|
|
|
有元美津世のアメリカ西海岸便り
|
始業朝6時や7時もザラ
働きすぎのアメリカ人?
日本に帰るたびに気づくのは、企業の始業時間がどんどん遅くなっていることだ。朝9時半、10時始まりの会社が増えている。9時に電話をしても、会社があいていない、担当者がまだ出社していないといったことが多いのだ。日本に着いて1週間ほどは、時差ボケで朝4時、5時に目が覚める私。9時まで電話をするのを辛抱強く待っているのに、午後にならないとほとんど仕事にならない…
日本では、朝が遅い分、夜が遅い。11時になると眠くなる私は、11時などまだ宵の口の日本の人たちと夜の町をご一緒するのはツライ… 11時に寝てしまう私を見て、私の家族は「なんでそんなにはよ寝んの?アンタ、おかしいーな」と言う。11時半に知り合いの家にもう寝ているかと恐る恐る電話をすると、「まさか、寝てるわけないでしょ。まだ11時半ですよ」と言われる。東京では、夜中に満員電車に乗った。異常だ…
アメリカでは、反対に、始業時間がどんどん早くなっている。カリフォルニアでは、もともと始業時間8時は普通。6時や7時始まりというところもざらにある。フレックスタイムの人は、少しでも早く出勤して、少しでも早く帰ろうという人が多い。また、年々ひどくなる一方のフリーウエーの渋滞を避けるために、早目に出勤するという人も少なくない。渋滞の中、フリーウエーで1時間過ごすくらいなら、1時間早目に会社に着いてそこで時間を過ごす方がいいというわけだ。
そのため、渋滞の時間もどんどん早まっている。朝5時にはすでに渋滞が始まっており、6時〜7時よりも、5時〜6時の交通量が増加しているのだ。
私の周りにも朝4時起き、5時起きのアメリカ人はたくさんいる。彼らは9時〜10時に就寝するため、それ以降に電話はかけられない。
「日本は残業が多い」とか、「アメリカ人は早く家に帰れていい」とか言う日本人がいるが、多くの日本人は、ただ単に働き始める時間が遅いだけだ。朝の10時から働き始めれば、夜の10時まで働いても12時間。私の周りにいる朝7時から夜7時まで働くアメリカ人と同じ労働時間である。朝7時から出勤していれば、午後3時、4時以降は、すでに残業である。夜の9時、10時に飲みに行く代わりに、彼らは朝の7時にブレックファーストミーティングに出席しているのだ。
実際、昨年ILOが発表した報告書によると、先進国240カ国のうち、アメリカの労働時間が一番長いということだ。97年のアメリカの労働者の平均労働時間は1966時間。80年に比べ83時間延びている。ちなみに、第2位の日本は1889時間で、80年に比べ232時間減少している。
アメリカでは、全世帯の半数以上が共働きであり、平均的な共働き夫婦の年間労働時間は、10年前に比べ185時間以上延びている。
アメリカでは労働時間の延びに伴い、休暇が少なく、かつ短くなっている。日本では個人が有給を取る日数は少ないかもしれないが、国民の休日がたくさんある。日本では祝日といえば、全国一律、官公庁も企業も学校も休みだが、アメリカでは、多くの祝日に休みなのは官公庁と学校、金融機関だけで、ほとんどの企業は営業している。カレンダーに載っている祝日12日のうち、多くの企業で実際に休みなのは、6日だけだ。日本では新たな祝日が増え、かつ土日をはさんだ連休を増やすために、祝日を金曜日に動かしたりしている。ゴールデンウィーク、お盆、年末年始などの大型連休もあり、日本人は結構休んでいるのである。
アメリカで労働時間が増えているのは大人だけではない。高校生の労働時間も増加の一途である。働く高校生の数や高校生の労働時間に関しても、アメリカは世界第1位だ。海外の高校3年生の28%が一日平均1.2時間働く一方、アメリカの高校3年生の61%が一日平均3.1時間働いているという調査結果が出ている。
好景気で人材不足のアメリカでは、高校生は重要な働き手となっている。特にファーストフード店などのレストラン業では、高校生の労働力に依存しており、従業員の60%が高校生という店もある。
週に30時間以上働く高校生も多く、中には、夜中の10時、11時まで働き、家に帰って宿題をして寝るのは1時という高校生もいる。朝は5時、6時起きのため、睡眠時間が削られている。
週に20時間を超えると学校の成績が下がるという調査結果も出ており、高校生の労働を規制する州が出てきている。また、労働省に労働時間を最高週20時間に制限できる権限を与えるべきだという声もある。
実は、私も内職をして生まれて始めて自分でお金を稼いだのは、10歳のときだった。それから30年近く。もうこれ以上、働きたくはない。この先、何十年もいやでも働かなければならないのだから、高校生のうちからそんなに働かなくてもいいのではという気がするのだが…
あるアンケート調査では、アメリカ人の88%が「仕事が大変だ」、68%が「非常に速いペースで仕事をしなければならない」、60%が「それでもすべてをこなす時間がない」、71%が「一日の終わりにはクタクタ」、57%が「仕事のせいでバーンアウトしている、またはストレスを感じている」と答えている。
私もまさにバーンアウト状態である。「なんで年がら年中こんなに働かないといけないのか」といつも自問しているが、周りの誰を見ても忙しそうだ。
アメリカの場合、労働時間が伸びたのは、好景気の影響による人材不足という要因もあるが、私たちの生活がこれだけ忙しくなった一因に、テクノロジーの発達がある。ラップトップ、電子メール、形態電話などのおかげで、いつでもどこでも仕事ができ、いつでもどこでも連絡可能になってしまった。職場を出たからといって、そこで仕事は終わらない。さらに、在宅勤務が増えた結果、仕事と私生活の境目が薄れ、結局、四六時中働く状態に陥っている人も少なくない。
有元美津世/N・O誌2000年4月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 4/28/2000
アメリカ西海岸便りインデックスへ |
|
|
|
|