一時の流行か、定着するのか?
キックボードをめぐる攻防激化
先日、全米心臓協会が主催する毎年恒例の5キロレースに参加した。こうしたレースでは、犬を連れて走る人、乳母車を押して走る人、またインラインスケートで走る子供などがよく見かけられるが、今回は、キックボードに乗って走る子供が登場した。
98年、日本で大流行したキックボードは、その後、アジア、欧米へと広まった。アメリカでは「スクーター」や商品名で「レイザー」などと呼ばれている。キックボードは、日本では20年ほど前にホンダが販売していた「ローラースルーゴーゴー」の再来といわれているようだが、アメリカでは50年代に流行ったものがハイテク化して復活したという説が流れている。
日本では通勤通学の「足」、また、ファッションの一部として若者の間で流行った様子が、アメリカでもニュースとして取り上げられた。アメリカでは、ニューヨークやサンフランシスコなどの都会では大人が通勤手段として使っているものの、他の地域では主に小中学生の間でおもちゃのひとつ、また自転車の代わりとして人気を呼んでいる。
クリスマスシーズンを迎えるアメリカでは、玩具販売業者が、今シーズンもっとも売れる商品としてキックボードを挙げている。アメリカでは販売台数の少ないプレステ2は、オンラインオークションで1000ドル以上出してもほしいという人がいるくらいだが、今シーズンには生産が間に合わない。
キックボードのメーカーや販売業者にとっては、まさに「ソニー様々」なのである。 キックボードの販売をめぐって、業者の間では訴訟も起きている。台湾メーカー、JDコンポーネンツのアメリカ独占販売店であるロサンジェルスのレーザーUSA社では、11月、同社のデザイン特許を侵害したとして競合16社を訴えた。12月のヒアリングまで、12社が販売禁止という裁判所の仮命令が出されている。全米に400店舗を持つ競合の1社では、ヒアリングまでの間に売上200万ドルの損失になるという。
シーズン前に競合を訴えるという手法は、アメリカの玩具業界の“伝統“とも呼べるもので、最終的に裁判で勝てなくても、1年でもっとも売上が伸びるシーズン中に競合を市場から締め出せるという効果がある。
レーザーはアメリカ市場で半分以上のシェアを握り、販売台数は年内に500万台にのぼると予測している。
一方、キックボードの爆発的な人気とともに、利用者の間でケガや事故が多発している。全米各地で、子供だけでなく、大人が死亡するケースまでが発生。4月にはWalmart.comの最高技術責任者がキックボードに乗っていて車にはねられて死亡した。この影響でWalmart.comのサイト開発が遅れたとも伝えられている。
消費者製品安全審議会によると、2000年11月までに、全米で2万件の負傷が報告されている。そのうちの9割が15歳未満の子供によるものだ。スケートボードやインラインスケートによる負傷件数よりは少ないものの、それに迫る勢いで増加している。
そのため、歩道や公園でのキックボードの利用を規制する自治体が続出。インラインスケートではヘルメットの着用を義務付けている自治体が多いが、それに習い、すでにヘルメット着用を義務付けている自治体もある。
ニューヨークでは、キックボードにモーターを取りつけるのは違法であり、モーター付きキックボードに乗っていて警察につかまると、50〜200ドルの罰金を課せられる。場合によっては逮捕すらされかねないという。しかし、「罰金を課せられても乗る」という通勤者は多く、販売業者も違法と知りながら販売を続けている。
このキックボードブームは一時の流行なのか、人々の足として定着するのか・・・・・・・。プレステ2が市場に出回った頃、その答えが出るのかもしれない。
有元美津世/N・O誌2001年1月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2001
Revised 1/2/2001
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