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イラク戦争(8) 「愛国」の名の下に制限されていく自由(2)



「愛国」というPR用語

 今回の戦争に限ったことではないが、「愛国」というのは、国民に戦争を売り込むためのPR用語(宣伝文句)として使われた。
  「愛国」という意味の「patriot」「patriotic」は、パトリオットミサイル、2001年に制定された反テロ愛国法、USA PATRIOTIC ACT(Uniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism)などに使われている。
 同様に、「自由」「解放」「民主主義」といった言葉もマーケティング(宣伝)に利用される。イラク攻撃は「イラク自由作戦(Operation Iraqi Freedom)」、今なお続いているアフガニスタンでの戦闘は「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)」と名づけられた。
  9.11テロ後、ブッシュ大統領は「(テロリストは)民主的に選ばれた政府…アメリカの自由を憎んでいるのだ」と演説したが、国民の多くが心からそう信じている。
  (ちなみに、ブッシュ政権が推進する大型減税に反対する数人の共和党議員は、共和党支持団体のテレビコマーシャルで「フランス系共和党議員は、イラクの独裁者を倒した際のフランスと同じくらい役に立つ」"裏切り者"と揶揄された。戦争と関係のない政策を通すのにも"愛国心"が利用されているのだ。)

「愛国法」の中身

 しかし、現実には、ブッシュ大統領がテロリストが憎んでいると言ったアメリカの「宗教の自由、言論の自由、投票し、組織し、お互いに意見を違える自由」が、皮肉にも侵されつつある。
 2001年10月、全米が9.11テロのショックにつつまれている間に、議会で十分な議論がされないまま拙速に米国愛国法が成立した(多くの議員が法案に目を通す暇もなかったという)。同法は、国内テロリズムの定義を拡大し(政府に影響を与える意図を持ち、連邦や州の刑事法に違反する人命に危険な行為に関わる活動--中絶反対団体や全米ライフル協会もテロリスト団体と見なされ得る)、警察やFBI、CIAなどによる電子メールを含む盗聴・監視権限を強化するものだ。また、特定の容疑なしに(司法長官が国家安全保障への脅威であると見なしさえすれば)、氏名や拘束場所を明らかにすることなく、外国人(永住権保持者を含む)を拘束することが可能となった。

 実際、9.11テロの捜査として、中近東系、イスラム系男性を中心に1000人以上が何週間、何ヶ月も拘束され、約半数がすでに国外追放されている。何ヶ月も独房に入れられていた人もおり、その間に亡くなったパキスタン人もいる。彼の死が通知されるまで、家族もパキスタン領事館も彼が拘束されていることを知らなかったという。(反戦デモで、ある日突然、政府に連れ去られた家族や知人の名前を書いたシャツを着たイスラム系の女性たちに会った。)FBI捜査官によると拘束された人のほとんどがテロとは関係なかったというが*、未だ600人ほどが拘束されている。

 現金と地図を持ち歩いていたために怪しまれ、移転後10日以内に住所変更を提出しなかった罪で移民局に逮捕された永住権保持のパレスチナ人もいる。(私も永住権保持者だが、住所変更通知の義務があったなどとは知らなかった…。こんな記事も書いているし、私がイスラム系男性だったら逮捕されていたのでは…。)

 他にも、一般市民がインド料理レストランで食事をしていると、突然、武装したニューヨーク警察が押し入ってきて、銃口の下に身分証明書の提示を求められ1時間半拘束されたり、反ブッシュのポスターを部屋に張っていた大学生のアパートに、誰かのタレコミで突然シークレット・サービスが現れ、令状なしにアパートの捜査を迫られるなど(どちらもアメリカ生まれのアメリカ市民)、愛国法の下にアメリカ市民、居住者の権利がどんどん制限されつつある。

さらに強化される愛国法

 さらに、法務省がその存在を否定してきた愛国法II(国内安全保障強化法)案(秘)がリークされたが、これは政府の監視権限をさらに強化するものだ。同法が成立すれば、裁判所の許可なしに捜査当局による盗聴、信用情報や図書館情報の入手、テロに関連すると見なされた人物のDNAサンプルを収集することが可能となる。また、テロの捜査に関しアメリカ市民、外国人を誰に通知することなく期限なしに拘束でき、テロリスト団体の合法活動に、その意図の有無にかかわらず、関与または支援していると判断した市民(中絶反対団体や動物愛護団体に寄付をするとテロリストを支援したと見なされ得る)の市民権を剥奪することもできる。

 残念ながら、こうした新たな法律によって自分の権利が侵されつつあることを認識しているアメリカ人はごく少数だ。アメリカ政府の軌道修正は国内の力、つまりアメリカ人自身の手で行われなければならないと考えるが、彼らが異議を唱える力を削がれてしまえば、果たして誰が唯一の超大国を抑制できるのか… これは日本人にとっても決して他人事ではない。とくに有事法制が成立すれば。

*これはFBI特別捜査官(弁護士)がFBI局長に宛てた内部告発の手紙だが、「FBI本部は実質PR目的のために(外国人の)拘束を奨励した」と書かれている。同捜査官は9.11テロ前に容疑者の情報を入手し本部に提供していたにもかかわらず、本部は何もしなかったとの告発をし、「タイム」誌で"2002年の人"に選ばれている。


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