米国ニュービジネス発掘−2−

コミッション収入低下で登場

全米初“旅行スーパーストア”


会社名: TravellFest Superstores.Inc
設 立: 1993年
代 表: Gary E.Hoover
売 上: 1500万ドル
従 業 員: 88名
ホームページhttp://www.travelfest.com


 テキサス州オースティンにあるカラフルな地球儀を掲げた派手なビル。店内では、14台のビデオモニターが世界各地の風景を映し出し、棚には、ガイドブック、ビデオ、地図、カバン、飲料水浄化器など2万点の商品が並ぶ。実大の飛翼の模型が天井からぶらさがる予約カウンターでは、ビザの申請書も入手できれば、航空券の購入もできる。タッチスクリーンのコンピューターでは旅行情報が入手でき、普通は予約エージェントしか見れないホテル・旅行インデックスを閲覧することもできる。旅行に関連するものなら、ここ一店で何でもそろう。パスポートさえあれば、ここから海外にそのまま旅立つこともできる。

 「これまで、旅行の準備の際、航空券、ガイドブック、カバン、トラベラーズチェックを購入するのに、それぞれ別々の店に行かなければなりませんでした。それを一ヶ所ですべて揃うようにしたのがトラベルフェストです」と言うのは、94年に全米初の旅行スーパーストアを開店したゲーリー・フーバー社長だ。

 トラベルフェストの店内には、子供コーナーの他、北米、ヨーロッパ、アジア・アフリカ・太平洋、ラテンアメリカコーナーなど地域別のコーナーが設けられ、それぞれの地域のツアー資料や語学ガイドが用意されている。また、同店では、語学や、飛行恐怖症の克服法、グランドキャニヨンでの川下りなど、月に20の講座を開講している。その9割が無料であり、受講者の数は月6ー700人にのぼる。

 「私は、トラベルフェストを旅行者にとってのドリームプレースにしたいのです」

 「この20ー30年、小売業で起きた大変革は、旅行業には及ばなかった」とフーバー社長は起業の動機を語る。「旅行産業は巨大産業であり、航空券だけをとっても、世界的に8ー10%で伸びている。しかし、そのマーケティング方法といえば、30年前のまま。代理店は、6時に閉まり、週末は休業。旅行の広告はたいてい日曜紙に掲載されるというのにですよ。代理店の店内といえば、殺風景で面白みもない。商売は、店頭よりも電話で行われる方が多かった」

 こうした旅行業界に大変革をもたらすべく、トラベルフェストは、週7日、朝9時から夜11時まで営業。「ショッピングが楽しめるように」とデザインを凝らした店舗は、ニューヨークのチェーン店誌からデザイン賞を受賞した。

 同店では、30代から40代の女性をターゲットにしている。「一般に女性の方が買物が好きだし、買物上手です。旅行のプランニングをするのも女性の方が多いようです。またこの世代はお金を持っていますし、これから年をとり、退職する頃には、旅行への需要はグンと高りますよ」

 同店では、新聞の旅行セクションに広告を載せているが、多くの客がクチコミでやってくるという。「通りかかったときに見かけたというお客さまも多いですよ。これは、従来の旅行代理店とは大きく違う点だと思います」

 年商1500万ドルの8割が、一般旅行者やスモールビジネス向けの航空券販売によるものだが、ガイドブックなどの小売販売は利益の2割以上を占めるという。

 フーバー社長は、82年、全米初の書籍スーパーストア、ブックストップを設立、全米で第4位の書店に成長させた。同店は、89年、全米最大の書籍スーパーストア、バーンズ&ノーブルズによって買収された。

 子供の頃から小売業に興味のあったフーバー社長は、「小売業ほど、多くの人の人生に影響を与える職業は他にない」と信じている。「政治で、社会は変えられない。政府とか法律というのは、人々の生活を悪くするだけです。ビジネスは、人々の暮らしをよくするための手段と成り得るんです」

 「書籍販売も旅行業も、教育産業、教育にエンタテーメントの要素が加わったものです。裕福な家庭の子供は、私立の学校で優れた教育を受けることができる。私は、貧しい子供たちに教育の場を与えたい」

 スーパーストアのコンセプトを書籍販売にもたらして成功したフーバー社長だが、同じコンセプトが旅行業で成功するかどうか確信はなかった。「ただお客さまの要望に応じて商売をしただけです。お客さまはもっとまともな扱いを受けたいと思っていたのですよ。当店では、お客さまが期待した以上のものを提供したのだと思います」

 しかし、書店経営に比べ、旅行業経営の方がはるかに難しいという。「まず、航空券の販売というのは非常に特殊な商売です。規制がたくさんあり、価格体系が非常に複雑です。次に、給与形態が違います。旅行エージェントというのはコミッション制ですし、経験を必要とします。学生のバイトを雇うというわけにはいきません。旅行業界で使われているコンピューター・システムも時代遅れです。それに、品物が多様ですね。何しろ世界を売っているわけですから」

 「小売店というのは、公共の場である」と信じるフーバー社長は、「他の旅行代理店が事務所を見せてほしいと言って来ますが、『うちは小売店なので、いつでもお立ち寄りください』とお答えしています。当店には、誰でも自由に出入りができるのですよ」という。

 また、「旅行スーパーストアを経営したいと言って視察に来る人たちは多いですが、皆さん、ガイドブックだけを扱いたいとか、航空券だけを販売したいとか、どれか一つだけをやりたいとおっしゃる。すべてやらないと駄目でしょうね。皆さん、手っ取り早く金儲けがしたいと考えてらっしゃるようですが、そういう考えでは成功しません」

 今後、旅行業では、オンライン販売、スーパーストア、スペシャルティストア(特化専門店)の三つが伸びると考えられているが、スーパーストアが業界を牛耳るのは、まだ先のことだとフーバー社長は見ている。しかし、「個人経営の小さな旅行代理店が、市場シェアを失うのは必至です」

 95年に、オースティンに2店目を開店した同店では、97年に、ダラスかヒューストンに3店目をオープンする予定だ。「そのうち全米に進出するつもりですが、まだ先の話です」


有元美津世/ベンチャーリンク誌1997年2月 掲載  Copyright GloalLINK 1997

Revised 5/15/97 web2@getglobal.com

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