盗難コンピューター追跡システム
アメリカでは、96年、26万5,000台のラップトップと14万6,000台のデスクトップが盗まれた。盗難にあうコンピューターの2台に1台がラップトップであり、ラップトップの盗難は、95年に比べ、27%の上昇、金額にして8億ドルにのぼる。
盗難はコンピューター損失全体の65%を占め(グラフ参照)、96年のPC盗難は総額14億ドル。また、盗まれたコンピューターの9割が発見されない。
特に空港でのプロの窃盗グループによる盗難が増加しており、10台に1台は空港で盗まれるという。たとえば、空港でのX線探知器でラップトップから手を放したすきに盗られたり、また犯人の一人がわざとお札を落としたり、ケチャップをこぼして、相手をひるませたすきにラップトップを盗むという手口も使われている。空港では盗まれた方も飛行機に乗らなければならないため、警察や雇用主への報告が遅れがちになる。
コンピューターは買い換えればすむが、失われたデータや資料作成のために費やされた時間と労力、企業戦略や顧客リスト、価格などの企業機密は取り返しがつかない。盗まれたコンピューターに保存されていたデータの価値は、年間150億ドルにものぼる。コンピューター用保険の利用は増えているが、データは保険でカバーされない。
コンピューターの盗難予防には、ロック、アラーム、防犯カメラ、アクセスコントロール、データセキュリティなど様々な方法があるが、どれも盗まれたコンピューターを取り戻すことはできない。しかし、96年、盗まれたコンピューターを探し出すというソフトが市場に登場した。バンクーバーにあるアブソリュートソフトウエアが開発したCompuTrace(コンピュトレース)というコンピューター追跡システムだ。
コンピュトレースをコンピューターに搭載すると、週に一度、自動的にそのコンピューターのモデムが使っている電話番号が中央のモニターセンターに報告される。盗難届が出されると、アラートモードに変わり、コンピューターが電話線につながれると、直ちにその電話番号がモニターセンターに報告される。コンピュトレースの発信番号や発信日時のリストは、警察または警備会社に報告され、コンピューターの在処が割り出される。モニターセンターは24時間稼動で、ユーザーは、インターネット上でコンピューターをモニターすることもできる。
電話帳や電話案内に記載されていない番号や、発信者番号通知サービスをブロックしてある番号からでも番号は割り出せる。ホテルなどの場合は、メインの電話番号を届けるので、部屋番号がわからず、部屋を探すには、ホテルの協力が必要である。
コンピュトレースは、同社専有のインテリジェントソフトエージェントを用いており、コンピューターに搭載されていることは盗んだ相手にはわからないという。ソフトは、ユーティリティソフトを使っても見つけられず、ハードドライブのリフォーマットやリパーティション、ファイル削除を使っても、削除できないようになっている。
コンピューターを探し出すには、コンピューターが電話線につながなければならないというのが弱点だが、ほとんどの盗難コンピューターが売りさばかれるため、盗難品とは知らずに使用するユーザーが多く、この点は問題ではないという。「内蔵モデム搭載のPCの回収率は100%に近い」と同社のジョン・リビングストーン社長は自負する。
ソフトの小売価格は、29.95ドル。モニター料は年間60ドル。同社では、主に企業をターゲットとしているため、小売向けには同社のウエブサイトでのみ販売している。また、コンピューター専門保険会社と組み、コンピュトレースの利用者には、保険料が2割ディスカントされる。
コンピュトレースは、盗難にあったコンピューターの追跡だけでなく、企業のコンピューター資産管理、社員による窃盗防止ツールとしても利用されている。というのは、企業のコンピューター窃盗の75%が社員によって行われるからだ。顧客企業は、セキュアリンクでつながれた同社のウエブサイトを通じ、ユーザー名、在処、シリアル番号、コンピューターの種類などを随時モニターすることができ、投資収益率を含め、様々な分析をすることできる。同社では、今後も、資産管理機能の充実に力をいれていく予定だ。
同社では、主にアメリカのフォーチュン5,000企業と、アメリカとカナダの再販業者をターゲットとしているが、顧客の9割がアメリカ企業で、フォーチュン100企業などの大企業が多い。また、AST、NEC、ACERなどのコンピューターメーカーと組み、新しく出荷されるラップトップにコンピュトレースを搭載している。また、リモートコントロールソフト「ラップリンク」に組み込んだり、ウイルスソフトのマカフィーと提携するなど、関連会社との提携に力を入れている。
成功の鍵は、「新しい技術に対し市場を教育することと、ハードのメーカーやOEM、インテグレーターなど、業界の主要プレーヤーと戦略的提携を組むこと」とリビングストン社長は語る。
コンピュトレースが生まれたのは、創立者の一人が、コンピューターを盗まれたことがきっかけだった。彼は基本ソフトの開発者と組み、2年かけてコンピュトレースのインテリジェントソフト技術を開発。同製品は、96年、市場に売り出された。
同社では、この技術に対し、カナダ、アメリカ、日本、ヨーロッパで特許を申請しており、アメリカの特許は一部取得済みである。今後、コンピューターだけでなく、ウエブTVなど他のオンライン電子機器にも応用する予定だ。
同社のモニターサービスが利用できるのは、現在、北米のみだが、たとえば海外にラップトップを持っていく場合、海外からでも使えるように機能をカスタマイズすることは可能だという。同社は、来年、海外市場に進出する予定だが、海外では、現地でのモニターセンターの設置もあり、地元企業との提携が必須だという。提携先には、ノートブックのメーカーおよびインテグレーター、または電話会社を考えている。