一歩進んだ秘書代行サービス
「バーチャル・アシスタント」
日本より一足先にSOHOブームを迎えたアメリカでは、ここ数年、在宅型ビジネスが急増している。 そうしたビジネスのひとつ、バーチュアルアシスタント(VA)は、「自宅に他人を入れたくない」「余分なスペースがない」「人材派遣会社は、ホームオフィスには社員を派遣してくれない」というホームオフィスオーナーのためのサービスだ。VAは、電話、ファックス、電子メールを用い、クライアントとの物理的距離には関係なく、郵便送受、スケジュールの管理、アポイントや会議のアレンジ、出張の手配、経理業務、ホームページ作成などの業務をこなす。たとえば、自宅にクライアント用の電話線を引き、そのクライアントにかかってくる電話はすべてVAが答えるというケースもある。
VAの草分け的存在、アシストUのステイシー・ブライス代表は、「オフラインのアシスタントにできて、VAにできないことはほとんどない」という。ブライス代表は、何百マイルも離れたクライアントのために、ファイリングもやってのける。クライアントに書類の束を送ってもらい、ファイリングシステムを構築した後、ファイリングキャビネットに収めるだけの状態でクライアントに送り返すのだ。クライアントが新しく購入したコンピューターを販売業者から直接ブライス代表宛てに送ってもらい、セットアップをし、すぐに使える状態でクライアントに送付することもあるという。 VAというアイデアを暖めていたブライス代表は、 96年、たまたま知人に手伝いを頼まれ、テストケースとしてVAを実施。これがうまく行き、97年にビジネスとして開始した。
現在のクライアント数は4人。所在地はフロリダ州からカリフォルニア州にまたがる。クライアントの一人は、夜中から朝の4時までが仕事時間。寝る前に仕事をブライス代表にファックスしておくと、7時半に仕事を開始するブライス代表が、目を覚ますまでに片付けておいてくれる。 ブライス代表は、毎朝、ビジネス管理のコツ、教訓などを書いた電子ニュースレター「デーリーアシスタント」を発行している。タイムリーな情報を伝えたいため、原稿を書きためることはしないという。さらに、クライアントの日刊ニュースレターの管理もしており、執筆から配布、購読者サポートまですべてを引き受けている。
ブライス代表は、クライアントのプライベートの手伝いをすることもあり、クライアントの一人が結婚したときには、結婚式のアレンジをし、式にも出席した。別のクライアントが違う州に引っ越したときには、引越しの手配を一切引き受けた。VAの場合、クライアントが転居してもクライアントを失うことはない。 VAの料金は、経験に応じ、一時間20~70ドル。ブライス代表の場合、一時間50ドル、または月525ドル。長距離電話などの経費は実費を請求する。 一見、高く思える料金だが、総合的に見ると社員を雇うよりコスト効果的だ。VAには、1)社員用に備品を買う必要はない、2)固定費を増やさずにすむ、3)雇用関連の税金を支払う必要がない。また、従業員を雇うということは、管理業務が増えるということでもある。周りに人がいると無駄話をしてしまうので、自分一人で仕事をする方が能率的だというクライアントもいる。
アメリカには、オフラインでも、インターネット上でも秘書業務サービスは存在するが、VAは、それとは本質的に違う。「従来の秘書サービスは、手紙のタイプなどの単発的仕事が多く、クライアントの業務内容などを熟知しいるケースは少ない。どこのサービスもさほど変わらず、価格で勝負をする。一方、VAは、一般秘書業務以上の仕事をすることも多く、クライアントの業務やニーズ、顧客、生活までも知りつくしたクライアントの右腕です」とブライス氏は語る。こうしたVAは、全米にまだ30数人しかいないそうだ。 ブライス代表は、「クライアントーVAの関係は、上司―補佐の関係ではない」ことを強調する。「VAはその道のプロであり、クライアントとは対等の関係、かけがえのないパートナーとなる。単発的な仕事が中心の従来の秘書サービスでは、パートナーシップは生まれない」 こうしてクライアントと密度の濃い関係を築くため、一人のVAが扱えるクライアントは、最高でも10人が限度だという。
以前、研修業務に携わっていたブライス代表は、その経験を生かし、全米初のVA養成コースも開設している。研修もすべてバーチュアルで行われる。「テレブリッジ」という高度の会議通話技術を用い、「テレクラス」を実施。教材や宿題は、電子メールやウエブサイトを通じて配布する。受講生や卒業生は、エクストラネットで、チャット、資料の閲覧・ダウンロード、書籍の購入もできる。 16週間のコースは、VAとしてのスキル教育14週間、ホームビジネスの構築方法研修4週間から成る。受講料は、8人のクラスが800ドル、マン・ツー・マンのクラスが1600ドル。電話による授業は月に2回で、グループコースでも4週間に一度は、ブライス代表の個人レッスンが受けられる。 コースを修了したのは今年3月までに5人。今後、毎月、6人の割合で卒業する予定だ。卒業率は100%だが、志願者の多くは、VAに向いていないので、初めから入学を断るためだ。「家でできる仕事を探しているので」「何かやりたいので」「会社を辞めたいので」という人は断り、「VAこそ、私が探し求めていたもの」という人のみを受け入れる。 ブライス代表自身も、卒業生のVAを使っているが、まだ実際に会ったことはないという。 近日中に、アシストUを卒業したVAのために、福利厚生パッケージを提供する。
ブライス代表は、「VAは、3年以内に、会計士などのようにスモールビジネスにとっては必要不可欠なサービスとなる」と予測している。そして、全起業家がアシストUが養成したVAを雇い、さらに、在宅勤務が増え、大企業もVAの価値を理解し、利用する日を目指している。