|
|
|
|
はじめに
渡米して十年、大学院を卒業し、様々な企業で働き、ついには独立した。キャリアにおいても、プライベートにおいても、実に多くのことを経験した。年齢的にも二十代半ばから三十代半ばと、人生や社会のことが本当にわかり始めるころであり、いろいろなことを経験する時期でもあった。
ここ数年、日本関連の仕事も増え、仕事で頻繁に日本に一時帰国するようになったが、日本では「アメリカに住んでいる」「アメリカで働いている」というだけで、「カッコイイ」「国際的」といわれる。「海外に住んでいる人は、みんな華やかなのでしょうね」といったメディア関係の人もいた。どうして海外に住んでいるだけで華やかなのだろう。アメリカで十年生活している私の生活は決して華やかではないのだが...
ここ数年の海外就職ブームでマスコミが描きだした海外生活像を見ていれば、無理もないのかもしれない。
私は、大学時代、アメリカを6週間旅行したとき、一般のアメリカ人の生活の質素さに驚いた。今も、私の周りには涙ぐましいほどの倹約をしながら生活しているアメリカ人は少なくない。こちらに住んでいる日本人も、駐在員と日本から仕送りしてもらっている“遊学生"以外は、質素な生活を送っている。生活に困っている日本人も少なくはない。
私自身、子供のころからアメリカに憧れ、いつか行きたいと思っていた。アメリカに来てからの初めの二年は非常に楽しかった。日本になど二度と帰らなくてもよいと思ったくらいだ。今、考えてみると、その頃、私はまだ「生活者」ではなく、「旅行者」だったのだ。私は、これまでに、二十ヶ国近くの国を訪れたことがあるが、海外旅行は実に楽しい。「旅行者」である間は、生活の心配をすることもなく、その国の表面さえ見ていればすむ。しかし、それはあくまでも「旅行」であり、その国で生活することとはまったく別の時限のことなのである。十数年働いてきて思うことは、自分で働いて、家賃を払い、生活をしていくということは、どの国にいても大変なことなのだ。
海外で働くということが実際にどういうことなのか、誰も書かなかった等身大の話を、本書では紹介したいと思った。
本書では、私自身の経験を含め、アメリカ社会の様々な分野で活躍する日本人女性の生の声を紹介する。キャリアアップのために転職を重ねるアメリカ企業の営業ウーマン、日本から駐在員として派遣されている管理職、十五年間日本語を教え続ける大学講師、建築現場の男性に混じって働く建築家、子供を抱えて働きながらロースクールに通ったシングルマザーの弁護士など、様々な分野で活躍する日本人女性をインタビューし、アメリカで働くことの現実を本人たちの口から語ってもらう。
彼女たちの中には、日本とはまったく関係のない仕事をしている人たちも含まれている。日本人であることや日本語ができることが武器とはならない環境で働いている−つまり、一般のアメリカ人とまさに対等に働いているといえるだろう。
ここに登場する女性たちは、私も含め、全員日本で大学を出ている。そのうち半数は、アメリカで大学院を出た。本章の初めで紹介した一年ほどの語学研修留学を希望する女性たちとは少し違う。数でいえば、少数派かもしれない。しかし、私たちは超一流大学を出ているわけでもなければ、ウォールストリートで働いているわけでもない。アメリカでごく普通の生活をし、ごく普通の仕事をしている女性たちばかりである。
皆、言葉や文化の違いというハンディを背負い、人種差別や性差別に直面する。食うか食われるかのすさまじい競争が繰り広げられるコーポレイト・アメリカで、バックスタビングに泣く者もいる。そして、つらいときに支えとなるネットワークも、異国の地ではなかなか得られない。私生活でも離婚を経験し、一人で子供を育てている女性もいれば、二十年も夫を養っている女性もいる。そうした環境の中で、彼女たちはキャリアを築き、自分たちの夢・目標を実現してきた。
日本ではほとんど聞かれることのない、こうした女性たちの偽りのない声を、「外国に行けば何とかなる」「海外に出れば何かいいことがあるだろう」と逃避的・他力本願的思考で”日本脱出”を計画している女性たちに、ぜひ伝えたい。そして、この本が決して甘くはない海外で働くということに、本気でチャレンジしようとしている女性たちへの体験的アドバイスになればと思う。
|
|
|
|