米国ニュービジネス発掘 −最終回− 

インターネットはいまや 米国ニュービジネスの基盤

 

 1999年ごろから、「ニュービジネスといえばインターネット関連ビジネス」という傾向が強くなり始めた。

 この連載でも昨年から今年にかけて、インターネットを使って電子切手を販売するStamps.com(99年3月号)、インターネット上でダイエットプログラムを展開するeDiets(99年9月号)、インターネットを使って建設業界のプロセスを効率化させるBidcom(99年12月号)、健康ポータルStayhealthy.com(00年9月号)などのeビジネスを紹介してきた。

 それに加え、学校でのインターネット普及を促進するNetSchools(99年6月号)、エレベーターにインターネット用スクリーンを設置するCaptivateNetwork(00年4月号)など、インターネット環境をサポートするビジネスも目立った。
 さらに、インターネットをベースにしたビジネスでなくても、ほとんどの企業がウエブサイトを持ち、宣伝ツールなどにインターネットを利用している。

ツールとしてのインターネット

 インターネットが登場した頃は、「中小企業も大企業と同じ土俵で勝負ができる」「より大きな市場、グローバル市場に進出できる」といった点ばかりが強調された。
 しかし実際には、もっと身近な使い方――たとえばインターネットを既存の顧客や供給業者とのコミュニケーション、取引を向上させるためのツールとして利用しよう、という中小企業が増えている。

 Atkinson-Baker(00年3月号)では、派遣法廷速記者やデポジションの手配依頼を、電話、ファックスだけでなく、インターネット上でも受け付けている。
 さらに、同社のウエブサイトでは、クライアントである法律事務所が事務所全体の各弁護士が担当するデポジションスケジュールをカレンダー方式で確認できるようになっている。こうしたセルフサービス機能の追加により、オンラインの予約件数は1年で40倍に急増した。

 カリフォルニアで離婚調停サービスを行うDivorce Wizards(99年5月号)では、オンラインでセルフサービスのオンライン離婚手続きサービスを提供している。オンラインでサービス契約書を送付し、かつ質問用紙に必要事項を記入してクレジットカード番号を入力すれば、24時間以内に離婚手続きに書類が作成され、郵送されてくる。このオンライン申請部分をよりわかりやすく、使いやすく改装してから、オンラインでの注文が増えたという。

 こうした顧客セルフサービス機能は、顧客サービスの充実、顧客の満足度向上、ひいては顧客囲い込みにつながる。顧客の多くは、自分の手で購入決定・注文プロセスをコントロールしたい、出荷状況や修理状況を自分の目で確かめたいと思っている。

 eビジネスの基本は、ユーザーに情報やツールを与え、購入プロセスを自らコントロールできるようにすることだ。同時にセルフサービス機能は、運営者側にとっては、注文プロセスの効率化をもたらし、運営コスト削減につながる。
 また、企業用研修ゲームを開発するTotalRebound(00年5月号)のように、ウエブサイトをあくまでも宣伝ツールとして利用しているところもある。

 これまで、中小企業の広告媒体といえば電話帳が主流であったが、インターネットがそれに取って代わろうとしている。ウエブサイトを広告宣伝ツールとして用い、売上が50%伸びたという中小企業もある。
 インターネットというと、とかくオンライン販売を考えがちだが、なにも誰もが商品をオンラインで販売する必要はない。オンライン販売には適さない商品やサービスもある。

 現に2003年までにインターネットの利用によって、オンラインの5倍にあたる5000億ドルのオフラインの取引が生み出されるといわれている。要はインターネットを使って、収益性を上げられるかどうかだ。それは、プロセスの効率化、コスト削減、顧客サービスの向上など、さまざまな形で可能である。

マルチチャネル販売

 先に紹介したDivorce Wizardsでは、オンライン以外に、ファックス、郵送、フリーダイヤルで申し込むこともできる。バーチャルチーズケーキ販売店のChef Sanborn(99年10月号)やスポーツイベントのデジタル写真撮影・販売サービスのPhotoCrazy(00年6月号)でも同様だ。顧客に多様な選択肢を与えることが、購入を容易にし、顧客サービスにつながる。

 高齢者用アイデア商品販売のMatureMart(00年7月号)では、インターネットだけではなく、小売店、カタログ通販、TVショッピングなどマルチチャネル販売を行っている。
 オンライン進出によって、既存の顧客層を食うのではなく、新たな顧客、特にオフラインとは異なる顧客層を獲得している既存企業は多い。
 事実、マルチチャネル小売業者の方が利益の出ている割合が高く、顧客獲得コストも、オンライン小売業者や店舗ベース業者に比べ、低いという調査結果も出ている。

 インターネットが登場した頃、オンラインストアがオフライン店舗に置き換わるようなことがいわれたが、すべてがオンライン化すれば顧客は満足するというわけではない。
 実際に商品を手にとってみたいという消費者は多いし、カタログで見てオンラインで注文、オンラインで見てフリーダイヤルで注文をするという消費者は多い。顧客のその時々のニーズに合わせ、オンライン、電話、ファックス、店頭で購入、サービスが利用できるようにするということがカギなのだ。インターネットはチャネルの一つに過ぎないのである。

 今後、インターネットが販売チャネルの一つとなったマルチチャネル販売が主流となるだろう。
 大事なのは、インターネットを単独、単体として扱うのではなく、企業として、どのようにインターネットを既存の経営戦略に取り入れるか、ということだ。中心にあるのは、経営理念、経営方針、経営戦略であり、インターネットではない。
 問わなければならないのは、「我社は何のために存在し、誰に対し何を提供するのか、それを行うにあたってインターネットをどう使えるのか」なのである。
 


有元美津世/ベンチャーリンク誌2000年10月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 11/1/2000 web2@getglobal.com
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