イラン、シリア、サウジアラビアも標的
前回紹介したPNACの「アメリカ防衛力の再建−新世紀に向けた戦略、軍事力、資源」では、「湾岸での大規模なアメリカ軍駐留の必要性は、サダム・フセイン政権の問題を超越したもの」としている。
とくに「イランは、湾岸でのアメリカの利害にとってイラクと同じくらい脅威となり得る」と説き、彼らは2002年夏、すでにイランの政権交代、イランへの軍事介入を公然と議論していた(彼らはイラク攻撃、またはイラクでの“民主政権”樹立がイラン国内で反乱を起こすことを期待している)。
サウジアラビアに関しては、やはり2002年夏、軍需政策シンクタンク、ランドコーポレーションのアナリストが、国防政策委員会に「サウジアラビアが悪の中枢であり、テロリストへの援助を止めないのであれば、サウジの油田、海外の資産を“標的”にすべき。サウジの行ないを正すにはイラクの政権交代が必要だ」と進言したとして大きな波紋を呼んだ。同アナリストを招待したのは、同委員会の(当時)委員長、パールだと伝えられている。シリアにいたっては、アメリカ政府によってすでにイラクと同様のプレッシャーがかけられ始めている。
ところで、戦場での作戦まで細かく仕切るラムズフェルド国防長官に、軍からは不満が噴出し、「十分な兵力が送られていない」との批判が相次いだが、これは、何度も同じことを繰り返すには(他の国を同様に攻撃するには)、少数の部隊で安く速く仕上げることが重要だったからだ、という指摘がある。
PNACの賛同者、関係者には、ブッシュ政権、レーガン政権時代の閣僚や官僚以外にエール大学やハーバード大学の教授などもおり、超エリートばかりだ。彼らは、単純に心から“アメリカの軍事力支配による平和”を願って他国を攻撃することを考えているのか? それともほかにも要因があるのだろうか?
やはり背景にはイスラエルが
ブッシュ政権の中心人物、PNAC賛同者らには、シオニスト(ユダヤ系民族主義者)が多い。PNACはイスラエル支持を公然と表明しており、イラク攻撃の背景にはイスラエルの安全保障が見え隠れする。
3月に口利きスキャンダルで委員長を辞任したパール国防政策委員は、ユダヤ人国家安全保障研究所の理事であり、96年、当時のネタヤナフ首相の政策立案に寄与した(A
Clean Break)ほどのイスラエル支持者だ。同じく政策立案に関わったフェイス国防省政策担当次官は、武器メーカーを含む多くのイスラエル企業をクライアントにもつ弁護士でもある。
このA
Clean Break(「大転換」)は、それまでのオスロ合意に象徴される「土地と平和の交換」政策から決別し、「報復だけでなく、先制攻撃の原則を復活させた」新しい政策を進言するものである。「2000年ユダヤ人が抱き続けてきた土地への権利主張は、合法かつ崇高なもの」であり、「アラブ人による我々の権利の無条件な受け入れだけが」将来の礎となるとし、シオニズムの復活、アメリカとの新たな関係作りを唱えている。
現在、国防省と国務省のあいだで、戦後イラクの暫定政権人事をめぐり、激戦が繰り広げられているが、できるだけ早くイラク国民主導の政権を築こうという国務省に対し、イスラエルとのつながりが強い元CIA幹部など、親イスラエルのネオコンらを閣僚につけようとしている。
イラク暫定政権の統治責任者に内定されているガーナー退役陸軍司令官も、ネオコンほどではないものの、イスラエル寄りの人物である。アラブ世界が「アメリカはイラクに親イスラエル政権を築こうというのか?!」と思っても無理はない。
(次回はさらにもうひとつの関わりについて)
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