受賞した。また、社長のメメット・バイラクタログル氏(41才)は、新しいマーケティング戦略をフューチャーキッズRの本部にアドバイスするマーケティング・アドバイゾリー理事会の理事も務めている。理事は、2年ごとに、アジア、ヨーロッパ・中近東、南アメリカの各地域から最も優秀なフランチャイズセンターが一社づつ選ばれるが、同社は、ヨーロッパ・中近東を代表して選ばれた。
さらに、95年には、マイクロソフト社製品の販売代理店となった。マイクロソフトの販売店やアップルセンターは、トルコに他にもあるが、アップル・コンピューター用マイクロソフトのソフトを販売しているのは、同社だけである。
同社では、特に高品質、ハイテクイメージを持つ国際的なアメリカブランドを選び、トルコでのマスターフランチャイザーとなることによって、市場を確保してきた。同社の戦略は、コンピューターセンターが、フューチャープリントとフューチャーキッズRに、ハードおよびソフトと、テクニカルサポートを提供。アップルセンターは、フューチャーキッズRの顧客にコンピューターも販売。フューチャープリントは、フューチャーキッズRとコンピューターセンターに、広告印刷物を提供というように、コンピューターを中心に、それぞれのビジネスが相互に補強し合い、顧客を紹介し合うシステムになっている。(図参照)
「こうした4種のビジネスを合わせて持っているのは、世界でも当社だけです」とM・バイラクタログル社長は自負する。
<社長以下3人のパートナーは米国企業での勤務経験あり>
同社は、93年、M・バイラクタログル社長と3人のパートナーによって設立された。29%の株式を所有するA・バイラクタログル副社長(33才)がフューチャーキッズR、10%の株式を所有するコヌマン副社長(35才)がフューチャープリント、同じく10%の株式を所有するビンバスギル副社長(36才)がアップルセンターとマイクロソフトセンターの経営を担当している。
M・バイラクタログル社長は、トルコで大学を卒業した後、アメリカで工学修士号を取得。卒業後、トルコに戻って、ゼネラル・エレクトリック社で管理職を務めた。3人のパートナーも全員、アメリカ系企業で勤めた経験があり、そのうち2人はアメリカの大学または大学院を卒業している。英語にたん能、アメリカの経営方式に精通しているというのが、同社の経営陣4人の共通点だ。
コヌマン、ビンバスギル両副社長は、M・バイラクタログル社長と、同じ大学を卒業し、7年間、バイラクタログル社長とともに印刷会社、テキスタイル会社に勤務した。「我々は、チームとしての方が、力を発揮するのですよ。この経営チームが、当社の最大の誇りです」(バイラクタログル社長) M・バイラクタログル社長と、両副社長は、トルコで最大の印刷会社に勤めていたときに、アメリカのフランチャイズ印刷業であるアルファグラフィックスのトルコでのフランチャイズ権を獲得した。5年後の91年に、3人は大手アパレル会社に転職したが、ここでもフランチャイズ展開に尽力をつくした。
<国際ブランドにこだわる理由>
大学卒業後、ずっと独立を目指していたM・バイラクタログル社長は、同じ年、アメリカのフランチャイズ権を得るためにカリフォルニアに現地法人を設立。アメリカ人とトルコ系アメリカ人を代表とし、アメリカ企業との交渉を任せた。「名もないトルコの会社として交渉するよりも、アメリカにベースを置く会社として交渉する方が有利ですからね」(バイラクタログル社長)
同社では、まず50のフランチャイズを検討。そのうちの20社と実際に会い、さらに5ー6社と詳しい商談を行なった。同社のフランチャイズ選考規準は、1)高品質、ハイテクであること、2)国際企業となれるだけの規模であること、3)国際ビジネスを理解していること、4)トルコ市場にアピールすること、5)トルコにはない新ビジネスであることというものだ。
「まず、トルコで市場調査を行なう権利を得、調査結果がよければ、交渉に入ります」 同社では、その結果、フューチャーキッズRと組むことにした。
ロサンジェルスに本部を置くフューチャーキッズRは、3才ー13才の児童を対象にコンピューター教育を行なう。89年にフランチャイズ展開を始め、現在では、アメリカ国内外に200以上のフランチャイズ網を築いている。海外では、日本を皮きりに、65カ国に進出しており、トルコは16カ国目にあたる。
トルコのフランチャイズ候補には、大企業も名をつらねていた。「フューチャーキッズRが求めていたのは、大資本ではなく、起業家精神だったんです。私たちのやる気とチームワークが買われました」 フューチャーキッズRは、同社の財務状況すら調べなかっという。「当社では、これだけしか払えない。もしこれ以上必要であれば、当社ではできないと言ったところ、それで構わないということでした」(バイラクタログル社長)
アップルとマイクロソフトに関しては、同社の成功を聞きつけて、先方から出向いてきたということだ。「アップルセンターとマイクロソフト代理店になるには、一銭も払う必要はありませんでした」
93年にフューチャープリントを設立したときには、自らがアメリカから導入した同業のアルファグラフィックスが、トルコに存在しているのを承知の上だった。
「トルコのアルファグラフィックスの内情は熟知していました。我々のチームの方が優れていることは、我々が一番よく知っていましたからね」
その通り、この3人が抜けた後、この会社の業績は低下し、アルファグラフックスのフランチャイズ権を失った。
創業にあたり、M・バイラクタログル社長とA・バイラクタログル副社長は、所有していた2軒の家のうち、1軒を売却し、約2000万円を得た。さらに、残りの1軒を抵当に、銀行から3000万円の融資を受けた。しかし、この3000万円は、1年以内に完済した。
M・バイラクタログル社長は、独立するまでに、12年間、サラリーマンとして企業に勤めたが、「私が過去12年間、やってきたことは、すべて、起業を念頭においてのものでした」 特にゼネラル・エレクトリック社に勤めていたときに受けた経営トレーニングが、今の経営の基礎になっているという。
「あのトレーニングがなかったら、私は今、こうして経営者にはなっていなかったでしょうね」
<大事なのは意志とポジティブな相互依存>
そんなバイラクダログル社長も、「94年のトルコの通貨危機が、当社にとって、創立以来、最大の危機でした」と語る。トルコリラが、2カ月で300%も下落したのだ。「銀行は倒産するし、当社の売上もそれまでの1割に落ち込みました。創立後すぐのため、借金もまだあり、大変でした。まさに危機管理能力を試されましたよ」 同社では、従業員の1割をレイオフし、あらゆる面でコスト削減を図り、危機を乗り切った。
「成功するのに最も大事なのは、必ず成功するんだという意志です」 それに加え、「相互にポジティブな形で人に依存することを学ぶことですね。常に目標を見据え、成すべきことに優先順序をつけ、互いに利益を得られる形で相乗しあう。人に理解されることよりも、まず人を理解することから始めることです。そして、時間があれば、自己の能力を高めることに努めること」(バイラクタログル社長)。ポジティブに依存しあうというのは、取引先にも、経営陣や社員にもあてはまるという。
「当社では、社員も皆、家族のように扱います。当社のやり方は、日本式経営とアメリカ式経営の中間といえると思います」
西洋式と東洋式が融合した同社の経営方式は、まさに東西の文化が出会うトルコならではといえるだろう。
同社では、来年、フューチャープリントのフランチャイズ展開を開始する。まずは、まだ世界でドイツに2台しかないというデジタル式プリプレスシステムとデジタル印刷機を購入する予定だ。
「常に最先端の技術を導入するというのが、当社の成功の秘訣です」
同社の最大の競合会社は、アメリカ系フランチャイズ、クイックコピーだが、「この最新技術を導入すれば、競争に勝てる。クイックコピーが、同様の技術を導入しようとすれば、アメリカ本社から始めねばならず、時間がかかりますから」(バイラクタログル社長)
同社では、この最新機器を購入するために必要な1億円を得るために、株式の2割を売却するつもりだ。日本からの投資も大歓迎ということだ。
同社では、現在、フューチャーキッズRのフランチャイズセンターを20、マイクロソフトのディーラーを25店抱えているが、10年間で、少なくとも、フューチャーキッズRのフランチャイズセンターを45に増やし、フューチャープリントのフランチャイズ店を30店加え、売上50億円、利益率20%達成を目標としている。
取材・文 有元美津世
ベンチャーリンク誌96年 月号に掲載
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