インターネットを利用した
自動車販売が大ヒット
アメリカでの生活には、車は必需品。しかし、その必需品を購入するには、自動車販売ディーラーの非常に評判の悪いセールスマンらと接しなければならない。価格は、歩合制で働く彼らとの交渉によるが、ディーラー乱立により、競争は激しく、車を売るためには手段を選ばないディーラーやセールスマンも多い。
しかし、インターネットの登場により、消費者らは、こうした不愉快な思いをせずに車が購入できるようになった。南カリフォルニアにあるオート・バイ・テルでは、全米のディーラー2,000店と組み、オンラインによる自動車購入システムを構築。消費者が希望する車のモデルや詳しいスペックなどを記入した購入リクエストをオンラインで送ると、最寄りのディーラーから48時間以内に電話連絡があり、固定価格が提示され、ディーラーによっては、車を自宅まで届けてくれる。
同ウエブサイトには、一定の基準を満たした保証済みの中古車専門の「サイバーストア」もあり、3ヶ月保証、72時間以内なら払い戻しも受け付ける。また、購入者が買いたい車について情報を得られるよう車の性能やスペックから、小売価格、卸価格、事故率やリコール状況まで調べられる自動車関連サイトとリンクをしている。さらに、銀行やローン会社と組んで、ローンも組めるようになっており、オンラインでローンを申し込むと、数分以内に電子メールで回答が得られる。また、保険会社に自動車保険料を問い合わすこともでき、将来は、オンラインで自動車保険も購入できるようになる予定だ。まさに、自動車購入の手続きがすべて完了するワンストップ店といえる。
消費者に対するサービスは無料で、オート・バイ・テルではディーラーから、車種につき年2,500〜4,500ドル、月500〜3,000ドルの会費を徴収。売上に対するコミッションはない。このシステムでは、ディーラーは、セールスマンを固定給で雇うことが可能となり、今までの脅迫まがいの売り方ではなく、もっとソフトな売り方ができる。
消費者は、今までより低価格で、不愉快なセールスマンに接することなく、快適に車の購入ができ、ディーラー側では、インターネットを利用することにより、経費の63%を占めるといわれる広告費と人件費を大幅に削減できるというメリットがある。オート・バイ・テルの会員ディーラーには、7割のコスト減で、4割の売上増を達成したところもある。従来の販売方法では、ディーラーの経費は、新車を一台売るのにマーケティング200〜300ドル、人件費800〜1,100ドルで、計平均1,000ドルかかるが、オートバイテルでは190ドル。
全販売数の2割をオート・バイ・テルを通じて販売しているディーラーもあり、また、オート・バイ・テルの顧客は、従来よりも広範囲の地域からやって来るという。同プログラムの利用者は、平均年齢35才、持ち家の価格も世帯収入も平均以上の、インターネット人口を反映した裕福層で、ディーラーにとっては非常に魅力的なセグメントである。かつ、ひやかしではなく、本気で車の購入を考えている人たちだ。
公認ディーラーには、オート・バイ・テルプログラム用の部門、専門のマネージャーの設置を義務付けており、マネージャーの選考基準は、小売業、特に自動車業界での経験がないこと、マーケティング経験があること、インターネットが使いこなせることで、「従来の自動車セールスマンはもっとも不適切」と社長のピート・エリス氏は語る。「今までまったく違った販売方式をディーラーに教育するのが一番の課題」という同社では、ディーラー教育にもっとも力を入れており、年間600万ドルを費やす。オート・バイ・テル大学を設置し、月に一度、本社で3日間の集中研修と、全米各地を回り、月に18の研修も行なう。同社では、契約成立率を、従来の販売方式の2割に対し、全ディーラーで7割に上昇させることを目標としている。
「既存の自動車市場では、ディーラーの数が多すぎることが、過度の競争につながり、品質の高い流通システムの構築をはばんでいる」という理由で、同社では、ディーラーの数は、3,000に限る予定だ。
オート・バイ・テルによる業界構造変革、価格破壊はによって、インターネットに参加していないディーラーもコスト削減を迫られる。これから生き残れないディーラーが続出し、2005年には、現在、全米に22,000あるディーラーは、15,000以下になると予測されている。「消費者の思考プロセスを理解していないディーラー、テクノロジーを取り入れないディーラーは、つぶれる運命にある」(エリス社長)
同社が処理する購入リクエストは月8万以上、同サイトを通じて販売される自動車の売上は、月に3.5〜5億ドルにのぼる。同社は、昨年5月に利益を計上したが、インフラ整備のために再投資。年内には、再び利益を計上する予定だ。今年、IPOを予定していたが、ナスダックが不振のため、来年に見送ることにした。今年、AOLでの販売も決まり、売上はかなりの伸びを示すと思われる。
同社の成功要因は、流通システムを消費者の視点から再構築し、同時に、そのシステムをディーラーにとっても利益のあるものにしたところ。 同社の成功を聞きつけて、米国内メーカーだけでなく、フィアットやボルボが、わざわざ本社から視察に来たそうだが、将来、自動車メーカーが同様のサービスを提供することは心配していないという。「少なくともアメリカの自動車メーカーには、既存の流通システムの中で、消費者の視点に立って公平な情報を提供することは無理」とエリス社長は言い切る。
ヨーロッパにはすでにパートナーがおり、ヨーロッパを皮切りに、日本やオーストラリア、ニュージーランド、ブラジルなど海外にも進出予定だ。16のディーラー店舗を構えた後、倒産し、インターネットを使って自動車販売の道に返り咲いたエリス社長は、今、全米、海外でも講演にひっぱりだこだ。日本でも11月末デジタルメディアワールドで講演を予定している。