ビジネス利用が進むインスタントメッセージ
インスタントメッセージ(略してIM)は、インターネット上でリアルタイムでメッセージを交換できるコミュニケーション方法だ。
日本では、若者の間で携帯電話を使ったIMが盛んだが、アメリカの若者にとってIMはコンピューター上で欠かせないコミュニケーションツールになっている。
メールとの違いは、その即時性だ。もちろん、メールでも常時接続であれば、リアルタイムでのやり取りは可能である。しかし、IMでは、登録した相手がオンラインかどうかがわかり、即答を受け取ることができるのだ。急ぎのメールを送って相手は読んだだろうか、返事はいつ来るのだろうかとやきもきすることはない。
メールと同様、ファイルを添付できるだけでなく、ボイスチャットやビデオチャットも可能である。同時に複数の人と別々の会話をすることもできる。
相手を登録しない限り通信はできないので、自分の通信したい相手とだけ通信できるというメリットもある。あえて保存しない限りメッセージは消えるので、メールボックスにメールが溜まって収拾がつかなくなるということがない。今のところ、メールのようにスパムの問題もない。
またメールアドレスではなく、ハンドルを利用するため、プライバシーを保つこともできる。
ある調査では、調査対象アメリカ企業の84%が現在IMを利用していると答えた。ただし、この多くは企業が導入したものではなく、社員らによる非公式な利用である。IMを正式に導入している企業は大企業で34%、中小企業ではそれ以下だ。
つまり、社員らが勝手にIMソフトをダウンロードして職場で利用しているわけだ。もっとも多く利用されているのがAOLインスタントメッセンジャーで、MSNとヤフーがこれに続く。ただし、正式にIMを導入している企業では、61%がロータス・セイムタイムを利用している。
一方、IMの社内利用を禁止している企業も全体の4分の1にのぼる。既存の消費者向けIMにはセキュリティや互換性の問題があるからだ。消費者向けIMはセキュアではないため企業機密が外部にもれる恐れがある。今年初めにはMSNメッセンジャーがハッカーの攻撃を受け得るということで問題になった。
また今のところ、各社のメッセンジャー間で通信ができないというのが大きなデメリットだ。(ちなみに、各社のメッセンジャーと互換性のあるツールを提供するトリリアンでは、急速に個人ユーザーを増やしている。)
さらに企業としては、仕事中に社員のおしゃべりの道具として使われては困る。以前は休憩室や廊下で行われていた井戸端会議が、今ではオンラインで行われているのだ。
消費者IM大手3社では、次々とセキュリティやモニター機能を加えた企業向けIMの提供を開始している。AOLは、先日、企業向けにエンタープライズAIMを発売した。企業のIT部門がメッセージをモニターしたり、保存したりでき、企業ネットワーク内のみで利用できるように設定できる。マイクロソフトやヤフーも、2003年初期に企業版を発売予定である。ユーザー一人あたりの料金は年間24ドル〜50ドルだ。
消費者向けIMは無料で提供されており、これまでIMに広告を添付するくらいしか収入モデルがなかった。有料で提供できる企業版に各社が期待を寄せるのも無理はない。
2005年までに、少なくともアメリカ企業の半数が顧客との通信にIMを利用すると予測する調査会社もあり、IMビジネス市場での競争が今後激化するのは間違いない。
IBMやノベルでは以前からグループウエアの一部としてIM機能を提供しており、また企業向けIMツールを提供するベンチャー企業は数多い。企業内にすでにゲートウエイを築いているこれらの企業と、何百万人というユーザーを抱える消費者向けIM大手3社のどちらがビジネスIM市場を制するか、ここ1、2年が勝負だろう。
(有元)
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