米国ニュービジネス発掘−38−

大企業や政治家からのオーダー殺到
エグゼクティブアシスタント紹介業

会社名:The Duncan Group Inc.
設  立:1985年
代表者:Melba Duncan

 北米に1500近くあるという契約制エグゼクティブサーチ会社。その中でもエグゼクティブアシスタントを専門とする唯一の会社がニューヨークにあるダンカングループである。

 同グループが専門とするのは、CEOなど上級管理職のアシスタントで、年収5万5000ドル〜13万ドルクラス。「有能なエグゼクティブアシスタントは部下ではありません。エグゼクティブの姿勢でサポート業務をこなす一流のパートナーです」とダンカングループの創立者、メルバ・ダンカン社長は語る。

 ダンカン社長自身、15年間エグゼクティブアシスタントとして働いた経験を持つ。ニクソン政権の時代に商務省長官を務め、当時リーマンブラザーズの会長兼最高責任者であったピーター・ピーターソン氏のアシスタントを務めていたが、ピーターソン氏が辞職し、投資金融会社を設立した際に、一緒に新会社に移った。

 しかし、ピーターソン氏が起業するのを見て、自分も独立を決意。ピーターソン氏から3万ドルを借りるとともに、大手エグゼクティブサーチ会社、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ社への紹介を受けた。

 同社のレイノルズ氏もダンカン社長の手腕に感心し、出資。ダンカングループの主要株主となると同時に、エグゼクティブサーチ会社の設立、運営の仕方を指導した。「創業当初の数ヶ月はピーターソン氏の事務所で仕事をしていた」というダンカン社長。初仕事はピーターソン氏のアシスタント、つまり自分の代わりを見つけることだった。

 それから、14年。政治家やIBM、ボストン・コンサルティング・グループ、バンカーズトラストなどの大企業にエグゼクティブアシスタントを斡旋してきた。クライアントの多くはクチコミによるものだという。

 人材斡旋のプロセスは、まずダンカン社長自身がクライアントに直接会って、クライアントのニーズを見極める。そして、斡旋するエグゼクティブアシスタントの推定給与を算出し、契約書を交わす。ダンカングループでは、給与の28-35%を料金としてクライアント企業から徴収するが、その半分を契約書締結時に請求し、残りは人材斡旋後、請求する。

 「これまで頼まれた人材を見つけられなかったことはありません」とダンカン社長は自負する。一般の人材斡旋会社の場合、紹介した人材が一定期間在職することが料金支払の条件となるが、ダンカングループでは、料金は一切返金しない方針だ。紹介した人材が早期に辞職したり、クライアントがその人材に満足しない場合は、別の人材を紹介する。

 クライアント企業に紹介する人材も全員、ダンカン社長自身が、少なくとも電話で一度は話をする。
 クライアントに3〜4人の候補を紹介するには、履歴書100通から始めなければならないという。そのうちタイプミスなど不注意なミスがあるものを排除すると、約50人が残る。それから、キャリアの継続性、これまでの在職レベル、質などを検討し、25人に絞る。25人に電話で面接をし、実際に面接に来るのは10〜15人だ。

 24枚にわたる質問表に回答してもらった後、臨床心理学者が応募者を1時間面接し、育った家族環境なども含め、主に適応性を診断する。その後、2時間半〜3時間半にわたるテストを行なう。テストするのは、スペリング、単語力、文法、文章力などの文書コミュニケーション能力、読解力や事務処理能力(仕事の優先順位のつけ方)などの問題処理分析能力、計算力、性格診断テストなどだ。こうして、最終的に3〜4人をクライアントに紹介する。

 マッチングがうまくいくかどうかは、能力や職歴などよりも、「エグゼクティブとの性格的相性」にかかっているという。
 「もちろん、スキルも必要です。しかし、一番大事なのは性格なのです」とダンカン社長は語気を強める。そのためには、「この人は何をするのが一番好きなのか」を知ることだという。

 ダンカン社長が応募者に求めるものは、「自分は一体誰なのか」という自分自身の理解、自信、リーダーシップ力、好奇心、能力、自発性、自己管理能力、意志決定能力、ストレスの対処の仕方、職務へのコミットメント、自分の仕事を誇りに思っているかどうかなどだ。

 秘書・アシスタント業務というのは軽視されがちなため、「今の仕事を長くやるつもりはありません」といった態度の応募者もいるという。

 また、プロフェッショナルな容姿風貌、研ぎ澄まされたマナーも重要である。応募者100人のうち、25人は長く赤い爪、不適切な服装など外見で選考から落ちるそうだ。「風貌というのは、組織力(organizational skill)、社会的スキルの現れなのです」とダンカン社長は言う。「古臭い」と言われることもあるそうだが、ダンカン社長の辞書には「ドレスダウン」という言葉はない。

 最終的に人材を斡旋するまでの期間は、地元のニューヨークであれば15〜30日、ニューヨーク以外では45日。現在、イギリスで英語とフランス語のバイリンガルアシスタントを探しているが、これは2ヶ月を要するという。
 「全米のトップアシスタントはだいだい把握している」というダンカン社長は、全米のエグゼクティブアシスタントのデータベースを構築中だ。これには、ダンカングループの厳しい基準を満たした人材のみ登録する。

 そのネットワーク構築のために、ダンカングループでは、来年、ニューヨークでエグゼクティブアシスタント向け4日間研修の開催を予定している。リーダーシップ、倫理、文化の違いなどを勉強するとともに、エグゼクティブアシスタント同士で仕事場での悩みなどを語り合える場を提供する。また「どれだけテクノロジーが発達しても、優秀なエグゼクティブアシスタントに取って代わることはない」というメッセージを送り、安心感を与える意味合いもある。

 ダンカン社長はエグゼクティブアシスタントという職業を、ロースクールやビジネススクールを卒業した人が有望なキャリアオプションとして考えられるまで、地位向上させたいと考えている。
 世界的に一流のエグゼクティブアシスタントサ−チ会社になることを目標とするダンカングループでは、現在、ロンドンで手がけている人材斡旋を皮切りに、ヨーロッパ、日本を含めたアジアなどへの進出も計画している。
 


有元美津世/ベンチャーリンク誌2000年2月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 2/25/2000 web2@getglobal.com
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