デンマーク
デンマーク第2の都市で、コンピューターの研修事業
- 会社名: ウインテック
- 設立: 1991年
- 所在地: アーフース
- 代表: イェンス・クリスチャンセン、ウールリック・ラムジング
- 従業員: 18名(フリーランサー5名を含む)
- 売上: 800万クローネ (約1.4億円)
- 事業: コンピューター研修コンサルティング
コンピューター先進国デンマーク
デンマークといえば、日本では、酪農と福祉の国というイメージが強い。しかし、実際には、ホワイトカラーの85%がコンピューターを使用するという"コンピューター先進国”でもある。この比率は、他のEU諸国(55%)に比べて著しく高い。
ウィンテック社は、デンマーク第二の都市アーフースで、コンピューターに関するコンサルティングや研修を行なう。
創立者は、イェンス・クリスチャンセン氏(34才)とウールリック・ラムジング氏(28才)。クリスチャンセン代表は、組織・経営学で修士号を持つ。コンピューター業界で働く気などまったくなかったが、大学院卒業後、たまたまコンピューター会社に営業マンとして入社。英語ソフトのデンマーク語版販売を担当した。まもなく、副社長(部門長)に昇進したが、86年に食品からコンピューターソフトまであらゆる製品を販売する会社に転職。同社の創立者の一人であった現在のパートナー、ラムジング代表と出会う。
大学で美術史を専攻したラムジング代表は、コンピューター・グラフィックアートを専門とし、ウィンテック社では、マルチメディア部門を率いる。すでに起業経験のあったラムジング代表は、「先の会社を立ちあげたときに、多くの間違いを犯しましたが、そのときの経験がウィンテック設立の際に非常に役立ちました」という。
両氏は、コンピューターに関するコンサルティングや研修事業の可能性を見出し、この分野に進出する決心をした。それまでに携わってきたハードやソフト市場の利益率が下落し続けていることも要因だった。
ラムジング代表は、先の会社で、すでにドイツを拠点とするキャノン・ヨーローッパとの取引きがあった。そのときの関係で、ウィンテック社設立後まもなく、キャノン・ヨーロッパが製造する全プリンターのドライバーのテスト、またそのためのマニュアル制作という仕事を請け負った。
「プリンタドライバーのテストというのは大変な仕事です。変化のスピードが恐ろしく速いですからね。テストには、たいてい2ヶ月かかりますが、テストをしている間に次のバージョンが出るというようなことが頻繁にあります」 また、ウィンドウズ95のような新しい基本ソフトが出ると、市販されているプリンターの大半が時代遅れとなってしまうという。
この他、設立当時は、大企業向けの研修コンサルティングに専念した。当初、キャノンからの仕事が、同社の収益の4割を占めたが、事業を多角化した現在では、これが1割に減少している。
コンサルタント料は、1時間1万6千円
同社のサービスは、大きく分けてコンサルティング、開発、教育の3部門に分かれる。コンサルティング部門では、あるテクノロジーの導入に関するメリット・デメリットをクライアントにアドバイスする。主なターゲットは大企業であり、各企業が抱える問題に対し、カスタムメードの解決方法を提供する。
開発部門では、既存ソフトのネットワークへの応用など、ネットワークに関する解決策をクライアントに提供する。
教育部門では、各企業が抱える問題を解決するためにソフトを応用する際の研修を主としている。各研修の前に、それまでのコンピューター経験や仕事におけるニーズに関し、受講者からアンケートを取り、結果に応じて、受講者の仕事に直接関連する部分だけを教授する。
クライアントは、デンマークに拠点を持つヨーロッパの大企業を中心に、ハイテク、食品、オモチャ、銀行、保険、薬品など業界は多岐にわたる。開発やコンサルティングの仕事の多くが、同社の研修サービスを定期的に利用するクライアントから依頼されるという。
企業に直接、サービスを提供する以外に、同社では、コンピューターの研修を専門とするディストリビューターのような中間業者を通じてサービスを提供することもある。たとえば、クライアントがディストリビューターに対して発注したソフトの設置や研修といったプロジェクトをウィンテック社が請け負う。いわば、下請けだが、同社が請け負う研修事業の6割がこうした形で入ってくるという。
同社の料金は、コンサルティングが一時間あたり895クローネ(約1.6万円)、研修は一時間あたり795クローネ(約1.5万円)。研修事業が同社の収益の半分を占め、開発が3割、コンサルティングが1割だという。91年の設立時に100万クローネ(約1800万円)だった売上は、毎年倍増し、95年には800万クローネ(約1.4億円)に達した。利益率は、プロジェクトによって10%ー50%と幅があるが、税引利益は約21%だそうだ。「皮肉にも、利益率は、設立時の方がよかったですね。一般経費が少なかったですから。成長するにはお金がかかりますよ。過去2年は財政的に大変でした」とクリスチャンセン代表は語る。
95年3月、同社は、マイクロソフト・ソルーション・プロバイダー(MSP)となった。MSPとは、マイクロソフト製品のユーザーにサービスや研修を提供する代理店のようなものだが、マイクロソフト・デンマーク社やマイクロソフト製品の販売店が、サービスや研修を必要とするユーザーにMSPを紹介する。ウィンテック社では、このルートで入ってくる仕事が、かなりの量にのぼるという。
また、ウィンテック社の社員の多くが、マイクロソフト社認定プロフェッショナル、ロータス社認定インストラクターである。こうした認定は、同社が提供するサービスの水準や信頼性を裏付けるのに役立つ。
「マイクロソフト社との密接な関係は大きな強みです。まず、入手できる情報量が違う。今日、コンピューター・コンサルティング業を始めるのは、以前に比べてかなり難しい。新進企業では、我々が得られるような情報は得られませんからね」 こうした関係は、マイクロソフト社にとっても利点がある。「当社では、ソフトを販売しているわけではありませんが、クライアントにどのソフトがいいかというのをアドバイスするわけですから、間接的に、マイクロソフトの製品をプロモートしていることになります」
しかし、同社が、他社と大きく違う点は、「ソフトの販売は一切しないという点でしょう。我々は、クライアント企業の問題を解決するために最適のソフトを推薦するわけですから、ソフトの販売に携わると、我々のアドバイスの信ぴょう性が失われてしまいます」
皮肉なことに、最大の競争相手はデンマーク政府だという。政府の助成金を受けた成人向けのソフトのクラスが、すでにウィンテックや他社から、ビジネスを奪いつつある。これに対し、ウィンテックを含めた私企業は、国会に抗議をしているところだ。しかし、クリスチャンセン代表は、「2年以内に何らかの解決がなされるでしょう」と楽観視している。「政府の援助を受けた夜間コースを基本のクラスに限り、より上級のクラスを私企業に任せることになると思います」
仕事に追われ、大損する結果に
両代表が、同社の創業時に苦心したのは、二人とも研修に携わっていたため、新しいクライアントを開拓する時間がなかったことだ。「プロジェクトを終えると、仕事が何もないということがよくありました。二人ともプロジェクトにかかりきりで、営業をしていなかったのですから、当然です」(クリスチャンセン代表) マーケティングをし、仕事を回してくれるディストリビューターと密な関係を築いたのも、これが大きな要因だった。
今も、両代表が事務所にいることはほとんどない。クライアント先で研修を行なっているか、クライアントと打ち合せをしているかのどちらかである。もちろん、社員は両代表を電話でつかまえることはできるが、やはり大事な決断を電話で下すのはむずかしい。「今年中には、日々の管理は、社員に任せるつもりです」とクリスチャン代表は語る。
また、創業時には、財務や経理をちゃんと管理していなかったために、大損をしたこともある。95年、VAT(付加価値税)に関する法律が変更されたときのことだ。それまで課税されなかったサービスに対して課税がなされることになったのだが、それを知らなかった同社では、クライアントからVATを徴収していなかった。それが発覚したのが、新しい会計士を雇った年末のこと。今さら、クライアントから徴収することはできない。税額は、900万円以上にのぼった。「泣く泣く自腹を切りました」(ラムジング代表)
経理の弱さは、代金請求・徴収にも現れた。請求書の発行が遅れたり、支払が遅れても放っておいたため、プロジェクトを終えてから実際に支払いがなされるまで8カ月かかることもあった。そのため、キャッシュフローが悪く、結果的に、必要以上の金利を支払う状況が続いた。「とにかく忙しすぎて、すべてに手が回らなかったんです」(クリスチャンセン代表)
優秀な人材確保を税金がじゃまする
こうした過去の過ちから学び、同社では、現在、会計士と経理担当者をフルタイムで雇っている。また、契約の際の支払条件を厳しく定め、支払遅滞の場合の処理方法もシステム化した。
同社では、フラットな組織づくりを方針としており、社員はプロジェクトチームの形で働くことを奨励されている。組織図では、代表二人も社員と同レベルに位置するということだ。創業時から93年まで5人以下であった社員数は、現在18人に増えている。
税金が高いデンマークでは、人件費が大きな負担となる。法人税は、他のヨーロッパ諸国に合わせて、38%から34%に引き下げられたが、個人の所得税は、最高68%にものぼる。「税金が上がれば、その分、給料も高くなる。有能な人材を雇うのは、楽ではありません」(クリスチャンセン代表) 給料が上がると、上昇分のほとんどが政府の手にわたるという。さらに、以前は福利厚生の一部として従業員に与えることのできた車や自動車電話、食事も、今では禁止されている。「現在、社員に与えることを許されているのは、コーヒーくらいのものでしょう」とクリスチャンセン代表は皮肉る。こうした状況で、同社が考え出した苦肉の策は、成績のいい社員には、有給休暇を多く与えるというものだ。
また、固定経費を抑えるため、同社では、多くのフリーランサーを利用している。特に仕事の少ない夏にスタッフ数を調節できるというメリットがある。しかし、同時に、有能な人を常時つかまえておけないというデメリットもあり、新しいプロジェクトのために、常に人材探しが必要となる。
同社では、コペンハーゲンのクライアントとの関係をさらに密接にするために、95年夏には、コペンハーゲンにも事務所を開設した。 現在は、コペンハーゲンにある最大の競合会社、FCコンピューター・サービス社と合併を検討中である。創立10年、35人のコンサルタントを抱えるFC社は、コペンハーゲンのあるシーランド島を主な市場とする。一方、ウィンテック社の主要市場は、本土であるユトランド半島だ。また、FC社はソフトのテストは行なわず、ウィンテック社よりも開発事業の占める割合が多い。お互いを補う点が多いため、両社とも合併には前向きの姿勢だ。
さらに、同社では、事業を多角化するため、現在、マルチメディアと企業向けプレゼンテーション事業に力を入れている。「今のところ、費やす時間に比べて、売上は少ないですが、将来、かなり伸びる分野だと思います。マルチメディア分野の人間は、一般に技術屋が多く、芸術的感性、技術要素を調和させてひとつにまとめる能力に欠ける傾向にあります。私の芸術的バックグラウンドを生かせる分野です」(ラムジング代表)
取材・有本 美津世
文・ 有本 美津世
ベンチャーリンク誌96年6月号に掲載
Copyright GlobalLINKTM 1996
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updated: 7/11/96 1:30 p.m. JYM