米国ニュービジネス発掘−10−

60年ぶりの新生理用品開発
売上なしでナスダックに株式公開


会社名: Ultrafem, Inc.
設 立: 1990年
代表者: John W. Andersen(CEO)
売 上: 350万ドル(97年度見込み)
従 業 員: 42名
ホームページ: http://www.instead.com/

 タンポンが誕生したのが1933年。それから60年以上が経ち、やっと、広く女性に受け入れられる新しい生理用品が開発された。昨年、アメリカ市場に登場したインステッドという商品である。
 これは、避妊具ペッサリーのような形をした柔らかいプラスチックのカップで、血液を吸収するのではなく、集めるという点で、従来のナプキンやタンポンと大きく異なる。ミルクびんの乳首や注射器のキャップなど、医療業界で使われている非刺激性素材で作られており、熱可塑性のため、体熱で柔らかくなり、個々の女性に合わせて変形し、ぴったりフィットしてもれることがない。また、タンポンのように吸収性がないので、量の少ない日でも乾燥して痛くなることもない。特に高吸収性のタンポンは、80年初期、有毒ショック症候群(TSS)による死亡者が出て以来、使用者が減ったが、TSSの原因であるバクテリアを繁殖させない。タンポンの倍の時間使え、量の少ない日には最高12時間使えるという。また、血液が外気に触れないので、ナプキンのような異臭がない。さらに、生理中でも性行為に支障をきたさないという利点もある。価格は、6個入り2.29ドル、16個入り5.49ドルと、タンポン並みだ。
 インステッドを発明したのは、ウルトラフェムの創立者兼製品開発担当上級副社長オードリー・コンテンテ氏。トライアスロンの選手でもあったコンテンテ副社長は、若い頃から、既存のタンポンやナプキンに大きな不満を抱いていた。「女性は、だいたい40年ほど生理を経験するわけですが、これは通算すると10年以上の間、女性の生活が何らかの形で制限されるということです」 90年代初めに、アメリカで行われた調査によると、半数の女性が既存の生理用品に何らかの不満を持っており、特にもれに対する不満が高く、5人に3人がタンポンとナプキンを併用するという結果が出ている。
 こうして、80年代前半、コンテンテ副社長は、勤めていた化学品会社を辞め、新しい生理用品の開発に取り組んだ。切り刻んだコンドームを枠に貼りつけるなど、様々な素材を使って、いろいろなデザインを試してみたが、「自分が使ってみていいと思えるものでなければ、市場で売れない」と、作ったプロトタイプは、すべて自分で試してみた。89年に、初のプロトタイプが完成し、特許を申請。
 コンテンテ副社長が、研究開発に費やした期間は、10年以上、金額は1.200万ドルにのぼった。89年から94年の間、友人や知人などに出資を依頼。金融や医療業界にコネはなかったため、人の紹介を通じて、あらゆる人に会ったという。「出資をしてくれると言いながら、結局は約束を守らない人も多く、まるで未開のジャングルを一人で開拓しているようなものでした」
 93年にFDA(食品医薬品局)の認可を取得。カナダとヨーロッパでも、同様の許可を得た。94年にはソフトカップ技術に対し特許を取得。カナダでも特許を取得し、現在、世界中で製造特許を含む11の特許を申請中だ。
 しかし、その時点では、まだプロトタイプが完成していただけで、販売する製品はなく、開発費総額2000万ドルを費やし、売上はゼロという状態だった。コンテンテ副社長は、ニューヨークの小さな証券会社に頼み、特許を担保に約束手形を発行し、600万ドルを集めた。この資金で、自分が苦手とする管理、財務、マーケティングを任せられる経営陣をリクルートした。消費者製品市場で20年の経験を持つベテランを会長兼社長兼最高責任者に向かえ、自分は副社長に就任。その後、財務最高責任者と女性向けケア製品のマーケティングスペシャリストを採用した。
 こうして市場調査などマーケティング活動を開始。生理用品の世界市場は、推測年間売上80億ドルといわれ、アメリカだけでも、18〜54歳の女性約5.800万人が、生理用品に18億ドルを消費する。ヨーロッパ市場は、この倍近くあり、1億500万人の女性が年に30億ドルを消費する。
 大きな市場ポテンシャルを確認し、商品をやっと市場に送り出せるとなった段階で、再び資金が底をついた。経営陣は、唯一残された道は、IPOしかないと判断。先の証券会社と組んで、96年2月にNASDAQ株式を公開し、3.600万ドルを集め、9ヶ月後、さらに3.720万ドルを集めた。「商品をひとつも売ることなく、株式を公開できるなんて、信じられませんでした」とコンテンテ副社長自身もいう。実際、需要が多く、予定よりも40万ドル多い340万ドル相当の株式を発行した。
 96年8月にワシントン州から北カリフォルニアまでの北西部で販売を開始。今年4月、西部全域に進出した。6月末時点での市場シェアは、北東部で4.4%、西部で1.9%。全米への進出は98年を予定していたが、大手ドラッグストアチェーン数社から、インステッドの取り扱い依頼を受け、今年6月、全米市場への販売に踏み切った。
 同社の市場シェア目標は、5年間で6%、利用者数600万人だったが、これは今年中にも達成しそうな勢いだ。
 「シェア獲得の鍵は、できるだけ多くの女性に実際に製品を試してもらうこと」と、同社では、フリーダイヤルやホームページを使い、無料サンプルの提供を行なっている。96年末の時点で、無料サンプルに応じた女性の6割以上が「インステッドに変えるつもり」と答え、使用者の9割近くが満足。使用者のインステッドへの転換率は、36%ということだ。
 昨年夏に販売を開始してから、毎四半期、売上を倍増し、6月決算の97年会計年度の売上は、350万ドルに達した。しかし、まだ、2,000万ドルの損失を計上しており、利益が出るまでには時間がかかりそうだ。
 現在、ソフトカップ技術を利用した避妊製品の開発に取り組んでおり、1年以内には、プロトタイプが完成予定だ。同時に、同技術と一部特許取得済みのバッファージェル技術を組み合わせ、エイズを含む性病予防製品の研究開発も進めている。これに関しては、国立衛生研究所から、200万ドルの補助金、ヨーロッパのHIVネットワークからの助成金授与が決定しており、2000〜2004年の完成を目指している。その後は、避妊と性病防止両方を兼ね備えた製品を開発するつもりだ。また、同技術の婦人科系疾病の治療への応用も研究中である。


有元美津世/ベンチャーリンク誌1997年10月 掲載  Copyright GloalLINK 1997

Revised 12/4/97 web2@getglobal.com

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