米国ニュービジネス発掘−43−

2万点をマルチチャネル販売 高齢者向け製品専門ショップ

会社名MatureMart
設  立:1995年
代表者Alexis Abramson
URLhttp://www.maturemart.com


 現在、アメリカの65歳以上の人口は約3500万人。今後、ベビーブーム世代がこの層に突入し、2030年には全体の20%の7000万人が65歳以上となると予測されている。シルバー産業はアメリカでも成長産業として期待が大きい。

 この成長市場をターゲットに、高齢者向け製品2万点を小売店、通販、インターネットなどを通じて販売している会社がアトランタにあるマチュアマートだ。

 同社が扱う商品は、関節炎用補具から浴室用品、台所用品、コミュニケーション補具、ギフトセットまでと幅広い。
 
 具体的には、自動車のドアオープナー、握力を要さず持ちやすい食器や皮むき、びんオープナー、印字の大きいトランプやゲーム、自動トランプシャッフル機、ボタンの大きいリモコンといった商品を販売している。

 価格は数ドルからで、ほとんどの商品は20〜30ドル。一番人気があるのは、自動車乗り降り用回転イス、首からかけられるハンドフリー拡大鏡、緊急時にボタンひとつで911(日本の110と119にあたる)と双方コミュニケーションが可能なアラーム付き携帯電話、「モバイル911」だそうだ。

 商品は27社のメーカーから購入しており、マチュアマート独自のブランドもOEM製造をしている。同社独自で発明した製品もあり、特許申請中のものもある。高齢者が「こうした製品があればよいのに」という製品アイデアを提供する場合も多いという。

 老人学で修士号を持つアレクシス・エイブラムゾン社長は、シニアセンターでコーディネートとして働いていた際、センターを訪れる高齢者向け製品を小売店、通販カタログなどを通じて探したが、製品を見つけるのが大変であったことから、高齢者向けワンストップ・ショップの創業を決意。6〜8ヶ月かけて2万品目の製品データベースを構築した。

 「データベースを構築したものの、どう展開してよいかわからなかった。資金は親から借りた5万ドルしかなかった」というエイブラムゾン社長は、95年にウエブサイトを立ち上げた。まずは、インターネットをマーケティングツールかつリサーチツールとして利用することにしたのだ。

 当時、アメリカでもインターネット人口というのはごくわずかであり、特に高齢者やその介護者の層でインターネットを利用するというは稀であった。しかし、数ヶ月後にはヒット数は月3万に達した。ウエブサイトでは「ユーザーの何割がどの情報を見ているか」ということが把握でき、その後のビジネス展開に大きく役立ったという。

 そしてエイブラムゾン社長は96年末、ようやくショッピングモールにキオスク(売店形式の簡易店舗)一号店をオープンする。

 「高齢者向け製品が介護者にとってギフト用品として受け入れられるかどうかを試したかった」(エイブラムゾン社長)からだ。その結果、同店はショッピングモールに入っている他のキオスクよりも売上が2割多いという好業績を得た。エイブラムゾン社長は「ここで高齢者向け製品がギフト用品として受け入れられることがわかった」と自信を深めたという。

 実際、現在の同社顧客のうち75%は高齢者自身ではなく、介護者で占められている。

 高齢者の間には同社製品に対し「そんなものは必要ない」といった反応が多いらしいが、プレゼントでもらって使ってみると便利だということがわかり、受け入れる人が増えているという。将来的には介護者と高齢者を半々にするのがエイブラムゾン社長の理想である。

 さて、このキオスクでの好業績はその後、思わぬ効果をもたらすこととなった。大手スーパーのバイヤーの目に留まり、そのスーパーが経営する薬局800店でも同社の製品を販売することになったのだ。現在、同社の売上高の半分以上はこうした店頭販売、およびTVショッピングやカタログによる通信販売ルートで占められている(図表参照)。

 同社は昨年11月、ウエブサイト上で高齢者向け製品のオンライン販売を開始した。同社のサイトでは、顧客のリクエストに応じて字は大きく、ナビゲーションがしやすくなっている。注文は電子メールのほかに、フリーダイヤル、ファックスでも受け付けている。現在はまだ店頭販売や通信販売に比べて全売上高に占める割合は少ない(15%)が、「今後はこのオンライン販売が大きく伸びる」と同社は予測している。オンラインオークションやゲームなど、ウエブサイトのコンテンツもさらに充実させていく予定だ。オンライン上での同社製品の卸販売にも力を入れる予定だという。

 同社では、全業務の8割をアウトソースしているが、コールセンターを含めたフルフィルメント業務がその中核を占める。社内のスタッフは15人のみで、マーケティング、バイヤー、経理を務める。エイブラムゾン社長の母親フィリス氏と祖母ローズ氏も同社で勤務。87才のローズ氏は、受付を行なうかたわら、オンラインで月間コラム「ローズおばあちゃん」を執筆している。高齢者のニーズを理解するローズ氏は同社にとって貴重な存在だ。介護者世代を代表するフィリス氏は、看護学の学位、心理学で博士号、コンサルタントとしての経験を持つ。

 同社の売上高は96年の15万ドルから数十倍に伸びており、多くの有名ECビジネスが膨大な赤字を抱える中、同社は黒字経営だ。インターネットだけではなく、小売店、カタログなどを通じたマルチチャネルがその成功要因といえるだろう。「皆、やはり実際に商品を手にとってみたいのですよ」とエイブラムゾン社長は笑う。

 同社のさらなる成長を目指し、エイブラムゾン社長は昨年、友人や家族から100万ドルの資金を調達した。将来、メーカーと戦略提携を交わす、出資を受けるといった形で、提携先を拡大していく構えである。

 また、本格的な海外進出も企画中だという。現在、海外販売ルートでの売上高は全体の5%だが、同社には世界35カ国から商品購入の依頼が来ている。数年前、日本の新聞で紹介された際には、日本からの問い合わせが殺到したという。

 「まず国内市場の基盤を確固たるものにし、1年〜1年半後に海外に進出を果たしたいと計画中です。」(エイブラムゾン社長)

販売チャネル別売上の割合

スーパーなど店内販売 40%
通販カタログ・電話注文 20%
TVショッピング 15%
ウエブサイト 15%
老人ホームなどへの訪問営業 10%



 

有元美津世/ベンチャーリンク誌2000年7月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 8/1/2000 web2@getglobal.com
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