多くのアメリカ人が吹き込まれているように、今回の戦争が大量破壊兵器廃棄やイラクの民主化のためでないことはわかっていた。アメリカ政府が唱える戦争目的は、いつの間にか「大量破壊兵器廃棄」から「政権交代」にすり返られていた。(私は先日、近くの大学で開かれた元国連査察官のスコット・リッター氏[日本の国会でも演説を行った]のスピーチに出席したが、彼は「イラクの大量破壊兵器は96年時点で95%がすでに破壊されていた」と主張している。)
中近東に本当に民主化が訪れれば、サウジアラビアやヨルダンなどでは、イスラム教原理主義者らが台頭し、(親米だったパーレビ国王を追放した)革命後のイランのように反米政権ができる可能性が高い。アメリカがイラクに築こうとしているのは民主国家ではなく、「親米政権」である。アメリカ政府は、戦後のイラク暫定政権の閣僚に23人のアメリカ人を据える計画だという。
一方、戦争反対派のいう「石油のために血を流すな」では、説得力のある裏付けが聞こえてこない。石油がからんでいるのは確かだろうが、なぜそんなに急いで戦争をしなければならないのか?
--私には不思議で仕方がなかった。なぜ今、戦争が起きているのか、本当の理由を知りたいと思った。そこで少し調べてみたところ、それが浮かび上がってきた。
ドルからユーロに移行しつつある石油通貨
OPECによる石油取引はドル建てである。(今、ドルが世界の基軸通貨となっているが、これは石油取引がドル建てになっていることと大きな関係がある。)しかし、今、OPEC内にユーロ建てに移行しようという動きがある。
イラクは2000年に石油販売をドル建てからユーロ建てに切り替えた。その後、ヨルダンがイラクとの石油取引にユーロを利用すると発表した。現在、イランがユーロへの切り替えを進めており、リビアもユーロへの切り替えを唱えている。ユーロへの転換をちらつかせていたベネズエラにいたっては、ドルでの取引をやめ、他の開発途上国とバーター取引を始めている。(ちなみに、昨年のチェベス政権打倒クーデターにもブッシュ政権がからんでいた。)
また、中国やロシアが外貨準備金の一部をドルからユーロに変換しており、他の国々もユーロの比重を高めつつある。それでなくとも、対ユーロのドルの価値はどんどん下がっているのだ。
つまり、ドルが基軸通貨としての地位を失いつつあるわけだ。石油通貨がドルからユーロに変われば、アメリカ経済は大パニックとなる。アメリカは、貿易収支の赤字を拡大し続ける世界最大の借金国なのである。アメリカが急いでイラクを攻撃しなければならなかったのは、石油産出世界第2位のイラクを押さえ、OPECを支配する必要があるからだ。
皮肉にも、今回、アメリカが国際社会の反対を押し切って武力行使に出たことで、ドルからユーロへの切り替えに拍車がかかるものと思われる。北朝鮮は、12月に取引通貨をドルからユーロに切り替えたと報じられている。
(ここでは実に簡単にしか解説できませんでしたが、さらに詳細を知りたい人は下記のレポート[英語]を参照してください。同様の分析は、日本語でも非主流メディアによって行われています。)
http://www.ratical.org/ratville/CAH/RRiraqWar.html(詳細レポート)
http://www.feasta.org/documents/papers/oil1.htm(上記の要約)
http://ist-socrates.berkeley.edu/~pdscott/iraq.html(石油通貨だけでなくアメリカの石油確保政策にも言及)
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