米国ニュービジネス発掘−15−

オンラインDPO(Direct Public Offer)サービス


会社名:Direct Stock Market, Inc.
設 立:1993年(SCOR-NET設立)
所在地: 北カリフォルニア
代 表: 
Clay Womack
E-Mail kevin@direct-stock-market.com
URLhttp://www.dsm.com

アメリカでは、ここ数年、DPO(証券取引所や店頭市場を使わず、自社の株式を直接公開)を行う企業が増えている。95年には株式公開を目指す企業の3割が、ウォールストリートを使わず、DPOを利用した。DPOの申請数は、95年の253件から96年には428件に急増し、97年は9ヶ月で389件に達した。(ただし、実際に許可を得るのは、その半数以下。)
DPOが増加している背景には、従来のIPOは、プロセスが複雑であると同時にコストが高く、またアンダーライターらは無名の中小企業を扱いたがらないため、ほとんどの中小企業には不可能であるという点がある。公開後のSECへの報告業務も、中小企業にとっては大きな負担となる。また、少額資金を必要とした小企業は、ベンチャーキャピタルの対象とはならない。 中小企業局の調査では、350万以上の中小企業が必要とする資金は年間600億ドルにのぼる一方、銀行やベンチャーキャピタルが提供できる資金はわずか5000社のニーズを満たす300億ドルにすぎずないという結果が出ている。

 こうした資金市場のギャップを埋めるため、SECは、89年、中小企業株式公開登録(SCOR)を認可し、中小企業にとって株式公開のプロセスを簡素化した。SCORでは、SECへの届出なしに年間100万ドルまでの資金調達が可能である。(500万ドルまでの資金調達には届出を簡素化したRegulation Aが設けられた)。
さらにインターネットの登場が、DPOブームに拍車をかけた。95年、地ビールメーカーのスプリングストリート社がインターネット上でのIPOに成功して以来、インターネット上での株式公開、またそれを支援するサービスは増える一方である。

 「スプリングよりも先にオンラインDPOを行った」というのは、そうしたサイトのひとつ、ダイレクト・ストック・マーケット(DSM)を創立したクレイ・ウォーマック社長だ。自ら投資ファンド管理会社を経営するウォーマック社長は、「VCなどの私的資金は、いずれ底をつく。2−3万ドルの少額資金を調達できる公的VCが必要。同時にこれまで機関投資家や富裕な個人投資家に限られていたハイリターンの投資チャンスを一般の投資家にも平等に与えるため」と、93年にDSMの前身、SCOR-NETを創立した。
 DSMでは、DPOを希望する企業の株式公開概要、年次報告書、プレスリリース、マーケティング資料などを電子的に配布し、投資家募集広告、経営者プロフィール、投資家らとインターラクティブができるチャット機能を完備したウエブサイトを提供している。
こうしたDPOパッケージの価格は、初めの90日間が1000ドル、その後、四半期ごとに500ドル。株式公開概要の印刷・郵送費だけで一部あたり3ドルかかり、何千、何万という資料を印刷、郵送しなければならない従来の方法に比べ、かなり低コストである。

 DSMでは、従来、株式購入を促すために全米や海外を回って投資家らに会社や製品の説明を行うロードショーもネット上で行っている。ビデオ、オーディオ機能、パワーポイントなどを使ったプレゼンテーションができ、ライブチャットを通じ、視聴者がインターラクティブに参加できるようになっている。バーチャルロードショーは、6ヶ月間、アーカイブに保存される。価格は、ログインした人数、ビデオ撮りの複雑さに応じ、5000−20000ドルだが、従来の方法に比べれば、かなり安い。
DSMでは、97年11月、450人の投資家、銀行家、ファンドマネージャーらが参加したミクロ資金エクイティ会議をネット上で中継。11社がバーチュアルプレゼンテーションを行い、視聴者は4000人を超えたという。

 同サイトには、 DPOに詳しい会計士や弁護士などの専門家に質問ができるディスカッションページもあり、「個人投資家らが個々のベンチャーキャピタルポートフォリオを築けるだけのDPO教育」が鍵というウォーマック社長は、セミナーやニュースレターを通じ、投資家と起業家のためのコミュニティ作りを目指している。
 DSMでは、これまで30の企業をサイトに掲載してきたが、たいていの企業が2-2.5百万ドルの資金調達を希望するという。そうした企業のうち35-45%が資金を調達するが、中には、資金をまったく調達できない企業もあるそうだ。また、最終的にDPOを通じて資金調達をする企業は約20%で、残りはDPOの準備中に投資家らの興味をそそり、私的資金を得るという。起業家にとって、目的は資金調達であって、いかにして資金を得るかは問題ではない。つまり、DPOが成功するかどうかよりも、DPOのプロセスを通じ、投資家コミュニティに知られることの方が重要というわけだ。
 DSMは、アンダーライターではないので、DPOがその企業にとってふさわしいかどうかを判断したり、投資分析やアドバイスは行わないという。「我々の役目は、情報を発行すること」と中立の立場を保ち、リスティング企業に社員が投資することも勧めない。

 現在、オンラインでの株式売買は証券ブローカーを通してのみ許されており、売り手と買い手が直接取引を行うことは法律で禁止されているため、インターネットは、主に低コストの情報配布媒体として利用されている。DSMでは、売買オファーの掲載に対し、SECの許可が下りるのを待っているところだ。  今のところ、DPOの一番の問題は、株主が株式をいかに換金するかという点だ。DPOを行なう企業は上場されるには小さすぎるため、こうした証券を取引するメカニズムが必要である。現実には、株主は、会社が売却されるか、従来の株式公開を行うか、会社が株を買い戻すまで株を持っているしかない。このため、「セカンダリー(売買)市場の設立は必須」とウォーマック社長は言う。

 DSMでは、98年第一四半期より、毎週、オンラインショーを開始し、将来は、これを毎日行う計画だ。また、98年3月に開かれるロサンジェルスベンチャー協会の年次大会をビデオ中継し、ペイ・パー・ビューシステムによる低料金のバーチャル参加を可能にする予定だ。
 海外の投資家が全体の5-10%を占め、日本を含め多くの国から同社のシステムをライセンスしたいという要望が来ているという同社では、システムの販売やライセンスも検討している。  


有元美津世/ベンチャーリンク誌1998年3月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-1998

Revised 5/1/98 web2@getglobal.com

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