メディア以外に、アメリカ人の考え方に大きく影響を与えているのが"愛国心"だろう。政府は国民の愛国心に訴えて政策を進め、政府に追従するメディアも愛国心に掻き立てられ、視聴者の愛国心に訴えた。
"非国民"バッシング
アメリカでは、「反戦」「政府の政策に反対」=「非国民」「裏切り者」「反米主義者」「共産主義者」というレッテルを張られるため、反戦グループも、「平和を願うのは愛国的」「私たちも軍隊を支持する。すぐに彼らを帰国させよう」というスローガンを掲げ、星で平和のシンボルを象った平和の星条旗を振った。
政府でも、実は、民主党内に反戦派がかなりいたのだが、「非国民」「裏切り者」のレッテルを貼られるのを恐れ(次の選挙への影響を恐れ?)、声高に反戦を叫ぶ議員は少なかった。現に反戦を叫んだ議員らは、政治的圧力を含め各方面から攻撃を受けた。
「イラクの大量破壊兵器の95%はすでに破棄されている」とし、反戦を訴えていたスコット・リッター元国連査察官(湾岸戦争にも参加した海兵隊将校、諜報部員)も、「非国民」「裏切り者」「反米」「イラク、イスラエル、ロシアのスパイ」などあらゆる中傷を受け、イラクのスパイ容疑でFBIの捜査を受けた。(ロシア出身の夫人もKGBのスパイ容疑で捜査を受けた。)さらに戦争直前には、過去のセックススキャンダルまで浮上し、同氏は戦争前の最後のイラク訪問の中止を余儀なくされた。
マッカーシズムの再来?!
リベラルで民主党支持者が多いハリウッドでも、公に反戦を叫ぶスターたちはあちこちから攻撃を受けた。 女性3人のカントリーバンド、ディクシー・チックスは、ロンドン公演中に「ブッシュ大統領が(同じ)テキサス出身であることが恥ずかしい」と発言したところ(日本でいえば、演歌歌手が海外公演で「小泉首相が同じ神奈川県出身で恥ずかしい」と言うようなもの)、同バンドの曲の演奏をボイコットするラジオ局やCDを叩き割るファンが続出した。バンドは「殺してやる」という脅迫まで受けたそうだ。
サウスキャロライナ州議会では、同バンドに「サウスキャロライナ州民に直接謝罪させ、州の軍人とその家族のために無料コンサートを開催させる」という決議まで通過させた。
ニューヨークの野球殿堂では、「さよならゲーム(Bull Durham)」の15周年記念行事に参加する予定だった同映画出演者、ティム・ロビンズとスーザン・サランドンが戦争反対を公言しており、当日、反戦を訴えるかもしれないという理由(憶測)で行事が中止された。(中止を決定した殿堂の会長は、レーガン大統領の元副報道官。)
Celiberal.comというサイトでは、"反米""反ブッシュ"的コメントを行った芸能人のブラックリストを掲載し、彼らの作品のボイコットを呼びかけている。
平和を願うのは罪?
嫌がらせは、一般市民にも向けられる。反戦イベントでは、「反戦運動を妨害された」「殴られた」という学生らの声がよく聞かれたが、エール大学では、反戦のシンボルとして窓の外に星条旗を逆さに立てていた女子学生の寮の部屋に、男子学生3人が角棒を持って押し入り、反イスラム的メッセージを残していったという事件も起きた。やはり星条旗を逆さに立てていたアイオワ州の大学生2人、コロラド州の店主が「逆さに立てるのをやめないと逮捕する」と警察に脅されている。
各地の高校では、反戦・反ブッシュのTシャツを着て登校した生徒に対し、学校側がそうした衣服の着用を禁止したり、教室での忠誠への宣誓*の際に反戦の印として起立するのを拒んだ生徒が教室を退出するように言われたり、教室内に張った反戦ポスターの除去を拒んだ教師が停職処分を受けるなどの騒動が起こった。
またニューヨーク郊外では、ショッピングモールで買った反戦Tシャツ(「平和にチャンスを与えよう」「地球に平和を」と描かれていた)を着て歩いていた男性がモールからの退去またはTシャツの脱衣を求められ、拒んだところ不法侵入の罪で警察に手錠をはめて逮捕されるという事件も起きている。
家に帰って立てるために「イラク戦争反対」のプラカードをスーツケースに入れてシアトルから飛行機に乗った乗客は、サンディエゴに着き、スーツケースの中から「あなたの反米姿勢には感心できない!」と書いた手書きのメモが出てきてゾッとしたという。シアトルの空港で荷物検査員が入れたものだった。
*多くの公立学校では、毎朝、星条旗敬礼と「(国家への)忠誠宣誓」が行われるが、1940年代にそれを強制するのは憲法違反という判決が出ている。「忠誠宣誓」とは「アメリカ合衆国の旗と、旗が表象する共和国、全民に自由と正義をもたらす不可分の、神のもとなる国家に忠誠を誓います」というもの。
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