米国ニュービジネス発掘−37−

法人顧客獲得で急成長中 
バックアップ託児サービス

会社名:ChildrenFirst
設  立:1992年
代表者:Rosemary Jordano
URLhttp://www.childrenfirst.com

全世帯の45%が共働き、6歳以下の幼児を持つ母親の65%、6〜13歳の子供を持つ母親の78%が就労しているアメリカでは、託児サービス産業は300億ドルと言われている。中でも、もっとも急速に伸びているのが、バックアップ(代替)託児サービスだ。

 バックアップ託児サービスとは、日ごろ利用しているベビーシッターや託児所が何らかの理由で使えない場合に、子供を預けられるサービスだ。たとえば、ベビーシッターが病気などで突然来られなくなったり、公休日で学校が休み(アメリカでは企業は祝日も営業している場合が多いため)、産休開け、出張時、転勤時などに利用される。

 企業内託児所は、預かれる子供の数に制限があり、ウエイティングリストがあることも珍しくない。大金をかけて作っても使える社員数は限られるというわけだ。

 現在、全米の企業の10%がフルタイムの託児所を運営しているのに対し、15%がバックアップ託児サービスを提供しており、5年前に比べ300%増を示している。フルタイムの託児所からバックアップ託児所に移行する企業も増えている。

 唯一、全米規模で、バックアップ託児を専門に行っているのがボストンに本社のあるChildrenFirstだ。
 「親の7割がベビーシッターなどを雇って自宅での世話、または自宅近くでの託児所を選んでおり、企業にフルタイムの託児サービスを求めているわけではないのです」と同社のマーケティング・ディレクター、マーク・バス氏は語る。

 ChildrenFirstでは、複数の企業と提携し、コンソーシアムを作り、会員企業の社員にバックアップ託児サービスを提供している。  クライアント企業の半分が福利厚生の一環として、託児料を負担。あとの半数は利用ごとに社員に10〜25ドルを負担させている。

 社員は、一般に、年に20回の利用を認められており、産休明けなどの場合には、特別にさらに20日など、特別な処置が取られる。

 現在、登録子供数は2万人。フルタイムの託児所200の収容数である。クライアント数は200社、クライアント保有率は99%にのぼる。

 ChildrenFirstの創立者、ローズマリー・ジョーダノ社長は、大学で心理学、大学院で発達心理学および経営学を専攻。研究を通じ、既存の託児所の質に疑問を抱き、高品質の託児サービスの提供を思いつく。

 スタンフォード大学ビジネススクール時代に、託児サービスの事業計画書を作成したが、教授に「それは社会福祉の仕事。ビジネスではない」と言われたという。

 MBA取得後、ウォールストリートで金融アナリストとして勤務したが、託児サービスの夢を捨てきれず、創業に至った。  92年に、ボストン、そしてニューヨークにクライアント企業向けバックアップ託児所を開設。その後、コンソーシアムのコンセプトを考案し、93年、ボストンに初のコンソーシアム用託児所をオープンした。

 同社のクライアントの4割が全米に支社を持つ企業で、一ヶ所にオープンした後、他の支社にもオープンする場合が多く、そのクライアントのニーズに合わせ、他の都市にも拡大してきた。

 現在、ニューヨーク、ボストン、シカゴ、ロサンジェルス、サンフランシスコなどで20センターを運営している。
 各センターは、約20社の企業、2000人の登録子供に対応できる。 対象年齢は3ヶ月から12歳。営業(開園?)時間は8〜6時、または7〜5時の10時間だ。利用はすべて登録制で、写真付き身分証明書の発行、予防接種などを義務付けている。実際の利用は予約制で、30日前から当日まで受け付けている。

 各センターにはフルタイムの保育士5〜7人が常駐し、一日に20〜50人の子供を預かる。保育士・子供の率は、乳児では1:1、小学生では1:8から1:10と、業界平均に比べ保育士の数が多い。また、保育士には、大学または大学院で幼児教育あるいは初等教育の専攻者のみを採用。センター長は全員修士号を取得している。

 利用には写真付き身分証明書が必要で、警備員配置、ビデオモニター、安全性を考えた建築、病気の子供は受け付けないなど、安全面を重視している。また、毎日、活動、食べたものなど、各子供に関する日誌を保育士がつけて親に提出する。

 同社のセンターはすべて、全米小児教育協会の認定を受けているが、営利託児ビジネスのうち、認定を受けているのは5%に満たない。「高品質の託児サービスの提供、業界の標準を向上させるというのが当社の使命です」とバス氏は語る。

 ChildrenFirstでは、優れた託児所を提供することが従業員の生産性の向上、士気の向上につながることを企業のCEOや上級管理職に啓蒙してきた。アメリカでは、社員の8割が子供関連の理由で仕事を休み、働く母親は、平均して年に8.5日欠勤すると言われている。こうした欠勤は、アメリカ企業にとって年間30億ドルのコストにつながっている。

 たとえば、投資銀行、J.P.モーガンに13年勤める女性は、出産後、託児所を見つけられず、人事に退職願を提出しに行ったところ、託児所が見つかるまで、会社が提供しているバックアップ託児サービスの利用を勧められた。このサービスの利用によって、彼女は退職することなく、会社も優秀な社員を失わずに済んだわけである。またこの経験によって、この社員は会社に感謝の念を抱き、会社へのロイヤルティも向上したという。また、別の女性は、他社からの引き抜きの話もあるが、他社ではバックアップ託児サービスがないので、転職するつもりはないという。

 一般に、バックアップ託児サービスへの投資1ドルに対し、社員の欠勤の減少、生産性の向上、退職率の低下により、3〜4ドルの収益があるといわれ、企業は1年以内に元を取れるそうだ。
 また、フルタイムの企業内託児所を設けるには、何百万ドルもかかるにもかかわらず、ひとつの託児所が収容できる子供の数は100〜150人、社員75〜100にすぎない。

 それに比べ、ChildrenFirstの会費は、従業員数により28800ドル(従業員300人以下)からで、1500〜2500人の登録子供を預かることができ、全社員が利用できる。企業内託児所の設置など不可能な中小企業でも利用可能である。

 ChildrenFirstでは、新たに10センター開発中で、今後、年に10センターずつ増やしていく計画だ。
 営利事業を通じて社会変革を行えることを証明したジョーダノ社長。スタンフォード時代の教授は「私は間違っていた」と認めたそうである。
 
 


有元美津世/ベンチャーリンク誌2000年1月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 1/25/2000 web2@getglobal.com
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