効率的な牛肉生産が可能に
牛群管理ソフト(カウセンス)
年々増加する日本の牛肉消費量とは反対に、アメリカでは牛肉の消費が減少している。過去30年、牛肉は、健康面、安全性、利便性といった点で鶏肉にかなりの市場シェアを失った。消費者の需要だけでなく、生産サイクルや業界構造においても鶏肉業界が優勢である。鶏肉は牛肉に比べかなり生産サイクルが短く、また養鶏から市場への販売まで同じ業者が扱い、生産システムが縦に統合されている鶏肉業界と違い、牛肉業界は、各生産システム段階が競合または敵対関係にある独立業者によって所有されている。しかし、近年、牛肉業界復興のために、生産業者、飼養業者、加工業者らが協力し、情報により業界を統合させようと動きが出ている。
「情報が農業経営の成功の鍵」というミッドウエストマイクロシステムズのジム・ロー社長は、売り手よりも販売する牛に関して所有している情報量が少ないというようなことがないよう、牧畜業者に情報へのアクセスと利用ツールを提供するために牛群管理ソフト、カウセンスを開発した。
カウセンスは、各牛の出産記録、ケア、販売記録、再生産能力の測定などの機能のほか、体重をもとに各牛の性能を評価し、システム的な間引きを可能にする。現在、カウセンスライト、カウセンスコマーシャル、カウセンスピュアブレッドの3バージョンと、販売管理ソフト、カウセンスセールスマネージャーがある。
「農家には500ドル以上は出せない」というロー社長の考えから、価格は195ドル〜495ドルと手ごろだ。 家業を手伝うために初めて牧畜業に携わったロー社長は、他の牧場主のように“長年の勘”に頼ることができず、自分の牧場の牛に関しシステム的な意思決定ツールを必要とした。= しかし当時、そうしたソフトはなかかったため自分で開発するしかなかった。「牛の群れを工場、それぞれの牛を労働者と見なして生産性を測ることにしました。人間と違い、人権を心配する必要もなく、生産性だけに集中すればよかったのです」
ミネソタ州出身のロー社長は、マサチューセッツ工科大学で人文・自然科学を専攻した後、ミネソタ大学の人類学部の博士課程で研究をしていたが、80年、ネブラスカ州に事業を拡大した家業の農業経営に加わることになった。その頃、農家ではコンピューターなど使われておらず、ロー社長は、84年、自分の牧場に初めて簿記、調査分析ソフトを導入した。
93年、まずマックバージョンのカウセンスを開発。94年にはウィンドウズバージョンを開発した。カウセンスを開発するまでソフト開発の経験など皆無だったロー社長だが、調査、分析、統計学の経験が役立ったという。カウセンスの市場ニーズを確認したロー社長は、95年に牧場を売却。ソフト開発に専念することにした。
同社は、創業よりロー社長の自宅で運営していたが、昨年、ネブラスカ大学のテクノロジーパークにあるテクニカル開発センターに移転した。同センターは、州内に非農業ビジネスを留め、頭脳流出を防ぐために、ネブラスカのハイテク企業が成長できる環境を提供する、いわばビジネスインキュベーターである。現在、ミッドウエスト社のほかに6社が入居している。
現在のカウセンス販売数は618。さらに1476のデモ版を顧客に送付済みである。デモ版は同社のウエブサイトからもダウンロードでき、月に約50回ダウンロードされるという。
全米とカナダでは、再販業者を通じて販売活動および顧客サポートを行なっている。製品開発も販売活動もインターネットや電子メール、電話にてコーディネートされる。
海外にも、メキシコ、ホンデュラス、アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、ポーランド、フィリピン、南アフリカなどに顧客がいる。海外からの引き合いは、たいていウエブサイトを通じたもので、顧客サポートもインターネットや電子メールを用いて行なう。
「全米および海外にソフトを販売することができたのはインターネットのおかげ。インターネットの早期導入が会社の成長に役立った」 顧客の3〜4割が電子メールを利用しているといい、バージョンアップの配布や顧客とのやりとりにもインターネットは役立っている。
カウセンスは、牧牛業者だけでなく、羊、野牛、ヘラジカ牧畜業者にも利用され始めているという。 現在、牧牛管理ソフトは、カウセンスの他に主要製品が6つほどあるが、カウセンスの特徴は中央集中データベースを用い、牛を誕生時から一生の間をたどることができる点と、たとえば日本むけ霜降り肉などの製品仕様作成のための情報収集ができるという点だという。「テクノロジーと生産システムを密接に融合させ、ユーザの視点で構築されているいうのが大きな強みです」とロー社長は語る。他のソフトのユーザ用に変換プログラムもあり、他のソフトで作成したデータをカウセンスで利用することも可能だ。
ミッドウエスト社では、農業および地方向けソフト開発を専門としており、カウセンスのほか、ネブラスカ州牛肉審議会向け基金管理ソフト、地域の灌漑地区向け灌漑ソフトや警察向け管理ソフト、郡向け雑草検査管理ソフトなどをカスタムメードで開発している。
カスタムソフト構築の引き合いは多く、「チャンスがたくさんあり、焦点を絞るのが難しい」というのがロー社長の悩みの種だ。今後は、一般市場用に商業化できるカスタムソフトの開発のみ引き受けていく方針だという。
創業から昨年までの4年間、在宅ビジネスとして運営したロー社長は、ネブラスカ在宅ビジネス協会の会長を務めたこともあり、労働力の不足する都市部と農業サイクルの影響を受けやすい経済の不安定な地方とのギャップを埋めるために、テレワークを通じた地方での仕事創出活動に熱心である。昨年、米国農務省スモールビジネス革新プログラムから補助金を受け、「テレワークを通じた地方再活性化」と銘打ち、ネブラスカ州の地方でのテレワークに関するフィージビリティ調査を行なった。調査の結果、ネブラスカ住民の間にコンピューターを用いた在宅ワークに大きな関心があることがわかり、ミッドウエスト社では、新たな助成金を受け、ネブラスカでのテレワークモデルの開発に着手したところである。当初、データ処理業務など30職の提供を目標としている。