イラクが9/11テロに関与していたという証拠を提出しないまま、ブッシュ政権は、恐怖心に煽られたアメリカ国民に対し、「襲われる前に襲え」という"論理"で、イラク攻撃と9/11テロを"感情的"に結びつけることに成功した。
しかし、イラク攻撃は、2001年に9/11テロが起こるずっと前に、ブッシュ政権を牛耳る「ネオコン(新保守主義派)」グループによって企てられていたのである。
新アメリカ世紀プロジェクト
チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウルフォウィッツ国防副長官、リビー副大統領首席補佐官、先日、辞任したパール国防政策委員会委員長など、ブッシュ政権の中枢を担う面々10人が賛同者として名を連ねる団体がワシントンDC(タカ派政策シンクタンクのAEIと同じビル)にある。1997年に設立された「新アメリカ世紀プロジェクト(PNAC)」という政策シンクタンクだ。
創立者のウィリアム・クリストルは、保守系政治誌「ウィークリー・スタンダード」(タカ派メディア、FOXニュースを所有する富豪マードックが資金提供)を発行しているが、ブッシュ(父親)政権時代、クエイル元副大統領の首席補佐官を務めた人物でもある。
PNACの設立趣旨は、「軍事力を積極的に行使し、アメリカの価値観を世界に普及させる」というもので、「パックス・アメリカーナ(米国支配による平和)」を公然と唱える。このPNACが2000年9月に作成した「アメリカ防衛力の再建-新世紀に向けた戦略、軍事力、資源」が、現ブッシュ政権の国家安全保障戦略の基本となっていると言われている。
趣旨は、「今、アメリカには世界的にライバルとなる国はない。この有利な立場を維持し、できるだけ遠い将来まで堅持できるような戦略が必要。アメリカの軍事力が衰退すると平和が崩れる。レーガン政権時代の巨大な軍事力をベースにした強いアメリカを再現しよう」というもので、それを達成するために、(すでに世界でダントツの)防衛費をさらに増大するように訴えている。それに呼応するかのように、アメリカの2002年度国防予算は前年度比9%増、冷戦終結後、過去最大の増額となった。(ちなみに、同レポートでは、新たな核兵器の開発も提議されている。)
ずっと前から企てられていたイラク政権交代
同レポートでは、ブッシュ大統領が"悪の枢軸"と呼んだイラク、イラン、北朝鮮は、危険国として挙げられており、こうした危険な国を抑止するための軍事力行使がうたわれている。それに必要なのは「新たな真珠湾攻撃となる大惨事」だったのだが、それが2001年9月11日に訪れたのである。(9/11テロに関しては、ブッシュ政権は事前に知っていたが何も手をうたなかった、という説がある。)
PNACは、9/11テロの1週間後、ブッシュ大統領に宛てた書簡で、同テロを「イラク政府が支援したかもしれない。たとえイラクとこのテロを直接結びつける証拠がなくても」、テロ対策にはフセイン政権の打倒を含まなければならない、と進言している。ウルフォウィッツとラムズフェルドは、9/11テロが起こって24時間も経たないうちに、イラク攻撃を唱えていたという。
それどころか、その3年前の98年にクリントン大統領に宛てた書簡で、PNACはイラクの政権交代を訴え、必要であれば武力をも行使する権限がアメリカにある、と促していた。(その年の12月、クリントンはイラク爆撃を実行した。)
実は、上記のPNACのレポートは、ブッシュ(父親)政権時の92年、当時のチェイニー国防長官の下でウルフォウィッツ国防省政策担当次官が中心となって、冷戦終結後の新しい世界体制の青写真を描いた「防衛計画指針(DPG)」が土台になっている。DPGでは、潜在的競合国(とくにドイツと日本)が、アメリカのリーダーシップに挑んだり、地域的にも、世界的にもより大きな役割を担うことを願わないような仕組みを維持することが必要だと説かれ、主にイラクと北朝鮮が脅威として描かれていた。92年当時、「防衛費の増大を招く」という批判を受けて葬られたDPGが、11年後の今、ブッシュ(息子)政権の防衛計画としてよみがえったのだ。
なお、PNACの趣旨、防衛計画レポート、大統領に送った書簡、賛同人リストなどは、http://www.newamericancentury.org/に掲載されている。PNACに関しては、「報道特集」などのTV番組で日本でも紹介されている。
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