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GlobalLINKER |
Vol.10 Winter 2003-2004 |
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急成長する音楽配信サービス
アップル社が提供する1曲99セントのオンライン音楽配信サービス「iTunes」が急成長を続けている。同社は2003年4月末、マック向けに同オンラインストアをオープンし、1週間で100万曲以上を販売した。10月にはウィンドウズ向けサービスも開始し、4日間で100万曲を突破した。12月15日現在、2500万曲以上がダウンロードされている。
このアップル社の成功を受け、競合他社が続々とデジタル音楽市場に進出している。かつて、ファイル交換サービスとして脚光を浴びたNapsterはRoxioに買収され、有料オンライン音楽配信サービスとして10月に復活した。その他、AOLなどのISPやリアルネットワークスだけでなく、デル、ゲートウエイといったPCメーカーも同市場に参入している。2004年初めには、マイクロソフト、HP、ソニー、ウォールマート、アマゾンなどの大手も進出予定で、市場はさらに激化する。長年、その動きを封じ込められてきたデジタル音楽がようやく動き出したといえる。
デジタル音楽の一番の課題は、KazaaやMorpheusといった無料ファイル交換サービスの普及だ。iTunes開店初日に、Kazaaのファイル交換サービスにアクセスしたユーザ数は、瞬間数値で420万にものぼる。
そうした違法サービスの拡大に歯止めをかけるため、米レコード協会(RIAA)は、音楽ファイル交換ユーザである個人を著作権侵害で訴えるという行動に出た。12月までに382件の訴訟を起こしており、12月の初めには新たに41人が提訴されている。こうした法的措置を恐れ、合法的な音楽配信サービスに移行しつつあるユーザが増えているという。
また、Napsterはペンシルバニア州立大と提携し、キャンパス内での違法ファイル交換に代わる合法サービス提供の一環として、音楽サービスの無料配信を試験的に行っている。(ただし、これは授業料から支払われるため、一部の学生の間では不満の声が挙がっている。)
この他にも、教育機関とエンターテイメント業界団体による共同委員会が、大学内で横行する違法ファイル交換サービスの撲滅に乗り出すなど、有料オンライン音楽サービスの成長を促すための整備が着々と行われている。
さらに、コピー防止技術の標準化も大きな課題だ。各社開発のデジタル著作権管理(DRM)技術には、今のところ互換性がないため、たとえばiTunesで購入した曲は同社のiPod以外のプレーヤーでは聞けないのだ。マイクロソフトやレコード会社のユニバーサルが中心となって標準化を目指す動きがあるが、より多くのユーザを獲得するためにもデジタル著作権管理の問題は早急に対処されなければならないだろう。
こうした問題点が改善されるには、まだしばらく時間がかかると思われる。さきのレコード業界による裁判に対して一部のコンピューターユーザやISPが控訴し、ISPに対するユーザの個人情報開示の強制は認められないという判決も下されており、業界の違法コピー対策は暗礁に乗り上げている。また、現段階では、大手レコード会社がこの市場に本気で乗り出してくるほど、オンライン音楽販売は利益をあげているとは言いがたい。実際、アップル社でも利益のほとんどは、楽曲の販売ではなく、iPodの売上によるものだという。
しかし、同社自身がそのスピードに圧倒されるほど、有料オンライン音楽サービスが予想以上の成長を遂げていることは間違いない。今後、消費者の購買行動は、ますますCD購入から音楽ダウンロードへと移行していく。
現在、レコード業界は再編の波にある。ソニーミュージックと独ベルテルスマン傘下のBMGが合弁、米タイム・ワーナーは音楽部門をブロンフマン・グループに売却、ユニバーサルも買い手を探している。オンライン音楽市場の熾烈な競争を生き抜いたハイテク企業が、音楽業界の再編に加わることになれば、数年後のエンターテイメント業界をリードしていくのはデジタル音楽を提供するこうした企業なのかもしれない。
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