インターネットで情報管理
人事・福利厚生管理サービス
アメリカの労働者の転職回数は増加の一途であり、それに伴い企業の福利厚生管理業務は増大する一方である。アメリカ企業では従業員関連の経費が経費総額の60-65%を占め、福利厚生担当者は時間の3分の2をデータのアップデートに費やすと言われている。
平均的なアメリカ企業は、5事業所、9つの福利厚生プログラムを運営し、保険会社5社と取引をしている。5社の保険会社からサービスを受けていれば、各従業員に関し5回同じデータを入力しなければならないということだ。こうした煩雑な福利厚生の管理を、大企業は社内で独自のシステムを開発したり、クライアント・サーバ用ソフトを購入することによって処理しているが、中小企業にとってはどちらもコスト高で、効果的な解決方法ではない。
そこで、中小企業でも利用可能な、インターネットベース人事・福利厚生管理サービスを考案した会社がアトランタにある。エンプロイーズネットワークは、クライアント企業の従業員のデータをウエブサーバ上に保存し、各企業の人事担当者や保険会社などが、ブラウザさえあれば随時どこからでもアクセスできるようにしたものだ。中央集中型データベースを構築し、リアルタイムの情報管理が可能である。
人事管理プロセスを自動化し、莫大な書類の処理過程をペーパーレスにし、データおよび作業を保険会社などの第三者と共有でき、従業員がセルフサービスで自分のデータをアップデートできるといったメリットがある。
ユーザ企業側ではソフトをインストールしたり、サーバを購入したり、メンテナンスをする必要もない。同社では隔月で新しい機能を追加しており、97年だけで6回の無料アップグレードを行なった。また、ウィンドウズ95からNT、ウィンドウズからマッキントッシュに変わってもインストールをやり直したり、データの入れ直しをする必要がない。M&Aの場合でも、複数の会社のソフト、ハード、データベースの統合に手間暇をかける必要がないのだ。また、従業員のセルフサービス用にはタッチパネル式にすることもできる。ユーザーにとっては非常に便利な仕様である。データはエクセルやロータスなどの表計算からアップロードまたはダウンロードすることができる。
創立者のジョン・二ール最高責任者は、保険業界で17年の経験を持つ。保険会社で技術関連の仕事を手がけ、89年には従業員管理ソフト開発に携わった。企業の人事情報管理、福利厚生管理の問題をつねづね解決したいと思っていたニール社長は、インターネットの登場とともに、これを用いた解決方法を思い付いた。
X世代向けオンラインコミュニティ、トライポッドの創立者と同窓生であるニール社長は、同窓生会報でトライポッドの成功を知り、早速、マサチューセッツにいるその20歳年下の同窓生に連絡を取り、ビジネスアイデアを伝えた。やはり同窓生であるアルバーグ現最高技術責任者とセクラー現最高業務責任者を紹介され、2人とEメールで事業計画を交換し、2週間後にはお互いに会ったこともないまま、3人でエンプロイーズを設立するに至ったのだ。
同社の設立にあたり、もっとも大変だったのは、インターネットに関し常に市場を教育してこなければならなかったことだという。「ユーザー企業や保険会社などがインターネットの威力を理解していなかった」とニール社長は当時を振り返って言う。
しかし、同時に標準もプラットフォームもない分野であり、同社のシステムが標準プラットフォームとなる大きなチャンスでもあった。「初のインターネットベース社員情報管理サービスということが当社の成長に大きく役立った」とニール社長は語る。
設立後2年で、顧客数35社、顧客企業の従業員数3万人、扶養家族を含めると5万人にサービスを提供し、全米の主要保険代理店200社と提携するに至っている。
同社のサービスは、従業員3000人以下の企業に最適だという。初期の利用には成長の速いハイテク企業が多いが、ローテクの企業も利用しており、同社のサービスは一定の業種には限定されない。たとえば、顧客には、アメリカに1200人の従業員を抱えるメキシコのトラック運送会社もある。
価格は、99ドル+社員一人あたり1ドル+人事管理者ユーザ一人あたり50ドルの初期開設費と、会社の規模、サービスのレベルにより、従業員一人あたり月額1〜4ドルと中小企業でも手が届くレベルだ。保険代理店からは、インフラを提供する代わりに開設費+社員一人あたり月額1〜4ドルを徴収する。
同社では、福利厚生管理業務のアウトソーシング、コールセンター運営も行っている。顧客企業の従業員の福利厚生に関する質問に、インタラクティブで回答するサービスである。この部門は、同社の最大のユーザーグループであり、日々、ユーザーの視点に立ったすぐれたフィードバックが得られるという。もちろん、同社は自社の従業員情報管理にもエンプロイーズネットワークを利用している。また、保険会社と組んでプライベートブランドの保険プランを提供したり、ウエブサイトでは疾病(就業不能)保険のフォーラムを運営したりしている。
企業の人事管理処理には、ソフト、アウトソーシング、PEO(Professional Employers Organization、97年11月号で紹介)などの解決方法があるが、どれも扱っている問題は同じでアプローチが違うだけだという。しかし、他社との違いは、同社がデータベースを構築し、従業員情報管理という問題の核心を解決した点だ。じつのところ、競合会社と考えられているPEOなどに同社のサービスが多いに役立つはずだとニール社長は言う。「PEOでは顧客企業がコントロールを失う。顧客はコントロールを失いたくないのです。気に入らない部分は変えられるなど、自分たちで決定がしたいのです」同社のサービスを使えば、顧客企業が保険会社を変えても社員データを移動する必要はなく、コストはゼロである。「保険会社は顧客を満足させなければ、簡単に別の保険会社に変更できるわけです。これで、やっと買い手が決定権を握れるようになったのです」
今後、同社では人事考査や採用機能なども加え、機能性を高めていく予定である。また、提携保険会社などの数もさらに増やしていく計画だ。
また、今年、シリコンバレー、ヒューストン、フェニックス、ワシントンDCに新たに営業所を開設し、現在の営業所数は9ヶ所。99年には新たに6ヶ所に新設する予定である。