米国ニュービジネス発掘−39−

オンラインサービスも充実
法廷速記者派遣サービス

会社名Atkinson-Baker, Inc.
設  立:1988年(法人設立)
代表者:Sheila Atkinson-Baker
URLhttp://www.depo.com

 

アメリカでは、法廷で裁判が行なわれる前に、証拠開示手続きの段階で行なわれるデポジション(証言録取)と呼ばれる司法手続きがある。デポジションは、法律事務所など法廷以外の場所で行なわれ、証人、原告被告双方の弁護士が参加し、証人が宣誓した上で訴訟代理人である弁護士の尋問に答えるというものだ。

 このやり取りは、同席するコートレポーターと呼ばれる法廷速記者によってすべて記録される。速記者によって記録された証人の供述内容は、後に法廷に提出され、証人の法廷での証言に代わって用いられ得る大事なものである。

 ロサンジェルスにあるアトキンソン−ベーカー社では、こうしたデポジションの手配、速記者の派遣を専門としている。つまり、弁護士がデポジションを行なわなければならないときに、同社に速記者の手配を依頼するわけだ。

 同社では、カリフォルニア州内であれば、1時間前の通知でも速記者を手配できるという。最近、増えているリアルタイムの速記(コンピューターソフトを用い、クライアントは速記者の記述内容をリアルタイムで受け取ることができる)の手配も可能である。また、必要に応じ、デポジション用の会議室を用意したり、通訳やデポジションのビデオ撮影を行なうビデオグラファーの手配も行なう。証言記述書の提出は、デポジション後10日以内を保証しているが、急ぎの場合は、翌日配達など特急サービスも提供している。

 さらに同社では、記述書の書庫保管も行なっている。複数の当事者が関与する大規模な訴訟の場合、各デポジションのトラッキングや関係者への連絡も請け負い、全デポジションの記録をCD-ROMにアーカイブして金庫に保存する。また、クライアントが州外や海外でデポジションを行なう場合も、速記者や会議室の手配を行なっている。クライアントの8割が法律事務所、残りの2割が保険会社や政府などだ。99年には5000人以上の弁護士にサービスを提供した。同社では法務関連雑誌などに広告を載せているが、クライアントによるクチコミが最大の宣伝だという。] 

 同社では、速記者、デポジションの手配依頼は、電話、ファックスだけでなく、インターネット上でも受け付けている。受け付けた依頼に対し、すべて翌日、確認のファックスを送付する。オンラインでの申込には、即時に確認のメールも送られる。

 オンラインでは、デポジション手配フォームに、クライアントが開始時間、場所、証人の名前、オフィスの用意が必要かどうか、ビデオグラファーや通訳が必要かどうか、訴訟名・番号、保険会社の場合は、保険に関する詳細などを記入する形になっている。

 さらに、同社のウエブサイトでは、クライアントが、法律事務所全体のデポジションスケジュールをカレンダー方式で確認できるようになっている。デポジションの日時や場所、担当弁護士、証人の名前を閲覧でき、また過去のデポジションを閲覧したり、訴訟名や証人名で検索することも可能である。     

 こうしたサービスにより、98年には20件であったオンラインの予約が99年には908件と急増した。料金は作成した証言記述書のページ数あたりで請求しており、こうしたサービスは無料で提供している。同社にとっては、顧客サービスであると同時に、受注の自動化、効率化につながっている。

 現在、アメリカの法律事務所の9割がインターネットを利用していると言われるが、アトキンソン?ベーカー社がウエブサイトを立ち上げたのは、インターネットが登場して間もない95年。当時、インターネットを利用していた弁護士は少なく、主に法廷速記者のリクルートのツールとして役立ったという。

 同サイトでは、供述書の作成の仕方、速記マシンの使い方など、速記者向け情報も提供している。99年だけでも、30人の速記者がウエブサイトを通じて応募してきたという。

 社長のシーラ・アトキンソン−ベーカー氏は、法廷速記者として20年の経験を持つ。連邦地方裁判所に勤めた後、フリーランスの速記者として働いていたが、仕事量が増加。営業マーケティングを専門とする夫のアラン氏とともに、会社を設立することにした。

 当初、在宅ビジネスと始めた事業が、今では社員100人、売上1300万ドル、年に17000件のデポジションをこなす企業へと成長している。

 この13年を振り返り、「一番大変だったのは、作成する証言記述書の質を維持すること」とアトキンソン−ベーカー社長は語る。しかし、同社がここまで成長できたのは、その質を維持したからにほかならない。

 同社のデータベースに登録されている速記者の数は3100人。99年にはこのうちの800人に仕事を出した。データベースに乗るには、同社が定める試験など、選考プロセスにパスしなければならない。

 速記者が起こした証言記述書は、製作オフィスでチェック、検印の上、発送する。速記者の斡旋会社には、証言記述書がそのまま速記者からクライアントに送られるところもあるという。

 製作オフィスでは、記述書の複写や配送作業も行なっている。現在、製作オフィスは、ロサンジェルス、サンディエゴ、サンフランシスコの3都市にあるが、今後、主要都市すべてに設ける計画だ。同社では、製作オフィス以外に、クライアントのためのデポジション用オフィスも、シカゴ、ダラス、ニューヨークなどの主要都市に用意している。

 アトキンソン−ベーカー社では、全米、海外に独自の速記者のネットワークを保有している。つまり、ロサンジェルスのクライアントがニューヨークで速記者が必要な場合、ニューヨーク在住の速記者を派遣するわけだ。競合会社では、ニューヨークの提携速記派遣会社に連絡し、速記者を送ってもらうという仕組みになっている。

 「競合会社の多くは、単に速記者派遣会社の集まり。当社は、全米に独自のネットワークを持つ唯一の法廷速記会社です」(アトキンソン−ベーカー社長)

 同社では、今後、さらにウエブサイトの機能を充実させていく予定だ。2月までには、訴訟の全データや証言記述書をオンラインでダウンロードできるようにし、またクライアントがオンラインで請求書を閲覧できるようにする。さらに速記者もオンラインで仕事や支払明細を閲覧できるようにする予定だ。

 

有元美津世/ベンチャーリンク誌2000年3月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 3/31/2000 web2@getglobal.com
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