ヨーロッパの主要経済地域の一つであるライン川・ムーズ川・スケルト川三角州に接するベルギーは、発達した鉄道・道路・水路網をもとに、貿易・工業・農業など多角的な経済発展を遂げてきた。しかし、現在では、サービス産業における労働人口が6割に達している。特に、首都ブリュッセルには、欧州連合の機関だけでなく、北大西洋条約機構本部や税関協力審議会など多くの国際機関があり、サービス産業の発展に寄与してきた。ベルギーは、地理的にも、文化的にも、ラテン・ヨーロッパとゲルマン・ヨーロッパの交流点であり、欧州委員会や欧州議会のあるブリュッセルは、今後、欧州連合の首都としての役割が大きく期待されている。
「ベルギーは税金が高くて困るが、ヨーロッパ諸国に出張に行くには、地理的に非常に便利」というのは、ブリュッセルで商品買付業を営むコンソリデイテッド・マーチャンダイス・アソシエイツ(CMA)社のクリストファー・フェルステッド代表(37才)だ。
CMAでは、海外のデパート・小売店や輸入業者の代理で、世界各地から家庭用品を調達し、購買・輸送の管理を含め、商品の配送までを請け負う。今のところ、一番の得意先は、トルコとイギリスの小売業者だが、商品は、ヨーロッパだけでなく、アジアやアメリカなど、現在、約10ヶ国220以上の業者から調達している。
ロンドン生まれのフェルステッド代表は、15年前、22才のときに、たまたまつきあっていた彼女がベルギー人であったことから、ベルギーにやってきた。当時、フランス語が話せず、まずは配送運転手をして生計をたてた。しかし、まもなく、ファースト・フードに目をつけ、同年、ブリュセルとリエージュに、ピタブレッドのサンドイッチ店をオープンする。従業員を20人雇い、大幅な利益を出していたが、「同じことのくり返しで、精神的なチャレンジがなくなった」という理由で、店は5年後に売却した。
その後、成長産業であったギフトと家具の流通会社を設立。ブリュッセルに小売店も2店開店した。当時、従業員は10人。税金の高いベルギーでは、従業員への給料手取り100フランに対し、104フランの税金や社会保障費がかかる。また、人が増えれば増えるほど、メインの事業ではなく、人の管理に手間がかかることに閉口した。
「仕事がない日は、早く帰宅してもらってもかまわない。しかし、何か問題が起こったときには、必要であれば深夜2時まで働く。そうした姿勢を従業員に求めましたが、無駄でした」また、5000万円にのぼる商品在庫を抱えたこともあったという。
そのころ、当時からクライアントであったトルコの大手デパートから、新しく家庭用品のチェーン店を始めたいので商品調達を手伝っていほしいという依頼を受けた。 東奔西走し、イギリス、フランス、イタリア、オランダから商品を調達した。今では、このチェーンは、トルコ中に7店を構える規模に成長している。
「ひょっとすると、これを商売にできるかもしれない」と思ったフェルステッド代表は、実際にこのようなサービスに対し需要がどうかを確かめるために、イギリスやオランダのクライアントにも話を聞いてまわった。
「一番の頭痛の種は何ですか?どうすれば、仕事が楽になりますか?」
クライアントは一応に、
1)「期日通りの納品」、
2)「輸入費用・商品調達費の削減」、
3)「海外のサプライヤー管理」
だと答えた。
そこで、フェルステッド代表は、こうした小売店のために、海外からの商品買付を一手に引き受け、商品配達までの面倒な作業をすべて肩代わりする代行業を開始することにした。1993年、フェルステッド代表は、8年間、経営した小売業を売却し、CMAを設立した。
「我々は、バイヤー(購買担当者)の仕事を代行しているのです。我々のサービスを利用することによって、クライアントは、商品を購入するすべての国に買付事務所を設ける必要がなくなる。繁雑なバイヤーの仕事を少しでも楽にしてあげられるのです」
「今は、アウトソーシングの時代です。どの企業も社内ですべて行なうのは不可能なのですよ。CMAの仕事は、まさに時代を反映したものといえるかもしれません」(フェルステッド代表)
CMAの業務の流れは次の通りだ。まずクライアントが、こうした製品がほしいとやってくる。何度も打ち合わせをして、クライアントが求める製品を分類した後、そのクライアントのイメージに合った商品を探し出す。CMAには、世界中から集めた600以上の家具および家庭用品業者の商品カタログや見本市情報がそろっている。
いったん、商品が注文されると、納品が完了するまで、業者に毎週連絡を取り、クライアントに状況レポートを送付する。それには、業者名、通貨、金額、注文日、納入予定日、出荷状況から、搬入スペース確保のために積荷の重量や大きさまでが記載されている。(図1参照)
納品予定日や出荷状況は、毎日のように変化するため、常に最新情報がクライアントに届けられる。
製品調達後は、クライアントの営業報告書を見て、商品の売れ行きをチェック。売れ行きの悪いものについては、購入業者を変える場合もある。
また、商品選択から店頭ディスプレーまで、小売に関するコンサルティングを行なうこともある。
「この商売で大事なのは、まず、商品に対する肥えた眼です。私は、小売業も経験したことがあるので、クライアントである小売業者のニーズは、手にとるようにわかります」
CMAのクライアントは、一様に、フェルステッド代表の眼識を賞賛する。
「次に大切なのは、非常に効率のよいロジスティックです。クライアントが求めているのは、ジャスト・イン・タイム・ストックなのです」
また、商品調達を専門とする業者は他にもあるが、たいていは一ヶ国を専門としており、「当社のように、複数の国のクライアントために、複数の国から商品を調達するというのは非常に珍しい」とフェルステッド代表は自負する。
このほか、CMAでは、インボイス統合サービスも行なっている。たとえば、トルコに14の服地販売店を持つクライアントの場合、フランスから商品を仕入れるが、注文はクライアントが直接、フランスの業者に発注。各業者は、CMAに対し、請求書を送付する。複数の業者から送られてきた請求書は、CMAが、一つにまとめてクライアントに送付。商品は、指定された輸送会社に配送される。トルコへは、一つの積荷として送られるため、輸送費や関税、その他輸送関連の管理費が節約できる。また、クライアントにとっては、海外の複数の業者とやりとりをする手間が省け、商品を一括して受け取れるというメリットがある。(図2参照)
「インボイスと積荷統合のおかげで、クライアントの利益率は、4%から18%に上昇しました」
CMAから業者への支払いは60日後、クライアントからCMAへの支払いは、45日後のため、CMAが商品代金を立て替える必要はない。
CMAでは、調達した商品額に対し、クライアントからコミッションを受け取るが、売り手の業者からもコミッションをオファーされたこともある。そうすれば、買い手と売り手の両方からコミッションが受け取れる。しかし、フェルステッド代表は、そんな売り手に「コミッションはいらないから、その分、価格を下げてほしい」と頼む。「その分、クライアントに喜んでもらう方が大事ですから」
「80年代は、誰もが一攫千金を夢見たバブルの時代でした。しかし、90年代に入り、“信頼”“敬意”という言葉がよみがえった。90年代は、信頼や倫理観がなければ成功できない時代になると思います」
これまで、様々なビジネスチャンスを実現してきたフェルステッド代表は、「成功した起業家というのは、選択を迫られたときに、うまい選択をしてきた人たちなのですよ。運がよかったのではなく、運を作り出したのです」ともいう。
さらに、「成功した人で働き者でない人などいませんね」という言葉通り、フェルステッド代表は、週末はもちろん、必要であれば、夜中まで働く。
また、クライアントやサプライヤーを訪問するだけでなく、各国で開かれる家庭用品の見本市にも参加するため、月に平均2回は海外出張に出かける。ときには、毎週、出張が重なることもあるそうだ。
「クライアントが、どこの国にいようが関係ありません。1000キロだろうが、8000キロだろうが、ビジネスのチャンスがあれば、飛んでいきます」
CMAの事務所には、イギリスやイタリアなど各国からひっきりなしに電話がかかってくる。英語とフランス語は、フェルステッド代表が自分で応対するが、イタリア語が必要なときは、イタリア語が堪能なベルギー人のアシスタントに任せる。
CMAの社員は、現在、このアシスタントが一人。「小売業を営んでいたときの苦い経験があるので、当分、社員を増やすつもりはありません」
「そもそも、我々のような商売では、多数の従業員は必要ないのです。我々が効率よく経営すれば、それだけコミッションを低く抑えられ、クライアントに還元できるのですから」
さらに、「ダウンサイジングの今日、皆がボトムラインに関っているのです。余分なものを抱えている余裕などありません」
「周りを見ていても、以前、社員を10ー20人雇っていた会社が、今では5ー6人で営業している。人数は減っても、以前と同じ売上を保っているのですよ。当然、管理業務は前より減っています」(フェルステッド代表)
設立3年にして、約3億円の商品を扱うにいたったCMAだが、この3年間、新事業を軌道に乗せることに集中して、営業活動はしてこなかった。
「やっと余裕が出てきたので、今年中に、もう一軒、主要クライアントを見つけたい」と、これからは営業活動にも力を入れるつもりだ。現在、トルコの園芸用品のスカンジナビア向け調達や、イギリス製食品の他国への流通を検討している。
しかし、同社では、個々のクライアントのニーズに合わせたサービス提供をモットーにしているため、むやみにクライアントの数を増やすつもりはない。
イギリス人のフェルステッド代表にとって第二の故郷となったベルギーだが、「将来は、イタリアのような製造国に会社を移すことも考えている」
これまで、様々な事業を展開してきたフェルステッド社長は、将来、また新たな事業を始める可能性を認めながらも、「CMAは、まだ生まれたばかりの赤ん坊。まだ10代にもなっていないのですから、次のビジネスは、この赤ん坊をしっかり育て上げたあとの話です」