<アメリカ西海岸便り>

バカ高いアメリカの医療費


つい2週間ほど前に、カリフォルニアに住む日本人の友人Jさんが子宮筋腫の手術を受けた。今まで手術など受けたこともない私。彼女の体験を通じ、アメリカの医療の実態を知った。

Jさんは、手術前に、「手術の当日、退院する」と言っていたので、私はてっきり大した手術ではないのだと思っていた。しかし、よく聞いてみると、全身麻酔をかけるので、本来なら、手術後、せめて一日、入院して安静にした方がよいのだが、入院費用を保険でカバーしきれないかもしれないので、「這ってでも当日、家に帰りたい」とのことだった。

手術当日の話。手術後、目を覚ました途端、看護婦に「アンタ、2時間寝過ぎ」と言われ、突然ばんそう膏をはがされた。麻酔が切れかかって悪寒がしているのに、毛布の一枚もなく、頼んで初めて持ってきてくれる。そして、15分毎に、看護婦が「もう起きれるか。車イスに乗れるか」とチェックしに来る。後に続く患者のために、早くベッドを空けたいからだ。やっと、車イスに乗れるようになったが、誰も助けには来てくれず、自力で車イスに乗らなければならなかったということだ。

退院して一週間ほどすると、病院から請求書のコピーが届いた。施設使用料として$8、200(約82万円)請求されていた。(請求書は、直接、保険会社に送られており、本人がこれを全額支払うわけではない。)その後も病理科、麻酔科などから、皮膚組織検査料約5万円、麻酔料約8万円、血液検査約3万円の請求が次々と届いた。結局、計100万円近くの治療費がかかったわけだ。

Jさんの場合、海外旅行保険に加入しているため、全額保険でおりるはずだが、何を理由に保険料の支払いを断られるかもしれない。アメリカでは、治療を受けた際には必ず、「もし保険会社から治療費が支払われなかった場合、必ず自分で支払います」という宣誓書に署名させられるのだ。ちゃんと保険がおりるまで安心はできない。

Jさんは、今回の手術で、腫瘍をすべて摘出できず、近いうちに再手術をして子宮を摘出しなければならない。今回の手術は、腹部に小さな穴を開けてカメラを通しただけで、開腹手術をしたわけでもなく、病院にいたのは半日だけ。それで100万円もかかったため、「次の手術はいったいいくらかかるのか」と心配している。入院すれば、一日十万円以上請求されるのだ。

アメリカで出産当日に退院する女性が増えているのも、医療費の高騰が原因だ。アメリカ人の友人は、出産の際に、ティッシュ・ペーパー2000円、脱脂綿2000円を請求され、「私は、自分でティッシュ・ペーパーも脱脂綿も持参した」と憤慨していた。

アメリカには、日本のような国家健康保険はない。ここ数年、国家保険制度を導入するかどうかで激しい議論が続けられている。

国家保険がないアメリカでは、皆、どうやって医療費を払うのか?個々で、保険会社の保険に入るわけだが、会社に勤めている場合は、会社が入っている保険に加入することができる。しかし、必ずしも会社が掛金を全額負担してくれるわけではなく、一部だけ負担してくれたり、中には保険がまったくないところすらある。

掛金が払えず、保険にまったく加入していないアメリカ市民、在米外国人は少なくない。

「アメリカの医療費は高い」とよく言われるが、丈夫な私などは、医者に通っても、せいぜい湿疹や膀胱炎くらいなものなので、医療費は高くても2万円ほど。それも、私の場合、ずっと海外旅行保険に入っており、医療費は100%保険でカバーされるため、医療費を心配したことはあまりなかった。

日本の健康保険料も決してバカにはならないが、保険証さえ持参すれば、国に治療費支払を拒絶される心配をすることはない。やはり、健康保険は国家保険があった方がいいと、今回、痛感した。

皆さまもアメリカへ旅行の際は、くれぐれも海外旅行保険への加入をお忘れなく。


有元美津世/N・O誌1996年10月号掲載 Copyright GloalLINK 1996

Revised 11/18/96 ma

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