米国ニュービジネス発掘−1−

大型店を寄せつけない
CS徹底の自転車店


会社名: Zane's Cycles
設 立: 1981年
代 表: Chris Zane
売 上: 120万ドル
従 業 員: 8〜0人(シーズンによる)
事業内容: 自転車小売販売

 日本では、数年前、トイザラスの進出が、小売業界に大きな波紋を投げかけたが、アメリカ国内でも、様々な業種における大型店の進出により、零細小売店は生き残りに苦心している。

コネチカット州ニューヘイブンにも、大型スポーツ店やウォールマートなどの量販店が次々に進出。

 ここ1年半の間に、自転車店3店が廃業に追い込まれた。 さらに、今年、アメリカの自転車業界の売上は、前年比19.1%の下落。そうした中、地元最大の独立系自転車店であるゼインズ・サイクルズでは、昨年と同じ売上を維持し、年間25%の成長率で、市場シェアを伸ばし続けている。

 同店の成功の秘訣は、サービスにある。「うちの自転車がよその店の自転車より優れているとは言えない。自転車は自転車に変わりない。差別化できるのはサービス面のみ。お客さまがどのブランドを選ぼうが、優れたカスタマーサービスを提供する、お客さまが期待している以上のサービスを提供するというのが当店のモットーです」と店主のクリス・ゼイン氏は語る。

 同店では、これまでにカスタマーサービスを充実するために様々なプログラムを実施してきた。まず、10年前、他の店が販売自転車に対し30日のサービス保証を提供しているときに、1年保証を実施。他の店が1年保証にすれば、同店では2年保証に。そして、ニューヨークの自転車店が5年保証をしているのを知った87年には、とうとう永久保証に踏み切った。

 「たいていの人は、5年で自転車を買い変える。無料サービスの利用はだいたい1年目に限られ、2年目の利用率は2ー3割程度。そこで、永久保証の保証責任は大したことはないと踏みました」  永久保証は、過去に販売された自転車にも適用された。

 他の店は、「永久保証なんて馬鹿げている」と言いながらも、商売維持のために同店に追従せざるを得なかった。中には、「永久保証を辞めないか」ともちかけてきた店主もいるという。

 同店では、この他、「単にお客に販売するのではなく、お客を“とりこ”にする」ためのユニークなプログラムを数々実施してきた。

 ・1ドル以下の商品は無料。「年間コストは150ドル。それで、顧客から長年にわたる信頼を得られるなら安いもの」(ゼイン代表)

 ・価格保証。2年前に、90日間価格保証プログラムを開始。同店で購入したのと同じ自転車が州内で同店より安く売られていれば、差額プラス10%を返金するというもの。このプログラムのお陰で、昨年の売上は例年の25%に比べ、54%伸びたという。このプログラムによる返金額は、累計1000ドル。「払い戻しを受けた人の半分が、その日にその分当店で買物をしてくれます」

 ・携帯電話無料進呈。価格225ドルの携帯電話に対し、消費者が(開設?)すると、電話会社よりユーザー一人あたり250ドルのコミッションが支払われることに目をつけたゼイン代表は、早速、電話会社に連絡、「代理店になりたい」と申し出た。乗り気でなかった電話会社を説得して、自転車の購入者に携帯電話無料進呈サービスを開始。この地域で、小売店が電話を無料進呈したのは同店が初めてだ。同店の利益は電話一台につき5ドル。その後、電話機の価格は130ドルに下がり、利益は一台につき120ドルに上昇。ユーザーの電話使用料に対して5%のコミッションも支払われる。同店では、これまでに2000台の電話を(開設)し、これまでに1.3万ドル以上の収入を得ている。

 ・実際よりも大規模な商売に見せる。32ページのうち16ページはゼイン・サイクルズ用のカスタムメードで、残りは他の自転車店と共通の共同カタログを作成。同カタログでは、トールフリー番号も掲載しているが、電話はほとんどがコネチカット州からかかってくるため、コストは年間料金の24ドルと、シーズン夏場の月200ドル。ちなみに、同店の広告予算は6.5万ドルだ。

 ・コーヒーカウンター。ゼイン代表は、スイスを旅行中に訪れた自転車店にコーヒーカウンターがあったことから、3年前、店内に7メートルのマホガニーのカウンターを設置。お客は買物がてら、また修理を待つ間にグルメコーヒーを楽しめる。子供たちにはジュースを無料進呈。カウンターは、昔の従業員が製作し、コスト3000ドル。コーヒーメーカーは、コーヒー豆業者から無料で提供される。

 ・以前の競合店を宣伝に利用。廃業した競合店の電話番号に電話すると、「この番号は現在使われておりません。自転車店にご用のお客さまは、ゼインズ・サイクルズが承ります。ゼロを押して頂くと、フリーダイヤルにつながります」という録音が流れる。コストは月に200ドル。昨年7月だけでも、このルートで260件の問い合わせがあったという。

 ・地域社会サービス・マーケティング。89年にゼイン財団を設立し、高校生5人に1000ドルの大学進学奨学金を授与。この基金は、町中にあるキャンディの自動販売機からの売上でまかなわれる。自動販売機には、ゼイン財団のポスターを掲載。初期投資2500ドル。

 さらに、ゼイン代表は、幼稚園での安全な自転車の乗り方指導や、警察への自転車登録の促進にも携わる。コネチカット州が自転車利用の際のバイク着用を義務付けたときには、小売価格40ドルのヘルメットを20ドルの原価で子供たちに提供。同プログラムの宣伝効果は大きく、売上増につながった。

 また、同店は、地元リトルリーグチームのスポンサーも務めている。「300人の子供に名前を覚えてもらえ、地域社会に貢献しているということで、保護者からの信頼も得られる。コストは年間わずか200ドル」という。子供の自転車の購入者である両親に対しだけでなく、将来、購買者となる子供たちもマーケティングの対象だ。8才のときにリトルリーグに参加し、「その頃、目にしたスポンサー企業の名前を31になった今でも覚えている」というゼイン代表は、「20ー30年先を見て、今から種を撒いておく」ことの重要性を強調する。

 ゼイン代表がゼイン・サイクルズを始めたのは16才のとき。祖父から2万ドル借金し、つぶれかけていたアルバイト先の自転車店を購入した。今では、その頃のお客の子供がお客として来店する。現在、顧客の1割がこうした2世代目だ。ゼイン代表は、「2ー3世代目の顧客の割合を5割にすること」を目指している。


有元美津世/ベンチャーリンク誌1997年1月 掲載  Copyright GloalLINK 1997

Revised 5/15/97 web2@getglobal.com

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