米国ニュービジネス発掘−26−
取材企業25社が示す ニュービジネスの新潮流 本コーナーでは、過去2年間に24社のアメリカ企業、1社のカナダ企業を取材してきた。これまで見てきた企業の事例から「アメリカにおけるニュービジネスの傾向」を分析してみたい。 媒体のひとつとしてのインターネット まず、顕著なのが、ビジネス社会へのインターネットの媒体としての浸透である。1997年4月号で、シリーズ初のインターネットビジネス、Amazon.comを取り上げた。その後、インターネットビジネスは一気に盛り上がり、新たなビジネスが次々に登場している。本シリーズでも、インターネットを使って自動車を購入できるオートバイテル、オンラインで起業家のDPOをサポートするダイレクト・ストック・マーケット、インターネットで企業の人事・福利構厚生管理サービスするエンプロイーズを紹介した。 しかし、徐々に、インターネットをビジネスそのものとしてでなく、媒体のひとつとして利用するビジネスが増加しはじめた。たとえば、98年10月号で紹介したサンベルトビジネスブローカーズ。スモールビジネス売買仲介業を展開する同社では、インターネット上で約2000件の物件が閲覧できる。またインターネットは、ブローカー間、FC本部と加盟店との大事な通信手段としても使われている。同社への問い合わせの多くは、ホームページを通じて寄せられ、同社の重要な広告媒体となっている。 ハイテク企業向けに人事業務アウトソーシングサービスを提供するトライネットでは、社員やクライアントがエクストラネットを通じてセルフサービスで社員データにアクセスできる。これはデータ管理コストの大幅な削減であると同時に、社員やクライアントへのサービス向上につながる。非常にユニークな利用例は、環境保護製品の通販会社、リアルグッズだ。同社では、紙媒体よりも環境にやさしいオンラインカタログを設けただけでなく、インターネットを使って、直接個人に自社の株式を公開・販売している。 インターネットが登場したころ、スタートアップが大企業と対抗できる場として期待されたが、その後、既存の大企業が次々とオンラインに進出し、スタートアップを買収するなどして淘汰が起こった。 実際には、インターネットは、スモールビジネスが限られた資本と人材で、大きなビジネス展開をするためのツールのひとつとして役立っているといえるだろう。インターネットは電話やFAXと同様、コスト削減、販路拡大に役立つツールである。「インターネット上で何をするか」ではなく、「事業目標を達成するためにインターネットをどう使うか」
といった発想が必要だろう。ポイントは、既存の事業戦略にいかにインターネットを組み込むか。今後のスモールビジネスの成功は、インターネットを含めたテクノロジーをいかに駆使するかにかかっている。 利便性の提供が鍵 次に、ニュービジネスに共通するのが、利便性の提供。トラベルフェストでは、ガイドブックやかばん、航空券の購入やビザの手続きまで、旅行に関するものがすべてそろう。ストリムラインでは、食料品の配達やドライクリーニング、レンタルビデオの貸し出し返却、びんや缶のリサイクルまで代行してくれる。 利便性を求めているのは消費者だけではない。カードセンダーズでは、忙しい企業に代わって、顧客との関係維持に重要なさまざまなカードを送付する。アシストUのバーチャルアシスタントを使えば、自宅で仕事をしながら、新たに机やコンピューターを購入することなく、アシスタントを雇うことができる。 また、スモールビジネスのFC化、より大規模な事業展開も、最近の傾向である。比較的低コストでできるFC展開は、金銭的・人的資源が限られたスモールビジネスにとって、有効な事業拡大手段として利用されている。 サンベルトビジネスブローカーズでは、創立後16年目にFC化。社員わずか7人で、いまでは130の加盟店を管理している。事務所をもたないモバイル検視サービスのAutopsy/PostServicesの社員数は、わずか3人。しかし、FCの米国内だけでなく海外各国でもFCを展開中であり現在までに3200件の申し込みが来ているという。 しかしアメリカでは、FCを展開するにあたって州ごとに許可を受ける必要がある。そこで、別の方法で事業拡大をするスモールビジネスもある。カードセンダーズでは、ソフトをライセンスし、ラインセンシーに事業方法の研修を行なう。プロフェッショナル・エクスペクテーションも、コンサルティングという形で、運営マニュアル、マーケティングプラン、仕入れのアドバイスなどの基本パッケージを販売し、マタニティドレスのリースビジネスを各地に広げている。こうした形であれば、個人経営でも、大きな展開ができるのだ。 進む起業家の低年齢化 最後に、注目すべきなのは、創業者の低年齢化だろう。紹介した25社のうち、半数以上の創業者が30代、またはそれ以下であった。ジョブダイレクトにいたっては、創業者2人は大学生であり、ゼインズサイクルズのゼイン社長が起業したのは、わずか16歳のときである。アメリカでは、起業率は若い層でもっとも高く、起業準備中の約10人に8人が18才から34才である。90年代前半、アメリカでは不況のため大学を出ても職がないという状況が続いた。親の世代が長年働いてきた企業に無残にもリストラされるのを目のあたりにし、たとえ大企業に就職したところで、将来の保証はないという厳しい現実を見ている。独立精神旺盛なX世代は、初めから独立を目指す。 また、子供の頃からハイテクに親しんできた若い世代は、これからの企業には不可欠なテクノロジーを使いこなせるという強みがある。 テクノロジーのビジネスツールとしての一般化、利便性の追求、創業者の低年齢といった傾向は、今後も続くと思われる。 当連載では、これからもアメリカのユニークなニュービジネスを紹介していきたい。
有元美津世/ベンチャーリンク誌1999年2月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-1999 Revised 3/4/99 nu web2@getglobal.com 「米国ニュービジネス発掘」インデックスへ |