米国ニュービジネス発掘−30−

学校へのコンピュータ導入支援
生徒の学習意欲や出席率が向上

会社名:NetSchools,inc.
設立 :1996年
代表者:Scott Redd
URLhttp://www.netschools.net

教育現場にコンピュータ導入
  97年の調査では、アメリカの学校でのコンピュータ導入数は9人に1台の割合であったが、米国教育省では、これを5人に1台に増やす計画である。

 そうした中、生徒ひとりに対しコンピュータ1台を目指している企業がシリコンバレーにある。ネットスクールズでは、幼稚園から高校までを対象に、ハード、ソフト、コンサルティングを含めたトータルソリューションを提供している。

 同社特製のラップトップ、『スタディプロ』は、落としてもこわれないようにマグネシウムケース入りで、キーボードは防水加工が施されている。バッテリーは4〜8時間もち、コストを抑えるため、ハードドライブはついていない。

 インターネットには、教室の天井に取りつけられた素子を通じ、赤外線LANで4MBという高速で接続されている。盗難にそなえ、学校のLANにつながらないと『スタディプロ』は作動しないようになっている。また、自宅からでもインターネットに接続できるよう、モデムが搭載されている。

 ネットスクールズでは、カリキュラムやネットワーク通信を管理するソフト、アカデミックインフォメーションシステム(AIS)も開発しており、教師は、生徒の電子メール、インターネット、ソフトウエアへのアクセスなど、教室内で生徒のコンピュータをリアルタイムでモニターし、管理することができる。

 教室で生徒が『スタディプロ』を開けると自動的に出席が取れ、教材や宿題は自動的にラップトップにダウンロードされ、生徒がウエブからダウンロードした資料を教材に取り入れることもできる。『スタディプロ』上のファイルは、自動的にサーバ上でバックアップされている。

 ネットスクールズでは、各学校に『スタディプロ』、サーバ、ワイヤレスネットワーク、教師用ラップトップ、1年間の技術サービスを含むセットで提供しているが、サービスは各学校に合わせてカスタムメードである。サービスには教師向け指導が含まれており、ネットスクールズの講師は、教育技術の経験をもつ教員免許保持者である。

 同社では、現在、全米各地の15校でパイロット試験を行なっており、対象校は1校を除いて、すべてが公立学校である。「当社では“公平(均衡?)”であることを大事にしており、一定の社会経済層をターゲットにするのではなく、あらゆる層をターゲットにしています」と最高責任者のスコット・レッド氏は言う。99年夏には、パイロットを終え、99年末までには参加校を50校に増やす予定である。

 パイロット校では、生徒の出席率ややる気が向上し、問題が減るなどの効果が見られているという。パイロット校のひとつでは、生徒の95%が毎晩自宅でラップトップを利用している。親は独自の電子メールアカウントを持ち、定期的に教師のメールを読むことを義務付けられており、教師と直接通信ができる。これは、親を子供の学校教育に参加させるのに役立っているという。

 同社のサービスのコストは、生徒1人あたり2000ドル以上であり、どの学校にとってもコストがコンピュータ導入の大きなネックとなっているが、「学校がいったんそのメリットを理解すれば、資金調達は問題ない」とレッド社長は語る。資金調達方法は各学校次第であり、地元の税金、連邦政府や財団からの補助金、地元の教育委員会、融資などさまざまな方法が取られている。各家庭で費用を負担するという方法もあるが、そうすると家庭の経済状況によりコンピュータを購入できない生徒が出る可能性があるため、“公平性(”均衡性”?)を重んじるネットスクールズでは避けたい方針だ。

巨大な教育テクノロジー市場

   ネットスクールズは、ジェームズ・デゼル会長が38年勤めたIBMを定年退職して設立した。デゼル会長は、IBM時代に、学校市場を対象に新たな技術の開発に専念するエジュクエスト部門の設立を提案し、同部門の長として成功に導いた実績を持つ。同社では各校区に精通した営業スタッフによる直接営業を行なっているが、営業部門は、同会長および副会長が住むアトランタに置かれている。

 スタートアップ時期を過ぎたネットスクールズを次の段階に導くために、最近、海軍を退役したばかりのレッド元中将を最高責任者に迎えた。「ほとんどの軍人は退役すると防衛産業に就職するが、別のことをやりたかった。妻と娘が教師でもあり、米国にとって大きな課題である教育問題に取り組みたい」とレッド社長は抱負を語る。

 同社はベンチャーキャピタルより3000万ドルの資金を得ており、ハードウエアはサムソン、ソフトウエアはマイクロソフトと提携している。

 全米の生徒数5000万人、50億ドルといわれる教育テクノロジー市場には、以前から各コンピュータメーカーが進出しており、最近では、ソニー・プレーステーションコンソール向けPCおよびウエブベース教育プログラム、教育市場向けウエブTV、ネットワーク上で広告を流す代わりに、PCやサテライトベースのインターネット接続を各学校に無料で提供するプログラムなど、シェア争いは激化している。

 しかし、「非常に複雑な問題に対し、トータルソリューションを提供しているのはネットスクールズだけ」とレッド社長は自負する。コンピュータ導入の鍵は、教室での学習にテクノロジーを効果的に取り入れられるかであり、教師のトレーニングは不可欠であるが、他社は、教師のトレーニングまでは行なっていない。

また、ワイヤレス通信を導入しているのも同社だけであり、ワイヤレス利用により各学校に回線やケーブルを引く必要がなく、導入が容易であると同時に、コストの抑制につながっている。

 21世紀の生徒のニーズに合った革新的学習環境を創造すると同時に、技術、勉強に対する子供たちの関心を向上させるため、ネットスクールズでは、今後、全米のすべての生徒がコンピュータを持てるよう、コストの削減に努めていく構えだ。



有元美津世/ベンチャーリンク誌1999年6月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-1999
Revised 6/25/99 web2@getglobal.com
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