私が初めてアメリカの電子商取引(EC)調査に着手したのは、1996年だった。インターネットが普及し始めた頃で、サイト数はまだ500万ほど。ウエブサイトの傾向やめぼしいウエブサイトを見つけるのはむずかしくなかった。
96年当時、パソコンとインターネットへの接続さえあれば、オンラインストアを出して金儲けができる、と誰もが意気込んだ、まさにインターネットのゴールドラッシュ時代だった。
しかし、97年に入ると、既存の大企業がインターネットに進出し始め、オンラインビジネスを買収するなどして、淘汰が起こった。「オンラインストアは低コストで開店、運営できる」「スモールビジネスでも大企業と互角に戦える」といった数々のインターネット神話は崩れ、多くのオンライン業者にとって落胆の年となった。
しかし、同時に、電子商取引に対する考え方がより現実的になった年でもある。当初、各社競って、いかに`クールaなサイトを作成するかを苦心し、ヒット数を競ったが、どちらも物が売れるかどうかとは直接関係がないという現実が認識された。
業者らは、市場構成、消費者のニーズ、オンライン販売に適した製品、マーケティング方法などを理解し始めた。結局、インターネットビジネスも、オフラインのビジネスと基本は一緒なのである。
98年、電子商取引は一挙に盛り上がった。インターネット人口は一般大衆にも広がり、オンラインショッピングが普及した。インターネットビジネスは急激に増加し、層は厚くなり、レベルも向上した。
インターネットビジネスには、大きく分けて2種類あるだろう。
ひとつは、「アマゾン・ドット・コム」のように、大きく成長するためにベンチャーキャピタルを調達し、株式公開(IPO)をするもの。この種のビジネスを立ち上げるには、今では100万ドル単位の資金が必要となっている。
もうひとつは、「クルージン」のように、ベンチャーキャピタルなどとは関係なく、ニッチビジネスとして小人数で細々と続けていくものだ。この種のビジネスであれば、個人の資金でも運営できる。
株式バブルといわれるアメリカ経済。アメリカ国内でも、株式市場が暴落するのは時間の問題とみられているが、利益も出ないまま高騰する株式市場に支えられてきた多くのインターネットビジネスは消えていくであろう。
しかし、本当にビジネスとしての土台ができているものは、たとえ株式が暴落しても生き残るだろう。バブルがはじけた後こそが、インターネットビジネスの真価が問われるのだ。
不景気が長引き、企業のリストラが蔓延している日本は、80年代後半から90年代にかけてのアメリカと似ている。アメリカでは、その後、新たなテクノロジー会社、インターネットビジネスが次々に登場し、景気好転の牽引役となった。
新しいアイデア、投資先を競って求めるベンチャーキャピタルや高騰する株式市場はないものの、ビジネスを起こしたい、インターネットを使って何かをしたいという人は、日本にも増えている。そうした方々のために、本書が少しでも役立てば幸いである。
本書では、これからインターネットビジネスを始めたいという方々の参考となるように、既存の大企業は含まず、個人が新たに起こしたインターネットビジネス、または既存のスモールビジネスがインターネットを利用して成功した例のみを紹介している。なお、「アマゾン・ドット・コム」のような有名サイトはすでにいろいろなメディアで紹介されているので、本書では省いた。
最後に、本書の執筆を勧めてくださったあさ出版の佐藤さんと、執筆の時間がなかなかとれない私に根気強くつきあってくださった山田さんに厚く御礼を申し上げたい。
有元美津世