廃棄物から生まれた
ポップな商品が若者に人気
地球の人口の5%で地球の資源3割を消費するといわれるアメリカでは、年に200万トンのアルミ缶、1,200万トンのガラス容器、380万トンのゴム製タイヤの廃品が生じている。
そうしたなか、昨年、ビールびんの蓋300万個、車のナンバープレート10万枚、トラックのタイヤチューブ150トンを再生利用した会社がある。ピッツバーグにあるリトルアースでは、タイヤチューブ、ビールびんの蓋、ビール缶、ナンバープレートなどを使って、バッグ、ベルト、財布、アルバム、手帳、住所録を製造している。
タイヤチューブにビールびんの蓋とシートベルトのバックルをつけて作ったベルト、ナンバープレートで作ったポシェット、タイヤチューブと自転車のチェーンで作った財布、ナンバープレートでできたシステム手帳など、商品はユニークだ。
「再生品のネックは、たいてい、かっこよくないところなんですよね」と言うのは、グラフィック・デザイナーでもあるデマクロ代表だ。セールスポイントが“環境保護”だけでは、商品はなかなか売れない。買物に行って、環境のことを考える消費者は、まだまだ少ないからだ。
「当社の製品は、ファッションが売りものです。再生品だからではなく、デザインがよいから、機能的だからという理由で買ってもらえる物を作るのがデザイナー、メーカーの務めだと思います」 しかし、「他社の製品とどちらを買おうか迷ったときには、再生品というのが決め手となる」とブランデジー代表は語る。
このリサイクルビジネスは、ブランデジー代表が、92年、ピッツバーグ大学で受講した起業家養成クラスから生まれた。受講生たちは、毎回、いろいろなビジネスアイデアを授業で披露。ある日、ブランデジー代表は、再生したゴム、びんの蓋、車のシートベルトで作ったベルトをつけて教室に現われた。そのベルトが気に入った受講生らは、ベルトを購入。授業を担当していた講師も、高校生の娘のために一本購入したということだ。こうして、このビジネスアイデアの事業化が決定した。
ブランデジー、デマルコ両代表が、リサイクル業を選んだのは、「クリエイティブ」で、「社会的意義」があり、「儲かる商売」という二人が基準としていた事業の条件を最も満たしていたからだ。しかし、実際に、リサイクルで儲けている例は少なく、事業として成り立つかどうか確信はなかったという。
二人は、デマルコ代表がグラフィックデザイナーをして貯めた3万ドルで、ピッツバーグ郊外にある彼女の自宅の地下室で創業した。しかし、カチン、カチンというリベッター(鋲打ち機)の音に近所から苦情が殺到。お互いの両親からの借金とカードローンで資金を捻出し、まもなくピッツバーグのダウンタウンに小さな工場を借りた。
翌年、マイアミで開かれたジーンズウエアの見本市に参加した二人は、全米の小売店30店から24,000ドルの注文を集めた。
販売先は、ブティックが中心だが、ノードストロームなどの大手デパートやディズニーワールドなど、大型店にも販路を伸ばし、現在、同社の製品を扱っている店は、全米で1,000店以上にのぼる。
同社の対象市場は、12〜25才、35〜50才。若い人に人気があり、中高年の間では若者へのプレゼントとして買う人も多いらしい。25〜35才が対象からはずれている理由は、一番イメージにこだわる世代で、ブランド品などの高級品を好む傾向にあるからだそうだ。
創業時は、二人で、廃車処理場や廃品投機場を回って、材料を集めたという。現在は、購買担当者が廃品業者などから仕入れているが、中古のナンバープレートやエンブレムなど、原料調達は容易ではない。
びんの蓋は、毎日、地元のバーを回って回収する。バーテンダーらと、蓋を捨てずに置いておけば、リトルアースの製品を進呈するという約束を交わしているのだ。蓋は、洗浄した後、色と種類(炭酸ドリンクかビールか、米国産か外国産かなど)によって、従業員が仕分けをする。
GMのシートベルトは、当初、廃車から集めていたが、需要が増えたため、現在は、メーカーから購入しているという。
リトルアースのマーケティング活動といえば、見本市のみ。毎年、全米各地の男性ウエア、ブティック、ギフト、サーフィンなどの見本市に参加している。予算がないため、宣伝は一切しない。しかし、代表らは、常に自社製品を着用しており、1日に4回は、見知らぬ人に声をかけられるという。「宣伝効果は抜群です」(ブランデジー代表)
同社では、当初から海外にも輸出。現在、日本、ヨーロッパ、南米、オーストラリアに輸出しており、売上の2割を占めている。ヨーロッパでは、トレンディグッズとして人気を得ているという。日本では、流行のサイクルが短いのに驚いたそうだが、バッグが大きすぎると言われ、特別に小さ目のものを作っている。今後、輸出にさらに力を入れるため、現在、輸出担当者の採用を行なっているところだ。
「同じように、再生品を製造販売している会社は、他に2、3ありますが、当社の製品が一番高級です」とブランデジー代表は自負している。同社の製品は、システム手帳が50ドル、ポシェットが50〜70ドル、ホイールキャップのバッグは130ドルと、決して安くはない。
「今後は、一部の消費者にしか届かないブティック中心の販売から、一般大衆市場に参入したい。そのためには、価格を下げて、一般大衆にも手の届くレベルにする必要がある」(ブランデジー代表)
現在、企業向けギフト商品として販売する企画も進めており、また、将来、世界中の空港の売店での販売も考えている。
今年、売上が400万ドルに達する予定のリトルアースでは、今、苦しい成長期にあるという。創業時とは違った経営手腕の必要性に迫られているのだ。「私たちは、創業者としては優れていたかもしれない。しかし、経営者、管理職としては、最適任者ではない」という両代表は、日々の経営に追われ、新製品の開発など、本当に好きなこと、得意なことができないのが不満のようだ。
「投資家を探し、外から経営陣を迎えたい」と、資金集めのために、株式公開もオプションとして考えている。