アメリカには、昔からマニュファクチャーズ・レップ(メーカー代理店)と呼ばれる商売がある。これは、コミッション制で複数のメーカーの製品を販売するというものだ。たいていのマニュファクチャーズ・レップは、一定の業界や地域を専門とする。従来のマニュファクチャーズ・レップは、社長がセールスマンを雇い、営業以外は、人事から経理まですべて社長がこなすという零細企業であった。
そうした古い体質のマニュファクチャーズ・レップ業界に、新しい経営方式をもたらしたのがタムコである。同社は、88年、それぞれコンピューター業界で販売・マーケティングの経験を持つチャック・バグウエル氏、ロバート・ダニーズ氏、アイリーン・タム氏、マーク・サターフィールド氏の4人のパートナーによって設立された。
「その頃、南カリフォルニアでは、優れた製品を生み出すコンピューターのベンチャー企業が急増していましたが、こうした会社はエンジニアが始めるケースが多く、営業・マーケティング方法や流通システムのノウハウに欠けていました」というタムコでは、顧客の9割がPC、マッキントッシュ、コンパチ、周辺機器などのメーカーである。
同社は、コンピューターメーカーと小売店の仲介役として、販促企画から広告物の作成までフルサービスを提供する販売専門組織である。
たとえば、タムコ・インセンティブプログラムでは、メーカーのために、見本市への出展、販促用の商品・賞品・ギフトの手配など、コンテストで使うTシャツが必要となれば、その購買も引き受ける。
「いわば、メーカーにとってのワンストップ・ショップですね」(タム財務最高責任者)
また、在庫や返品などに関し、詳細にわたる分析レポートも作成する。
従来のマニュファクチャーズ・レップでは、こうしたきめ細かなサービスは提供していない。
さらに、同社が、従来のマニュファクチャーズ・レップと大きく異なる点は、各パートナーが専門の分野を担当していることだ。ダニーズ氏は販売予測・戦略実施なども含めたメーカーおよびベンダー管理、サターフィールド氏は小売店管理、タム氏が経理、財務、法務など総務全般を管理、バグウエル氏が全機能を監督し、将来へのビジョンを設定する。
同社では、全米各地域に独立会社を設立し、各地域に根をおろしたマネージング・パートナーと組んでいる。カリフォルニア州、アリゾナ州など5州から成る南西部、オレゴン、ワシントン州など5州から成る北西部、ジョージア州、フロリダ州などの南東部、最近、コロラド州を中心としたロッキー・マウンテン支社も設立した。北西部支社では、マンージング・パートナーと組んで新しく会社を起こしたが、南西部支社は倒産しかけていた流通会社をタムコが立て直したものだ。
経理や人事などの業務は、すべてカリフォルニアの本社で行ない、支社は、販売に専念する。独立会社として始まったこれらの支社では、当初、それぞれ独立して管理業務を行なっていたが、本来の販売業務より管理業務の方が繁雑になったため、こうした本社集中システムに切り替えた。
「過去9年の間にいろいろな間違い犯し、勉強した。今あるモデルは、そうした経験を生かしたシステム、いわばテンプレートで、新しい地域に進出しても、そのまま使える」とタム代表は自負する。
販売先は、コンピューター・スーパーストア、大型チェーン、通販会社だが、最近、特に通販の伸びが著しいという。こうした小売店のほかに、イングラム・マイクロ、メリサー、テクデータなどのコンピューター専門流通会社も重要な顧客である。こうした流通会社は、過去10年で大きく成長した。元々、メーカーは直接小売店に販売していたが、今では、受注、パケージング、出荷、在庫管理、金融機関の役割も果たす流通会社にすべてを委託するケースが増えている。
タムコには、流通会社、小売店、大手エンドユーザーと、販売先に応じた3部門があり、それぞれ異なる戦略をもとに、それぞれ違った営業員を配置している。
「全米に営業力のあるメーカーは少ないし、我々が既に築いている販路を利用すれば、一から販路を開拓する必要はない。それに、何と言っても、メーカー側からすれば、我々は変動コストですから」とタム代表は、同社を雇うメリットを強調する。
同社は、メーカーから売上高に応じたコミッションを受け取る。契約書にある期日通りにコミッションを支払ってくれる会社は極わずかで、代金取立業務も行なわなければならない。
メーカーとの契約は、通常、一年。同社が流通経路を開拓した後、メーカーが直接取り引きを始めるケースが多い。
「昔から、有能なマニュファクチャーズ・レップというのは、自分で自分の職を奪うものと言いますので、仕方がないですね」(タム代表)
設立当初、顧客の獲得も難しく、1年目は、7回ほど止めようと思ったときがあったという。年商が4.2億ドルに達した今では、同社の業績、評判を聞きつけて、大メーカーの方からやってくるそうだ。フォーチュン500のような大企業からの問い合わせも増えているが、同社ではエンドユーザーには販売しないため、小売店の販売員を教育しながら、小売店とともにエンドユーザーへの営業に取り組む。
コンピューター業界は、今後も成長を続けることは間違いないが、同社では、別の業界に進出し、多様化を狙っている。「我々がコンピューター業界で確立したモデルが、別の業界でもうまく機能すると確信しています」(タム代表)