<アメリカ西海岸便り>

好景気の弊害 急騰する家賃と住宅価格


 遅ればせながら、南カリフォルニアの景気もやっとよくなったのはいいのだが、それにともない事務所の家賃が急騰し、スモールビジネスオーナーを悩ませている。うちの事務所の家賃も突然67%の値上げを宣告され、事務所を移転すべきかどうかで迷っているところだ。

 特にうちの事務所のあるオレンジ郡の空港の周辺(オレンジ郡のビジネス中心地)は上昇率が大きく、97年だけでも平均24%も上昇した。今年、第1四半期の空室率は郡全体で8.6%と、3年前の3分の1。これが新興地域の郡南部になるとわずか4%である。

 問題なのは、家賃の値上げだけでなく、ビルのオーナーとそのビジネスパートナーの間で争議が起きていることだ。ビル、レンタルオフィスの運営をしていたビジネスパートナーは、ビルのオーナーと経営方法が食いちがい、ある日、セクレタリーと一緒に出て行ってしまった。それも、電話システム、コピー機、メーリングマシンなどは、リース業者に多額の借金を残してだ。もともと、オーナーとの争議は赤字運営が原因だったのだが、こうした運営・管理ミスのつけをテナントにまわされたのではたまらない。

 また、さらに家賃の上昇はつづくと思われるため、たとえ6ヶ月でも長期契約はしてくれない。すべて月極であり、30日前の通知でまたいつ値上げをくり返されるかわからない状態だ。

 2年前にも同じような状況で事務所の移転を強いられた。当時、景気はよくなかったのだが、ビルが新しい所有者にわたり、突然、家賃が倍増した。(3倍にされたテナントもいる。)たまたま莫大な遺産を受け継いだ新しいオーナーは、ほんの気まぐれに私たちのいたビルを購入。管理会社に運営を任せていたものの、カーペットの色や家具の配置にまで口を出す始末。会議室のテーブルも、勝手に細長いものから円卓に変えてしまい、そこで定期的にセミナーを行なっていたテナントは、「もうセミナーができない」と怒りまくっていた。

 しかし、ビル経営が儲からないとみたこのオーナーは2年もたたないうちにビルを売却。そんなにすぐに売るなら初めから買わなければいいのに。そうすれば、私も事務所移転を強いられることはなかった...。お金持ちの一時の気まぐれで、私たちスモールビジネスオーナーが翻弄される。

 家賃が急騰しているのは、商業スペースだけでない。住宅でも、知人が住んでいたアパートなどは一年で家賃が18%値上がりした。今年第1四半期の郡全体の平均家賃(月)は920ドル。郡南部になると1000ドルを超し、都市によっては1200ドルに達している。年収2〜3万ドルのセクレタリーやサービス職従事者には、とても払えた額ではない。アメリカではルームメートと一緒に住む人が多いのは、このためだ。学生や新卒の会社員には、1DKやワンルームにルームメートと一緒に暮らす人が増えている。低所得者層になると、1DKに8人で住むという状況も生じている。

 また、住宅ローンの金利が30年固定で6%代と史上最低レベルに達しているアメリカでは、空前の住宅購入ブームを迎えており、住宅の価格も急騰している。今年6月時点のオレンジ郡の新旧住宅の最多売買価格は、昨年に比べて17%上昇。新築に限れば30%近くも上昇した。郡の持ち家世帯率は35%で、収入における住宅支出の割合をベースにした住宅入手可能度は、アメリカの75主要都市の中で47位だ。(住宅所有者は年収の24%を住宅に消費。ちなみにワースト1のニューヨークでは年収の43.5%、2位のサンフランシスコが42.2%、ロサンジェルス37.2%。ベスト1はオクラホマシティの17.3%。)しかし、これは97年度のデータにもとづいているため、今年に入ってオレンジ郡の順位はさらに下落したと見られている。

 カリフォルニアでは、人口増加にともない年間25万戸の新築住宅が必要と予測されているにもかかわらず、昨年、その約半分の11万戸しか供給されず、住宅不足が深刻化している。

 ずっと景気のいいシリコンバレーではここ数年、深刻な住宅不足で、1DKのアパートが最低でも1600ドルし、住宅を買うには買い手の間で競りとなり、指し値よりもずっと高い値で買わなければならない状態がつづいているが、そうした状況がとうとう南カリフォルニアにも広がってきた。景気がよくなったからといって、すべてがバラ色というわけにはいかないようだ。


有元美津世/N・O誌1998年9月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-1998

Revised 10/1/98

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