米国ニュービジネス発掘−36−
関係者間のやり取りを迅速化
建設プロジェクト情報・工程管理 会社名:BidCom
設 立:1997年
代表者:Daryl Magana
URL:http://www.bidcom.com
建設業界は、一国のGNP(国民総生産)の平均10%を占める巨大産業であるにもかかわらず、「最新技術の導入に消極的な業界」というイメージも手伝ってか、ハイテク業界に無視されてきた。
建設プロジェクトというのは、一般に、何ヶ月または何年にもわたって、建築事務所や建設会社など複数の企業が共同作業を行なうものである。その間に、設計図から契約書、注文書、許可書、スケジュールまで膨大な量の書類が関係者の間でやり取りされる。書類は郵便や宅急便で送付され、かつ関係者の署名が必要とされるプロセス重視の紙集約型業界である。さらに諸規制遵守、許可取得、労働組合や賃金紛争、悪天候などのワークフロー問題によってプロジェクトの進行の遅れが頻繁に起こる。
このように「非効率のために2000億ドルが無駄になっている」といわれる建設業界が、独自で技術開発や導入を行うことなく、ワークフロー管理をアウトソースし、基幹業務に集中できるようなシステムを考え出したのがBidComだ。
BidCom社のIn-Siteは、各種アプリケーションを統合したインターネットベースのプラットフォームで、ブラウザを通じ、関係者が複数のプロジェクトの資料請求、CAD、写真、青写真、法的書類、予算、スケジュール、カレンダーなどに一ヶ所でアクセスできるようにしたものである。重要な情報への瞬時のアクセス、関連者間でのリアルタイムの共同作業を可能にし、情報の流れや管理およびスケジューリングの効率化による生産性の向上、リマインダーやトラッキング機能による提出日管理などによるリスク軽減などを図るのが目的だ。
設計段階では、設計図、仕様書、許可申請書、契約書、スケジュールなどの書類をオンラインで交換および共有でき、デジタル署名が用いられるため、わざわざ宅急便で送付する必要がない。各書類には「ROMのみ」「上書き可」などのルールを与えることによって、データの完全性・セキュリティを確保できる。青写真を表示し、上から質問やコメントを書き込める機能も搭載している。
建設段階では、情報請求、資材チェック、請求書や議事録などの管理の効率化が図れる。建設業者や下請業者は、現場に向かう前に、資材納入日、建設現場での状況などをモニターすることもできる。
In-Siteは役割ベースシステムを用いており、各ユーザーの役割にあったコンテンツを提供する。つまり、建築士がアクセスできるコンテンツは、エンジニアや建設業者がアクセスできるコンテンツとは異なり、役割によってアクセスを制限できるということだ。
書類はすべてルートと進行具合を追跡調査でき、どこで留まっているかがチェックできる。たとえば、スクリーン上で各ユーザーが「あなたの番」をクリックすると、プロジェクト進行のためにそのユーザーが返答しなければならない内容が表示される。その内容は、自動的に次の担当者に送付されるという仕組みになっている。
In-Siteにアクセスするのに必要なのはブラウザのみであり、特別なソフトやハードは必要ない。たとえビルのオーナーが海外在住でも、インターネットを通じ、随時プロジェクトの進行具合をチェックすることが可能というわけだ。
プロジェクトが完了すると、電子メールを含めたすべての通信記録や書類はドキュメント化され、CD-ROMに収められてクライアントに提出される。これは、設備管理、プランニング、関連部署への経費割当、訴訟などの際の証拠データとして利用される。
オフラインモジュールもあり、現在、3Comのパームパイロットでベータテスト中である。建設現場で、インターネットに接続 するのはむずかしい。そこで、システムの一部をラップトップやPDA(パーソナルデジタルアシスタント)にダウンロードしてオフラインでも利用できるようにした。後でインターネットに接続した際に、自動シンクロ機能で、オフラインでの作業をもとにプロジェクトデータベースを更新する。モバイル機能によって、建設業者は、在庫や受け渡し記録、進行状況更新などを建設現場からでも記録できる。同機能は99年中に市場に本格導入される予定だ。
In-Siteの特徴は、ドキュメント管理やスケジューリングなどのグループウエアとは違い、設計、プランニング、建設、完了・引き渡しまで、建設プロジェクトの全ライフサイクルを管理しているところだという。建設業界向けプロジェクト管理ソフトは他にもあるが、設計段階、建設段階など建設プロジェクトの各段階を対象にしており、「建設プロジェクトの全ライフサイクルをターゲットにしたものは他にない」とダリル・マナガ社長は自負する。
BidComは、97年マナガ社長によって設立された。廃棄物処理会社に勤めていた頃、ディストリビューテッド仕事管理の重要性を学んだという。同社では、オラクルやサンなど数々のテクノロジー会社と提携。オラクルのベンチャーファンド部門からは、出資も受けている。
BidComのクライアントは、主に大手不動産開発会社(デベロッパー)、REIT(不動産運営投資会社)、企業などの大手オーナー、連邦政府および地方自治体である。In-Site自体は、クライアント以外に建設請負会社、下請会社、建築事務所、資材供給業者などによって利用される。
クライアントにとって、BidComを利用するメリットは、宅急便やファックス通信費、青写真費などのコスト削減以外に、時間の節約がある。サンフランシスコ市の公共事業部では、In-Siteを利用し、大規模プロジェクトを予定より6ヶ月早く終了した。プロジェクトによっては1年〜3年かかるものもあり、プロジェクト期間の短縮は、莫大なコスト削減につながる。
In-Siteの利用には、ユーザー一人あたり月50ドルのサイトライセンス料を徴収する。平均的プロジェクトのコストは、月1700ドルほどだという。
今後、オンラインでの入札、見込客紹介、資材供給などを開始し、取引に対する手数料も徴収する予定である。また、銀行や保険など付随分野での展開も計画している。
建設業界のグローバルスタンダードを目指すBidComでは、In-Siteの英語以外の言語版も開発中であり、まずはもっとも需要の高い中南米向けスペイン語版、次ぎに日本語版の開発も検討している。
有元美津世/ベンチャーリンク誌1999年12月号掲載 Copyright GloalLINK
1997-1999
Revised 12/25/99 web2@getglobal.com
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