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有元美津世のアメリカ西海岸便り
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儲かってないのに高額な役員報酬
米国eビジネスの光と影
日本の人から「アメリカで成功しているeビジネス、儲かっているサイトを教えてほしい」と言われることがよくある。その場合、「成功の定義は?」「“儲かっている”というのは、売上を伸ばしているということか、それとも利益を出しているという意味か?」と聞くことにしている。“利益を出しているサイト”ということであれば、AOLは別として、Yahoo,
eBay以外にはない。
この答えに、たいていの人が驚く。驚くのは日本人だけではない。一般のアメリカ人も、毎日のようにニュースで聞いたり、TVで広告を見る有名ドット・コム企業が儲かっていないなどとは、よもや思っていない。「儲かっていないのに、ドット・コムはどうやって商売を続けているのか?」と思うのも、当然の疑問だ。
有名サイトは確かに売上を伸ばしている。しかし、同時に赤字も膨らんでいるのだ。オンラインストアには、利益はもちろんのこと、粗利すらマイナスであるところもある。有名なアマゾン・コムの累積赤字は10億ドルを超えている。赤字額で第一位のプライスラインでは、99年4.8億ドルの売上に対し、10億ドル以上の損失を計上した。実際、オンラインストアの3分の1が、いつ黒字に転換できるかわからないという。
利益を出さなくても会社が存続しているのは、将来の可能性にかけたベンチャーキャピタルや株式を公開して一般市場から資金を調達できたからだ。もちろん、ベンチャーキャピタルも、半年ごとにお金をせびりにくるドット・コム企業に資金を提供していたのは、株式公開後、株式市場でキャピタルゲインを狙えたからだ。
南カリフォルニアのドット・コム企業で働く知人に、「お宅の収入モデルは何?」と聞いたところ、「株」という答えが返ってきた。その正直な答えに、思わず笑ってしまったが、彼の言う通り、多くのドット・コム企業の本当の収入モデルは、キャピタルゲインなのだ。彼らの多くが、そもそもIPOや買収されることを目的として会社を立ち上げており、会社を育てようなどという気は毛頭ない。
しかし、今年4月に株価が暴落で、多くのドット・コム企業の株価は、昨年の高値に比べ何十%も下落。有名サイトの中には、株価が最高時の80%以上下落したというところも少なくない。5ドル以下で低迷している株もたくさんある。
今年に入り、アマゾンを含む主要サイトによるレイオフが次々に発表された。さらに、CDナウやピーポッドなどの有名サイトの監査法人が、年次報告書に「同社の存続は危ぶまれる」と警告した。新たに資金を調達しなければ、数ヶ月から年内には破産するというのだ。
事実、Y世代向けエンタテーメントサイト、Digital Entertainment Network(DEN)やイギリスの高級スポーツアパレル販売サイト、Boo.comなどつぶれるところは続出している。Boo.comは、ルイヴィトンの会長でクリスチャンディオールのCEOとイタリアのベネトン一族、JPモルガン、ゴールドマンサックスなどそうそうたるメンバーから集めた1.2億ドルを1年で使い果たしてしまったのだ。
ドット・コム企業では、ブランド構築、顧客の囲い込みという名の下に、多額の費用をマーケティングに費やしてきた。多くのドット・コム企業では売上の60%以上を販売マーケティング費に割いている。売上以上の経費を費やしているところもたくさんある。
ドット・コムの謎のひとつに、会社は莫大な赤字を抱えているのに、経営陣は多額の給料を受け取っているというのがある。先述のDENでは、99年前半売上はゼロであったのに、CEOは98年分キャッシュボーナスの137万ドル、99年、90万ドル近い年収を受け取っていた!破産寸前のドット・コムの経営陣は、法外な報酬を受けていただけではない。持ち株放出規制期間を過ぎた途端、持株を放出するのだ。持ち株放出既成期間中にも家族名義で売却して問題になっているケースもある。
99年、1億7千万ドルの損失を計上した有名サイトの元CEOの年棒は29万ドル。個人名義のジェット機の代金を会社に支払うよう請求、2人のパイロットの給料を会社に支払わせたとも伝えられている。CEOを解任された後、持ち株を売却して3500万ドルを手に入れ、就任当時も合わせると、株式売却によって計5370万ドルを得たといわれている。元CEOは150エーカーの土地に立てた邸宅に住む。ここまで来たらほとんど詐欺だ。
こうした“悪貨”にはどんどんつぶれてもらい、健全なドット・コムだけが生き残り、インターネットビジネスが健全に成長することを願わずにはいられない。
有元美津世/N・O誌2000年8月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 9/1/2000
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