実用的でおしゃれな
マタニティ服レンタル店
日本でも妊娠した女性から「仕事に着ていけるようなマタニティドレスがない」という声がよく聞かれる。マタニティドレスの定番といえば、なぜか小さな女の子が着るようなフリルのついた花柄のかわいらしいもの。この現状に不満を抱いていたスーザン・ワイア氏は、7年前に3度目の妊娠をしたときに、マタニティ服をリースする店を見つけ、妊娠中の服はすべてそこでリースした。2年後、その店は売却されたが、同様のリース業を始めたいと考えていたワイア氏は、その元経営者からマタニティ服リース業について学ぶ。
そして1994年、ワイア氏はProfessional= Expectations(Expectには「期待」と「妊娠」という意味がある)を開業した。自宅に在庫をもち、顧客とはアポイントを取って会う、という営業スタイル。電話会社に勤めていたワイア氏は、会社から帰宅後や週末に顧客とのアポイントを入れた。1年半の間、フルタイムの仕事を続け、3人の幼児を育てながらの運営だった。
しかし間もなく自宅に服を置くスペースが不足、売上高も横ばいに。勤めながらでは顧客を増やすこともできず、限界を感じたワイア氏は96年、会社を辞めて店舗を借り、事業に専念することにした。
現在は完全予約制をとっており、お客はひとりひとりワイア氏のパーソナルサービスが受けられる。お客の女性たちも忙しいので、買物に行ってウロウロするよりも、決まった時間に出向き、プロのアドバイスを受けて購入をする方が効率がいい。予約がもっとも多いのは昼食時。周辺で働く女性たちが休憩時間を利用して来店する。それ以外は勤務後、または週末が多いという。完全予約制というスタイルはワイア氏自身にとっても、予約時間だけ店を開けていればよいので、効率が良い。また閉店時もドアにパンフレットを入れた袋を下げ、必要であれば連絡してすぐ予約ができるようになっている。
品揃えはオフィスウエアを中心に、ビジネスカジュアル、ドレス、スーツ、水着と幅広い。下着や寝具、バックサポートの販売も行なっている。お客の中には、妊娠中に必要なワードローブをすべて同店で揃えていく人もいるという。
同店ではリースとレンタルの2つのプログラムがある。リースは4週間単位で、月に一着25〜35ドル。1ヶ月に少なくとも3〜4着は必要なので、たいていの女性が月に100ドルほど費やすという。ということは、オフィスウエアだけでも4〜5ヶ月で計400〜500ドルということになる。しかし購入すれば一着150〜200ドルするため、結果的には低コストで済む。妊娠10ヶ月の間には冬服も夏服も必要だし、妊娠初期に買ったものはお腹が大きくなるうちに着られなくなる。また、一週間出張したり、見本市に参加したりするので、その期間、毎日違った服を着る必要があるという場合には、1〜2日、1週間だけリースすることも可能だ。
一方のレンタルは、パーティー、結婚式などの特別行事用で一着35〜50ドル。金曜日に借りて月曜日に返却する仕組みだ。前もって予約することもでき、クリスマス用は10月から予約が入るという。ワイア氏は、顧客がどのイベントに出席するかを把握しており、会場で女性たちが同じ服で鉢合わせをしないよう、重複した貸し出しはしないように注意している。
近辺に同業者はいないが、同店の競争相手は、他のマタニティ服、一般の衣服すべて、とワイア氏はいう。「マタニティ服など着ない、という女性もいます。一番大変だったのは、マタニティ服をリースすることの価値を女性たちに啓蒙する必要があったこと。多くの女性はマタニティ服をリースできるというオプションすら知らず、選択の余地などないと思っています。同じ服を何ヶ月も着る必要はないということを知ってもらわなければなりませんでした。」
売上高は二年目に3倍に増え、現在は収支トントンだという。利益を上げるため、オフィスウエア以外にカジュアルウエアを増やした。「私は、流行ではなく、生身の女性達が着たいと思っている服、変化する身体をすてきに見せてくれ、かつ快適な服を揃えています。特に、快適であるということは妊婦にとって非常に重要なのです」
ワイア氏のもとには、マタニティ服リース業を始めたいという全米の女性から問い合わせが寄せられる。ワイア氏は、こうした女性のために有料でコンサルティングも提供している。
運営マニュアル、マーケティングプラン、3年間の収支予測、カンザス店での運営見学、仕入れのアドバイスを含めた卸市場の下見からなる基本パッケージが数千ドル。その後もアドバイスが必要であれば有料で行なう。開店にあたっては当初3年間に3万5千〜5万ドルの資金が必要だという。
この商売に向くのは、なぜ顧客サービスが大事かを本当に理解している人だとワイア氏は語る。「当店のお客さまの半分以上がクチコミでいらっしゃいます。お客さまに満足していただかなければ、他の人に勧めてもらえません。
ワイア氏は、同店で初めて服をリースした女性には必ず電話をして「リースされた服は全部着てみましたか?」と尋ねることにしている。こうすれば、何か不満な点があれば指摘しやすい。「気に入らなかった場合、たいていのお客さまは黙って返却されて、二度と当店を利用されないでしょうから」
教えるのが楽しい、というワイア氏は、将来、店舗の運営はだれかに任せ、自分はコンサルティングに力を入れるつもりだ。