カナダ

大学を中退して廃品回収業を営むX世代起業家


  ラビッシュ・ボーイズ(ゴミ少年団という意)

<起業意欲旺盛な北米の若い世代>

 「ゼネレーションX」--カナダ人によって書かれたベストセラー小説にちなみ、ベビーブーム世代を親に持つ今の20代は、北米でこう呼ばれている。

  彼らは、親や教師から、またマスメディアを通じ、「大学を卒業しても職はない。老後の年金もない。親の世代と同じレベルの生活水準は保てると思うな。今日、成功するには30年前よりずっと大変なのだ」と散々言い聞かされてきた世代である。大学を卒業しても、時給数ドルのファーストフードの店員などをしながら、職探しを続ける彼らは、たとえ企業に就職したところで、将来の保証はまったくないことを知っている。また、独立精神旺盛なこの世代は、サラリーマンでいる限り、本当の意味で自分の人生の舵を握り、クリエイティブな仕事をすることは不可能なことも見通している。

 こうした若者の中には、「職がないのなら、自分で作り出すしかない」「頼れるのは自分だけ」と、自ら起業する者が増えている。ある調査によると、アメリカでは、現在、約7万人が起業準備中だと言われているが、そのうちの約10人に8人が18才から34才だという。カナダでも、15才から24才の自営業者の数は、91年の11万人から95年の13.5万人へと着実に増えつづけている。

 ゼネレーションXを起業に駆り立てるのは、こうした必要性だけではない。彼らは、親の世代に比べ、起業に必要な技術を備え、環境にも恵まれている。子供のときからテレビゲームやポケットベルとともに育ったこの世代は、ハイテク・アレルギーとは無縁。それどころか、コンピューターやインターネットをうまくビジネスチャンスに結びつけたり、コスト削減に利用している。また、宣伝広告の氾濫する物質主義の中で育った彼らは、マーケティング攻略にも長けている。さらに、起業のための訓練機関や資金援助など、起業を支援するシステムも整っているし、成功した起業家の例もたくさんあり、ロールモデルにもこと欠かない。ある大学関係者の話によると、今日、卒業までに3ー4のビジネスを経験する学生は珍しくないそうだ。こうした学生は教室に携帯電話やポケットベルを持参し、教室内でも商売に忙しい。これは、過去には見られなかった現象だという。

<廃品回収業に革新的なアイデアを導入>

 バンクーバーで廃品回収業を営むブライアン・スカダモア氏(25才)も、そうしたゼネレーションX起業家の一人である。市が委託するゴミ回収業者は、生ゴミなどの一般のゴミに限り、一家庭につき週3袋まで回収することになっている。ラビッシュ・ボーイズでは、そうした業者が回収しないような粗大ゴミや、週に3袋以上の生ゴミの回収を専門としている。利用客は、必要に応じ、ラビッシュ・ボーイズに連絡し、回収に来てもらうというシステムだ。

 粗大ゴミ回収の分野では競合会社は少なく、バンクーバーではラビッシュ・ボーイズが最大手だ。他の業者は、週末だけ営業していたり、片手間にやっているところが多いという。また、市から委託されるような大手ゴミ回収業者は、ラビッシュ・ボーイズのように個人利用客の電話一本で参上するというような小回りはきかない。

 同社の廃品回収料金 1ー2トンのトラックいっぱいで240ドル、トラック半分であれば138ドル、4分の一で85ドル。「競合他社に比べ、当社の料金は中間に位置するが、サービスは格段に優れている」とスカダモア代表は自負する。

 「お客さまに3時から3時半の間にに伺いますと言えば、その時間に必ず現われる。万が一、遅れることがあれば、必ず電話を入れる。とにかく、訪問前に、お客さまに必ず連絡することにしていますが、これは非常にありがたがられるんですよ」 さらに、同社の利用客には礼状が送られる。

 「どのビジネスにもいえることだと思いますが、成功の秘訣は卓越したサービスを提供すること--すべてのお客さまに素晴らしいサービスを提供し、満足してもらうことでしょう。この業界では、特にそれが欠けていたんです」 スカダモア代表が、市場調査の目的で、新聞に載っていた廃品回収の広告を見て同業者に電話をしたところ、どこも電話の応対がよくなかったそうだ。約束した時間に数時間遅れて、何の連絡もなく、ボロボロのトラックで、愛想の悪い作業員が現われる--というのが、典型的な廃品回収業者の姿らしい。ラビッシュボーイズは、こうしたプロ意識に欠ける廃品回収業界に、ユニフォーム着用、領収書発行、各トラックに携帯電話設置、愛想のいい作業員、優れた顧客サービスなど新規アイデアを導入。約束の時間にTシャツのユニフォームを着た愛想のいい作業員が、小ぎれいなトラックに乗って現われる--廃品回収業のあるべき姿を一変させた。

 「同業者を見ていて、もっとプロフェッショナルに運営すれば、この業界で成功できると思った」とスカダモア代表は語る。彼の経営方針は、「フランチャイズではなくても、フランチャイズのような経営を行なう」というものである。

 「これは、経営・商売のやり方をシステム化するということです。全社員が事業の運営の仕方を知っており、たとえば、どの作業員が回収に行っても、利用客は、皆、均一のサービスを受けるということ。顧客サービスの均一化が重要なのです」事業を成功させるには、経験を積んだメンターが必要だと感じたスカダモア代表は、大手引っ越し業者の社長をメンターに選んだ。その会社も一般家庭を対象としており、似たような業界ではあったが、引っ越し業であるため、直接の競争相手にはならない。

「料金や保険のことなど、大事なことをいろいろ教えてもらいました」 利用客に礼状を送るのも、メンターから学んだアイデアだそうだ。

<親の反対を押し切って、大学でのアルバイトを事業化>

 そもそもスカダモア代表が廃品回収を始めたのは、大学時代、19才の夏休みだった。当初は、リサイクリング業を営みたいと思っていたが、自治体が着手することになり、行政相手では競えないと断念。廃品回収に方向転換をした。事業開始にあたり、貯金をはたいて、700ドルでトラックを購入。その他、名刺やチラシに300ドルを費やした。その後二年間、学期中は勉学に励み、夏休みの間だけ開業した。しかし、卒業まで一年をひかえた年、スカダモア代表は、大学を中退し、事業に集中することを決意。通っていたブリティッシュ・コロンビア大学で外科医を務める彼の父親は猛反対だった。「父が大学で働いているので月謝は無料、あと一年で卒業できるというのに、僕の頭がおかしくなったとしか考えられなかったのでしょうね」 しかし、スカダモア代表は、絶対にこの事業で成功できると確信していた。

 その通り、89年の夏休みには1700ドルであった売上が、今では年間75万ドル。700ドルのトラック一台で始めた学生のアルバイトが、1万ドルのトラックを6台抱える事業に成長した。成功した彼を見て、両親も、あのときの息子の決断は正しかったと認めてくれたそうだ。スカダモア代表の起業家気質は、子供の頃に、すでに頭角を現わしていた。10才のときに、近所に「洗車します」という看板を出し、一台2ドルで洗車ビジネスを開業。寄宿舎に住んでいた14才の頃には、卸値で菓子を仕入れ、他の学生らに小売値で販売したという。こうした起業家精神は、「軍隊の余剰品販売店を営んでいた祖父の影響が大きいと思う」とスカダモア代表はいう。利用客からの問い合わせは一日に60ー70件。広告には、トラック上の大きな看板、会社名の入ったユニフォームのTシャツ、そして新聞広告を使っているが、利用客のほとんどは、トラックの広告とクチコミでやってくる。「どうせなら、学生に仕事を与えたいと思っているお客さまが多いんですよ」という理由で、名刺には、「学生の運営による廃品回収」とうたわれている。ラビッシュボーイズの廃品回収チームは、主に学生からなる。学生は「高給を求めないし、教育レベルは高く、従業員として優れている」という。顧客やトラックのスケジュールに使用しているデータベースも、コンピューターに詳しい学生が開発した。

 22人の従業員は、忙しい夏には30人に増える。引っ越しや改装、家の整理は、気候のいい夏に多く、中には、トラック5台分のゴミを出す家庭もあるそうだ。経費において、人件費の占める割合が一番大きく、4割強。次に大きいのが、廃品廃棄料で、経費の3割にあたる。廃品廃棄料は一回につき75ドルだが、廃品の種類によって、それぞれ違った廃棄場に捨てに行かなければならない。

<カナダ全域への展開を目指す>

 同社は、新たに、人口25万人の近隣のビクトリア市にも進出した。新しい都市に進出するにあたって、人口がひとつの目安となるそうだが、最低10万ー20万人はいないと廃品回収業は成り立たないという。

 バンクーバーの事務所は、最近、大学を卒業した社員二人に任せ、スカダモア代表は週の大半をビクトリアの事務所で過ごす。朝は7時に出勤し、自ら事務所を開ける。回収員らにその日のスケジュール表を配布した後、7時半に彼らを送り出す。その後、経理やマーケティング業務にとりかかるが、現在は、カナダ全域にフランチャイズ展開を考えているため、そのプランニングに忙しい。最近、東海岸からフランチャイズ契約の申し込みがあり、半年以内にはフランチャイズを実現するつもりだそうだ。

 「統計的に見ても、フランチャイズ経営の方が、売上も利益もいいという結果が出ている。雇われマネージャーでなく、自己資金を投入したオーナーの方が、当然、一生懸命働きますよ」

 隣の州のエドモントン市とカルガリー市へは、フランチャイズではなく、直営の営業所を開設する予定だ。

 「事業経営というのは、リスクを負い、長時間労働を要し、大学を中退するなど、犠牲を払わなければならないこともある。一番大変なのは、従業員が増え、会社が成長していくこれからだ」というスカダモ代表だが、「町を車で走っていて、我社のトラックを見かけ、あれを生み出したのは自分だと思えるときが、一番うれしい」と経営者としての満足感を語る。「学生のために職を生み出し続けたい」という彼の夢は、ラビッシュ・ボーイズをカナダ全域で知られるような会社に育てることだ。
取材・文-----有元美津世

ベンチャーリンク誌95年5月号に掲載
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