はじめに
やはり、「奇跡のニューエコノミー」は続かなかった。ニューエコノミーは、従来の経済サイクルには左右されず、株価は永遠に上がり続けるという専門家すらいた。しかし、4月にナスダックは暴落。その後、アメリカのECシーンは大きく変貌した。本書の執筆を進める間にも、ドット・コム企業の破産や解散のニュースが次々に入ってきた。
しかし、これは健全な経済にとっては必要な過程である。売上がないままIPOをし、利益を出すことが可能かどうかもわからないビジネスモデルの企業が存続する方が異常なのだ。[アメリカの一部都市では、株式バブルに不動産バブルが続き、不動産価格が高騰した。シリコンバレーでは、平均的な賃金では家賃さえ払えない状態になっている。貧富の差も広がった。
実は、本書を企画したのは、99年。1章で紹介したようなインターネットバブル崩壊の話を書くことになろうとは思いもよらなかったつもりはまったくなかった。
私は、96年から有名ドット・コム企業の動向調査をしているが、毎年、ほとんどの会社で損失額が増大するにもかかわらず、多額の販売マーケティング費を費やし、売上がないのにIPOをする企業が現れたことを異常に思っていた。一方、調査をしている間に、ときどき黒字のドット・コム企業にも出くわした。それらのほとんどがスモールビジネスだった。また、既存の中小企業を取材していると、インターネットをうまく利用しているケースにもたくさん出会った。
マスコミで報じられるのは、バブリーな有名サイトばかり。こうして誰も知らないところでインターネットを利用して、堅実な経営を行なっている企業を紹介したいと思った。本書で紹介する企業は、アメリカでも広く知られていないものがほとんどである。彼らは、インターネットであっても、経営のファンダメンタルズは変わっていないということを教えてくれた。
事例には、従業員数人の小規模企業も含まれている。彼らも、大きな成長を遂げるには、外部からの資金を調達し、多額の広告宣伝費を必要とするのだろう。そうすれば、少なくとも一時期、赤字に転じることもあるかもしれない。実際に、事例の中にも、その岐路に立たされているところがいくつかある。しかし、小さいからといってばかにしてはいけない。彼らは、ちゃんと顧客を満足させ、利益を出し、従業員に給料を払っている。こうした小規模サイトのちょっとした工夫からでも、学べることはあるはずのだから。
アメリカのネットバブル崩壊で、日本ではバブルが大きくなる前にしぼんでしまったような感があるが、これはラッキーだったといえるだろう。私の周りのアメリカ人業界関係者らは言う。「日本はラッキーだよ。アメリカのeビジネスが犯した多くの間違いから学んで、同じ間違いを犯さずにすむのだから」と。
アメリカの有名サイトが犯した間違い、そして中小サイトの成功例から、何かを参考にしていただければ幸いである。
本書で紹介した30社のうち、20社を実際にインタビューした。超多忙なスケジュールの合間をぬって、私のインタビューに答えてくださった20社のすばらしい起業家の方々に、厚く御礼を申し上げたい。
Many thanks to those exceptional entrepreneurs who
have graciously accepted my invitation for interviews
despite their super-hectic schedules. While a number
of dot-com companies are facing financial hardships,
if not disappearing, followingafter the recent turmoil
in the stock market, each of you has proven that yours
is have a sustainable and successful business. Kudos
to your vision, courage and tenacity. I wish you continued
success!!!
本書の執筆には膨大な調査を要したが、その調査を手伝ってくれた重くん、孝くん、良明くん、ありがとう。そして、本書の出版を可能にしてくださったインプレスの錦戸さん、荒木さん、ありがとうございます。荒木さんとの編集作業は非常に効率的で快適でした。荒木さんのような優秀な編集者と仕事ができたことは、私にとって貴重な経験となりました。また、本書出版のきっかけを作ってくださった元編集長の山下さんのご冥福をお祈り申し上げます。
2000年7月11日 有元美津世
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