バグダッド陥落から2ヶ月が経ち、イラク関連ニュースは一面から姿を消し始め、アメリカでは政治家や人々の関心は、すでに経済と次の選挙に向いている。
私は4月にアフガニスタンの女性団体を代表して訪米していた女性の講演を聞きに行ったが、彼女の最大のメッセージは「アフガニスタンを忘れないで」というものだった。その数日前にもアメリカ軍の攻撃でアフガニスタン人11人が死亡し、今も戦闘は続いている。ラムズフェルド国防長官は機会あるごとに「アフガニスタンの"成功"をイラクにも」と発言していたが、アメリカによる攻撃後のアフガニスタンの状態は決して改善されたとは言えないことも、彼女は切実と訴えていた。
今、私たちはアフガニスタンどころかイラクすら忘れようとしている。「どこか遠い国の話」「自分たちには関係ない」と思っている限り、戦争はなくならないだろう。
危険な方向に向かっている世界
今回の連載は、イラク戦争の真相を知りたいと思って調べ始めたのがきっかけだった。軽い気持ちで始めた調査だったが、調べているうちにその範囲はアフガニスタンやコソボにまで及んでしまった。イラク、エンロン汚職、グローバリゼーションなど散在していた点がどんどんつながって、大きな丸になっていった-一見、無関係な事象が実は関連していたのだった。
アフガニスタン攻撃やコソボ紛争にも石油がからんでいた。アフガニスタン攻撃は9.11テロ以前から企てられていた(当時のパキスタン外務長官が証言)。湾岸戦争ではイラクのクエート侵攻4ヶ月前からアメリカ軍はイラク攻撃の準備を始めていた(当時の司令官が証言)。劣化ウランなどの影響で湾岸戦争退役軍人の36%が障害申請を行い、すでに9600人以上が亡くなっていること(アメリカ人の多くが知らない)。そして、グローバリゼーションがこうした世界紛争に関連していること。
こうした事実はもとより、それを知らなかった自分に愕然とした-なぜこんな大事なことを知らなかったのか、そして知らないということはどれだけ恐ろしいことなのかと。
湾岸戦争が起こった頃、私は働きながらビジネススクールに通い、忙しくて他のことに時間を割いている暇がなかった。コソボ紛争は「遠くの国で起こっている民族浄化とそれを阻止するための軍事介入」くらいの認識だった。当時、今のようにインターネットはなかったので、調べるにはもっと時間と労力を要しただろうが、調べられないことはなかった。調べなかったのは、私に調べようという意思がなかったから、こうしたことが(働くことや勉強することに比べ)重要だと認識していなかったからだ。
今回痛感したのは、今の生活が大事だと思えば、平和、民主主義を守りたいと思えば、正しい情報を得ること、真実を知ることが不可欠だとということだ。そして、それは、個々の市民、国民の権利であり、義務だということ。政府やメディアに頼っていては、真相は把握できないし、平和や民主主義は守れない。
日本でも、アメリカと同様のことが起こりつつある。北朝鮮に対する不安に煽られ、有事関連三法案やメディア規制三法案など、新たな法律が作られつつある。しかし、これら法案の内容、意図を理解している国民はどれだけいるだろうか?なぜ今、有事法制が必要なのか、それが国民の生活、また他国にどのような影響を与えるのか--正確な情報を得、議論することは日本国民の権利であり、義務なのだ。
世界は確実に危険な方向に向かっている、と私は危惧している。今後も、この連載で書けなかったアフガニスタン攻撃や湾岸戦争、コソボ紛争の真相、そして他の世界情勢やグローバルな視点での環境問題に関しても調査、執筆を続けていくつもりだ。(専用のサイトで不定期に掲載予定。)
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