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有元美津世のアメリカ西海岸便り
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有名大学のMBAもオンラインで修得
急成長する大学インターネット戦略
私の友人が昨年からオンラインでMBAのクラスを受講している。何年も前から、勤務先にMBAを取得するように言われていたのだが、出張の多い仕事と子育てに追われる彼女には、普通の大学に通う時間がなかった。オンライン講座の普及により、彼女のように多忙な人でも大学や大学院で勉強をすることが可能となったのである。
彼女が籍を置くメリーランド大学では、14の学士号プログラムと10の修士号プログラムをオンラインで提供している。学費はオフラインと同額。入学願書のダウンロード、願書の送付、申請料の支払、教科書の注文、クラス要綱の閲覧、クラス登録などすべてオンラインで完了する。
教授による講義はウエブ上に掲示され、宿題の提出、教授への質問、クラスメートとのディスカッションは電子メール、または掲示板やチャットによって行なわれる。テストもウエブ上に掲示され、それを各生徒が閲覧した時間が記録され、それからたとえば24時間以内など、決められた時間に提出しなければならない。成績もメールで送付され、クラス全体の成績もウエブ上に表示される。
オンラインだからといって、既存のプログラムより簡単というわけではない。あるクラスでは、25人のクラスメートのレポートをすべて読み、全員に対し最低ひとつの質問を電子メールで送らなければならず、同時に自分の書いたレポートに対し、25
人から質問が来て、それに答えなければならなかったという。
私の友人のような立場のアメリカ人は多く、アメリカではオンライン講座を提供する大学が急増している。アメリカでは、従来、通信教育あるいは遠隔教育といえば、ビデオテープやクローズドサーキットTV(CCTV)を利用したものが主流であったが、過去2年でインターネットが取って代わった。カリフォルニアではオンライン講座を提供している大学は100校以上にのぼる。
アメリカの遠隔教育市場は30億ドル市場と言われており、遠隔教育を行なう四年制大学、2年制大学は、98年にはそれぞれ全体の62%、58%であったのに対し、2002年にはそれぞれ84%、85%に増加すると見られている。遠隔教育を利用した大学生は98年に71万人(全体の5%)であったが、2002年には220万人(15%)に伸びると予測されている。
大学側としては、働きながら勉学する学生や遠隔地の学生に、利便性や高等および職業教育へのアクセスを提供し、より多くの学生を集め、かつ運営コストを下げるという狙いがある。
社会人をターゲットに、全米だけでなく、海外にまでキャンパスを広げ、かつて「高等教育のマクドナルド」とあざわらわれたフェニックス大学(online.uophx.edu)は、今では学生総数66000人、アメリカ最大の私立大学に成長しているが、インターネットにも早くから進出。こうした新興大学に市場を奪われるのを指をくわえて見てはいられないと有名大学も次々にオンラインに進出、競争は激化している。
これまで、通信教育で取得した学位や資格は、オフラインで取得したものより劣るというイメージがもたれていたが、スタンフォードやコロンビアなどの有名大学がオンライン講座を提供し始め、そうしたイメージが変わりつつある。「オンラインであろうがなかろうが、スタンフォードはスタンフォード」と、有名大学では自校のブランドを利用して市場を広げる戦略だ。ちなみにスタンフォードのオンラインの電気工学修士号コースは、オフラインのコースよりも4000ドル高い。
実際にキャンパスを持たない、完全にバーチャルな大学も登場している。ジョーンズ・インターナショナル大学 (www.
jonesinternational.edu)は、米国教育省の認定を受ける初のバーチャル大学となり、論議を呼んだ。同校では、ビジネスコミュニケーションで学士号と修士号、修了認定証を授与しているが、常勤の教授はわずか3人。講義の開発は常勤の教授が行ない、実際の教鞭は非常勤の教授が取る仕組みだ。大学教授協会などは、一人あたりの学生に対する教授の割合が低いことなどを理由に、同校を認定した来た北中大学学校協会を批判している。
実際、教育のオンライン化を憂慮する声は少なくない。従来、教授らが作成する講義要綱や内容などは教授が著作権を所有してきた。オンラインの場合、そこにプログラマーやデザイナーが手を加え、著作権が大学の手に渡り、自由に販売されてしまうのだ。また多くの大学がソフト開発会社などと提携して、オンラインプログラムを開発するため、高等教育がソフト開発会社などの手にわたり、大学教育の商業化、企業化を危ぶむ声もある。
しかし、インターネットのおかげで、より多くの人が高等教育を受けられるようになったという利点は否定できない。日本にいたって、アメリカのMBAが取得できるのだ。
少子化で先行きの暗い日本の大学。どんどん狭くなる国内市場が、インターネットを通じて世界市場に進出するアメリカの大学によってさらに市場を奪われることは間違いないだろう。
有元美津世/N・O誌2000年3月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 4/1/2000
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